第五話
「栄都…栄都!」
南音がすぐ駆けつけ、意識がなくなった栄都の具合を見る。
「これは病院の方が…おい、今すぐ救急車を呼んでくれ!」
「わかったわ!」
栄都の母がすぐに連絡を入れる。
「栄都…頼む!お願いだ…無事でいてくれ!」
「おい!お前の息子は何やってんだ!」
1人の見知らぬ男が南音のところに駆けつける。
「負けたんだよ…UMAにな!」
「負けた…じゃあ、あいつを倒せないってことか?」
その男は、家の屋根にいる――UMAを指さした。
「栄都が気を失ってるってことは、もしかしたら…倒せないかもしれない。」
「大変じゃないか!お前たちだって殺されるかもしれないんだぞ!?」
「ああ、確かにそうかもしれない。だけど、このUMAが出現してるっていう情報は多分すでに広まってる」
家の前を見ると、マスコミを含めた見物者達がそれぞれUMAを撮ったり、見たりしている。
「なんだこいつらは…自分たちが死ぬかもしれないんだぞ!?」
「ああ。確かにおかしいな。だがUMAは、人すらも変えてしまう。惹きつけてしまう。一時期UMAブームが起こったのも恐らくそれが原因だ。だから、ここに来る人は減らせない。それを止めるのは無理だ」
「じゃあもしUMAが暴れたらどうするつもりなんだよ!お前研究者だろ!」
南音は無表情で、
「大丈夫だ。栄都の友達達がきっと、駆けつけてくれるはずだ…!これだけ情報が広まってるなら、きっとあの子達も知っているはずだからな」
「友達…ALか?聞けばお前の息子ぐらいしか役に立たないそうだが」
「いや、それは俺にもわからないが…来てくれなければ、あの子達に戦う気が無ければ、きっと誰かが殺される。」
「だ、だけど…ALOってやつは、警察か政府とかが持ってるんじゃないのか?何もあいつらだけが持ってるなんてことは――」
「あいつらしか持ってない」
「なんだと!?」
「確かにALOは一般的な、魔法能力を出すために元々は開発されていた。それが今の栄都達の使っているものだ。だが計画は失敗した。予算が膨大に掛かっていて、負担がデカすぎたからだ。」
「そんな…何も開発してるのは、この日本だけじゃなかったんだろう!?アメリカとかなら、持ってるんじゃないか!?」
「ダメだ。世界的に、ALOの開発は中止された。確かに金銭的な余裕もそうだが、もっと重大な理由があった。それは、ALOを使えば簡単に警察に反抗できてしまうからだ。圧倒的な力を持てば、圧倒的な力じゃない限り負けない。だから、そいつにとって法律は無意味――この世界を、崩壊させてしまうかもしれない。そんな危険性があるものを、わざわざ一般的に流通する必要は無いってね。結局、役に立ったのは日本の技術力の高さのアピールだけだ」
「そうか…じゃあ、俺達を救えるのは」
「南音さん、遅くなって申し訳ないです。」
「このアホが遅れたせいで、本当に申し訳ないです。」
公家と凜花が、南音に頭を下げる。
「おい、誰がアホだ」
「だって私が家に行ったとき寝てたじゃない」
「起きれなかったんだから仕方ねえだろ!」
「よく来た、公家君。それに凜花ちゃん。悪いが栄都は倒されてしまった。君たちで頼むよ」
「栄都が…倒されたんですか?確かに戦っている様子は見られませんでしたが」
「ああ。だから君たちが頑張ってくれ」
「ハードル高いわね…」
凜花が小声でそう呟く。
「不安か?もしかして怖いとか」
「全然。もう怖くないし、大丈夫よ。」
「よし。それじゃ」
公家は上着を脱ぎ、ALOを起動させる。
「ALO起動!電流回路+1――スタートだ!!」
+1を選択し、全身に電流を流す。
それを見た凜花も、自分のALOを起動する。
「ALO起動!永久磁石――スタート!」
凜花は選択する項目が無いので、+を付けずに戦う。
「さあ、行こうぜ凜花…屋根まで連れてってくれ!」
「わかったわ。対象『私の体とそれに触れている者』、目的『屋根の上』決定!」
凜花が選択した途端に、凜花と公家が空中に上り、屋根まで辿り着く。
「こうやって戦うのは、久しぶりね」
「俺達だって、ALだからな!」
睨む先は、自分たちを見つめている――UMAだった。