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第九話

「おはよう、母さん」

栄都が階段を降りてキッチンへ向かい、挨拶をする。

「おはよう…体の具合はもう大丈夫なの?」

「平気平気、こんなの何の負担にもならないって…むしろ負担になってるのは」

「なんなの?」

「…やっぱりいいや、それより早く出ないと遅刻しちゃうよ」

栄都は朝食を食べ、支度をする。

だが彼の調子はあまり良くはなかった。

寝不足と体の過労である。

何故そのような状況になってしまったかといえば、ALOの新しい技と、公家のように作るためであった。

そしてそれはもうそろそろ完成しつつある。それが完成すれば、きっとまた自分も戦力になれるだろう、という考えだった。

焦りだ。

自分が一番上に立っていると思っていたら、いつの間にか追い抜かされていた焦り。

それが今の彼には出てしまっている。

しかし強くなるためには努力は不可欠で、だから栄都にとっては止められないのだ。

「それじゃ、行ってきます」

激しい眠気が朝からやってきて、大変迷惑だと思いながらも爽やかな朝を迎える為に前向きで挨拶をする。

「気をつけてね」

母もまた、栄都を元気づけるようにそう言う。

今日こそはUMAが出てほしくないと願った栄都だったが、そもそもあまり高確率に出るわけでもない。

疲労と怪我のせいで体が疲れているのに、余計な心配をする必要はない。

栄都はすぐUMAのことを考えるのをやめ、学校のみんなのことについて考える。

…あまり話していないのに、変なイメージを付けられたりしていないだろうか。

これも心配なのだが、UMAのことを考えるよりはまだマシだろう。

人間にとってイメージはとても大切なもので、気遣う必要性がある。

AL達は入学してからまだ間もないのだが、公家に至っては区内だけだがテレビで放送されてしまった。

自分がどのように思われて、どう接されることになるのか…

公家はそんなことを考えているうちにもう、既に学校についていた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「早く話してくださいよ、木田さん」

栄都の父親、南音が自信の研究室で木田という男に話しかける。

木田は、今ALが使っているALOの開発や調整に深く関わっている人物だった。

ほとんど木田が作ったと入ってもおかしくはないほど、ALOは彼の技術で作られている。

しかも他の国に流出してはいない、彼独自の技術だ。

もちろん出回れば流出したということになるが、彼らの手元にある限りは大丈夫だし彼らにしか使用できない。

それに木田はこの技術に、絶対的な自信を持っている。

だからALOに深く関わったのだ。

「そこまで知りたいのかい?南音君…まあ、教えてあげてもいいけど」

公家のあの状態の話だ。

あれは、関係者どころか開発者すらもまともに知らなかったという話だった。

知っているのは、木田しかいない。

そもそもALOから出る技というのは既に決まっている技の中から自分の体に適したものを自動的に使用されるのだ。

そして公家の使った技はその決まっている中に、入っていない。

驚いたのはマスコミや近くに居た人だけではない。

開発した人たちですら、驚愕しているのだ。

そしてその原因がこの男、木田だ。

「公家君があんな力を出せるなんて…ALOが壊れた状態ならまだしも、意識が明らかにありましたし」

「あれはALOの仕様だよ」

「仕様?一体どんな…」

「なあ南音…この話はあまり広められたくねえんだが。お前は人間が強くなる原因って、何だと思う?」

「成長、ですかね」

「そう、成長。誰もが通る道だよ」

木田は吸っているタバコを吸い殻の中に捨て、缶コーヒーを開ける。

「…美味いな。そんで成長っていうのにも、色々な成長があるだろ。体だって成長するし、内面的な事だって成長する」

「確かにそうですね」

「そして本当に人が強くなるために必要なのは、内面的な成長だ。内面的な成長のためには、何をすればいいと思う?」

「自分に厳しく…することでしょうか」

「そう、それなんだ。自分に厳しくする。ストレスをわざと溜めて、精神を鍛えさせる。禁欲と同じようなことだ」

「それと今回の件が、どう関係あるのですか?」

「新しい技を生み出すためには…嫉妬する心が必要だ」

木田はニヤけながら話す。

そしてふた口あまりで無くなってしまったコーヒーの缶を、ゴミ箱へ放り投げる。

ゴミ箱の角に当たり、缶が床に叩き落とされる。

だが木田は、気にせず話を続ける。

「嫉妬すればストレスが溜まる、自分を強く出来る…それに、一番身近な方法だろう?彼らは思春期だ。思春期は悩みが多く、ストレスが溜まりやすい。まあこれは、私の持論だがな」

