第六話
「俺達だって、ALだからな!」
「公家、私に電気を」
「おう!」
公家は凜花の手に電流を流す。
彼女の能力は『モノとモノをくっつける』能力のため、ALO起動中は右腕に攻撃は当たらずそのまま居座るのだ。
だから、例えばビームが来たとしても右腕を差し出せばビームを止め、自分のモノにして弾き返す事ができる。
これが彼女の能力だ。
だが今回のような、相手の隙を狙っているような敵も珍しくはない。
そのため、公家に攻撃する手段を借りるしか無いのだ。
「対象『電気』、目的『UMA』決定!」
彼女が特定をして、攻撃を開始する。
今まで腕にとどまっていた電気が、全てUMAの方向へ向かう。
これが彼女の戦い方だ。
ちなみに対象や目的はあくまで”言うだけ”なので、言ったことと意識している事が異なった場合は意識している方が優先される。
だから例えば、UMAと言っても意識的に建物を当てたいと思えば建物にあたってしまうということだ。
だがその特定もそもそも曖昧であり、例えばUMAが2体居た場合は意識しなければどちらに当たるかわからない。
つまり自分で考えてから能力を発動しないと間違った方向に行ってしまうということだ。
それはとても恐ろしいことで、彼女にとっては最も避けたいことだった。
「当たって…お願い!」
彼女は攻撃を開始した後は、祈るしかできない。
だがUMAもそこまで甘くはない。
すぐに避けられてしまう。
「すごい反射神経…って公家!?」
公家は凜花が気づく前にもう、攻撃が当たらないことを予測していた。
そして公家は自らUMAの方に向かう。
そう、逆にUMAの隙を狙ったのだ。
「喰らええええ!」
公家は電気が流れている拳をUMAの顔面に当てようとする。
だが避けられ、それによって隙が出来た公家をUMAが殴ろうとするが、公家が左足の踵で蹴りを入れ、体制を崩そうとする。
とっさに判断出来なかったUMAは、そのまま転がるようなオーバーリアクションをして立ち上がる。
一瞬だった。
「そこの少年!頑張れええええ!!」
マスコミ達の声がする。
本当に自分を応援してくれているわけではない。
助けてほしいから応援されているのだ。
公家の中で怒りが溜まってくる。
なんて都合の良い生き物なのだ、こいつらは。
だがそれをいちいち突っ込んでいる暇はない。
なぜなら立ち上がったUMAが走り、足を踏み込んでこちらを殴ろうとしてきたからだ。
「危なっ…!」
とっさに避けたが、すぐにこちらを振り返ってくる。
避けるのを読まれていた。
これだけの予測能力があるならば、戦うのはかなり厳しい。
公家は真面目に戦うのを諦めた。
「あー、やめやめ…こういう奴に正面から戦っちゃいけないっつーのはわかってるからな」
「公家、まさか”あれ”を使うの?」
「こういう時に使わないでどうすんだ」
そう、その能力とは…
公家が凜花と最近手を合わせた時に使用した技術。
自分たちがUMAを倒すことが出来ない状況になってもなお、公家と凜花は強くなる努力をやめなかった。
いや、努力ではない。これは単なる『イメージ』だ。
「電流回路+3…スタート!」
+3をつけ、全身に電気を流す。
「すまない凜花…少し時間が掛かりそうだ、時間稼ぎをしておいてくれ」
「わかったわ。UMA…あなたの相手はこの私よ!」
そんな凜花の発言と共にUMAが動き出す。
明らかに公家を狙っている。
だが…今の公家に、攻撃させるわけにはいかない。
「対象『屋根』目的『UMA』…スタート!!」
そう叫んだ途端にUMAが突然屋根に倒れる。
いや、倒れているというより”引き寄せられた”。UMAが床に強制的に引き寄せられたのだ。
「…これで止まるわけがないわね」
そう、UMAはすぐ立ち上がってしまう。
これが凜花の能力の欠点だ。
同じ能力を連続して(10秒以内)使用することが出来ない。
理由は無限ループを防止するため(無限ループはALOに掛かる負担が大きすぎるため)である。
だが公家も準備が出来たようで、
「……よし」
ビリビリ、と体の周りに電流が流れている。
これが公家が生み出した能力。
全身に電気を流し、自分自身を電気にさせる能力。
そもそも電流回路+3は全身に電気を流す能力なのだが、流すというよりは流せると言った方が正しい。
全身で均一に電気を使い分けることが出来るということである。
だが公家はそれを利用して、更に発展させた。
それがこの公家のイメージ…能力だ。
「名づけてサンダー化…バカみたいな名前だけど、実用性はあるはずだ。こいよ、UMA。すぐ楽にしてやるぜ」
「グアアアアアアアア!!」
まるで挑発に乗ったかのように公家の方に向かっていくUMA。
「単純だな、お前が向かってくるのなんて――」
公家が全身の電気を溜めて、
「解ってる!!」
一気に開放させる。
「グアアアアアア!!」
一気に電気を浴びたUMAは、感電かそれとも体の痛みか、どちらにせよ酷いダメージを受けていた。
それには公家の才能も影響している。
さっきまで少し見えていた程度の電気が、今ではまるで全身にオーラのように纏わりついている。
要するに体が慣れたのだ。それによって、発動できる能力の幅が大きくなった。
「悪いな、力が強すぎた」
すでにUMAの意識はなかった。
「それじゃ、これで終わらせてもらうぜ」
公家は電気を最大まで出して力を手に溜め、一気に放出させた。
UMAは消えてなくなった。
勝ったのだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
さっきまで散々怖がっていたマスコミや野次馬たちが一気に歓声を上げる。
「こういうのは嫌いなんだがな」
「奇遇ね、私も」
既に屋根から降りて、ALOを終了させた公家と凜花はこの歓声に呆れていた。
「それにしても…こりゃ当分ALOは外せないな、電気の感覚が体に残ってる」
ALOを外すと体の能力への抵抗が無くなってしまうため、死んでしまうことがある。
「あんなに力出し過ぎるからよ。いいから早く、家戻りましょう」
「ああ、そうしたいんだが…南音さん、栄都は」
「救急車で運ばれたよ。それより…」
南音は頭を下げながら、
「本当にすまなかった。君達が居なければ、今頃日本はどうなっていたことか…」
「いやいや、そんな頭を下げるなんて!」
「やめてくださいよ、僕らだってそんな大したことしてないんで」
「大したことしてない…?公家君、君はすごいな。こんなに凄い事をしたのに、まだ自分を認めていないなんて」
「だって当然でしょう?僕達…ALですし」
このALの活躍はニュースでも大きく取り上げられ、公家と凜花の知名度を上げるキッカケになった。