「…なるほど、公家君は嫉妬したからあの力を」

「その通りだ」

「ですが嫉妬はあまりに簡単すぎるのではないでしょうか?その方法で行くと、日常の些細なことでも簡単に力を持つことが出来るようになってしまいますが」

「もちろんそこもしっかり考えてある…彼らの人生において、割と重要な事に関係している嫉妬にしか反応はしないよ。まあそこら辺はアバウトだけど」

「重要な事…じゃあ、公家君は一体?」

「それは彼にもわからないかもしれないさ…それにそれを俺たちがわかっても、どうしようもないだろ?」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

栄都が教室に入ると、異様な光景が目に入ってきた。

それは、公家。

そしてその周りを取り囲む人たち。

「公家君凄かったんでしょ!?ニュースで見たよ」

「うん、すごくかっこよかった!」

まるで本当のヒーローを見ているかのように、目を輝かせて公家を見ている女子生徒。

「さすが公家様ですわ」

と何故か自分のことのように勝ち誇っている綺麗な女性。

これらの原因は、全てこの前の事件のことだろう。

だが自分も戦ったのだ、誰かに褒められても…いや、心配されてもいいんじゃないか、という気持ちが栄都に押し寄せる。

現実は違った。

「公家マジで凄いよな!英雄だぞ!」

「お前ら褒めすぎだって…あと輪廻、クラスまで付いてくるなって言っただろ」

「いいじゃないですか相思相愛なんですし」

「え、付き合ってるの!?」

「そ、そんな…公家様と突き合うなんて」

「自重しろ」

栄都にとって、不快でしかなかった。

何故公家だけ褒められるのだ?

自分だって戦っただろう。

そうか、あそこに居る奴ら全員センスが無いのだ。

見る目が無いだけ。自分の事をきっと良くしてくれる人も居るはずだ。

そう思って我慢していると…

「栄都、大丈夫だった?」

登校してきた女…凜花が、心配そうな表情を浮かべて話しかけてきた。

「まあな、もう体はバッチリ動くし…」

「そう。なら良かったんだけど…何あの人たち」

凜花の視線の先は、当然公家の方だった。

気のせいか、さっきより人が多くなっているように見える。

栄都は思う。

不快、吐き気がするほど気分が悪い。

だからもう、吐き捨てるように言ってやった。

「別に、俺には関係なさそうなことだから。お前も行きたいなら行けば?」

「人が心配してやってるのに、その言い…わかったわ、ごめん」

凜花も状況を察したようだった。

それは公家の姿が見えたから。そして、栄都がイラついている理由がわかったから。

彼女は人の気持ちを読み取るのが上手いのだ。

だからもうこれ以上、栄都の近くには居てやらないことにした。

まあそれは、凜花自身が動きたいという願望もあるのだが。

「おはよ、公家」

「凜花…なんかこいつらが」

「あなたが凜花さんですか!公家様からよくお話をお伺いしております!」

「…あなた、誰?」

「公家様の――」

「おい輪廻、それ以上言うな…凜花、来い」

公家が立ち上がり、教室を出る。

周りの人たちは皆つまらなそうに教室を出て行った。

輪廻がそれを見ながら、

「公家様は人気ものですわね…」

と呟いた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「早く説明して」

「待てって、そんなに焦るな…」

自販機の前で公家は警戒しながら話す。

「いいから説明しなさいよ…」

「ああ、言うよ。あいつは俺の…許嫁だ」

「え…え?」

凜花は上手く状況を理解できずに居た。

「許嫁…あんたの?」

「ああ。実は一年前ぐらいから同居してたんだが…お前には伝えてなかった。ごめんな」

「何よそれ…もうなんなの…」

凜花は今にも泣きそうだった。

「それで、あなたはその許嫁の事が好きなの?」

「それは…」

と、公家が目を逸らす。

もうダメだ。

自分の初恋は終わった、と凜花は自分自身にそう言いかける。

だが拒否反応が出る。それは認めたくないという考えによる自分自身の抵抗だ。

「…もういいわ、クラスに戻る」

今心の中にある、このどうしようもないような気持ちはどうすればいいのだろうか。

何をすれば、乗り越えられる?そんなもの検討もつかなくて。

だからもうとりあえず、公家の近くにいたくはない…そう思ってしまった。

クラスに戻る。

公家も後ろから付いてきているようだが、話しかけては来なかった。

公家の席の方を見ると、先ほどの少女。公家の許嫁だ。

「おかえりなさい、凜花さん」

笑顔で言う彼女の顔は、やっぱり凛花が見てもとても美しくて――

とても、憎く思えた。

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