第四話
次の日の学校は休みになった。
当然だろう。
数年ぶりの殺人事件に加え、それを起こしたのがUMAという事実。
マスコミ、報道関係者を含めた野次馬たちが街を占領していた。
「今回の事件についてはどうお考えですか?」
「これからの対策はどうしていくつもりですか?」
「事件を阻止することは出来なかったのでしょうか?」
次々出てくる質問の数々。
それらは全て区長に向けられたものである。
「今回の件に関して、私が答えられることは何もありません。強いて答えられる人を挙げるとするなら…UMA研究者の、謀音南音さんでしょう。彼の息子さんはALもやっていますし、きっと私よりUMAのことにも詳しいはずです」
それをテレビで見ていた謀音の父、謀音南音は怒りを露わにした。
「ふざけるな!面倒くさいところは全部こちらに丸投げか…下請けじゃないんだぞ!」
しかもこれは朝のニュースなのである。
朝から嫌な気分にさせられたと言うことでも、怒っているのだろう。
「まあまあ父さん、落ち着けって。流石に俺たちの家にやって来たりなんてしないさ、あの人達も。」
「そうよ。大丈夫大丈夫、あなたは自分の研究に集中すればいいんだから」
栄都と母が宥めようとするが、無駄だった。
「あいつらを舐めないほうがいいぞ…恐らく今日、やって来る。俺は仕事場に行かん。」
「来たら対応するってことか?」
「そうするしかないだろう。あいつらは獲物が出てくるまで帰るわけがないからな」
どうやら南音はマスコミに慣れているらしい。
その理由は、UMAが初めて殺人事件を起こした当時、研究所にマスコミが押しかけて来たのが原因だが。
だから研究所の住所は、割れている。
そんな中で仕事へ行くなど自殺行為甚だしいのだ。
「そんな事言ったって、それじゃいつまで経っても来なくてもじっとしてろってことなのか?」
「ああ、とりあえず俺たちが落ち着かなくてどうするんだ、もし本当に来たときに――」
玄関から聞こえたチャイムの音。
来たのだ、野次馬が。
そのチャイムの音がまるで合図のように、鳴った途端にドアがギシギシとなる。
人がそれだけ押し寄せてきたということだろう。
「謀音さん!?居るんですか、居たら今すぐ出てください!」
「早く出てきてください!答えてください!」
ドアの向こうから聞こえる大きい声。
栄都にとっては、不快極まりなかった。
「おい父さん、俺が出ていいか?」
「ダメだ栄都。俺が行く」
「父さんが行ったとしても、もしかしたら悪化してしまうかもしれない。俺が行くよ」
栄都が玄関に向かい、強引にドアを開いた。
そこには、想像以上の人数が押し寄せていた。
100人ほどだろうか。更に玄関だけでなく、家の前まで占拠されている。
「私達から質問があります、是非答えてください!」
「あなたは息子さんですよね?UMAを倒す活動をしているということですが、具体的に何を」
「みなさん黙ってください!」
栄都の大きい声に、その場は一時静まり返る。
「今回の件は、全てUMAと私が引き起こしたことです!私がもっと速く現場に行くことができれば、もしかしたら止められたかもしれない!私が悪かったのかもしれない!そういう責任を負って私はALをしているんです!あなた達にとってはどうでもいい事かもしれませんが、私にとってはとても重い責任なのです!だから、皆様どうか――お帰りください!私が言えることはこれぐらいしか御座いません!」
だが、その場に居た誰もが栄都の発言を聞いていなかった。
何故なら。栄都の家の屋根に怪しい影…見たこともないような生物の影。
そう、UMAが居たからである。
「う、うわああああああああああ!!」
「UMAだ!UMAが居るぞおおおおおおおおおおおおお!!」
全員が一斉に逃げようとするが、体が絡まり雪崩が起きる。
動いたら尚更、動けない。
逃げられたのはごく一部の人だけ、その場にいた全員が死を予想していた。
だが。
「ALO起動!肉体強化+2――スタートだ!!」
ALOが起動した途端、栄都は地面を全力で蹴り宙へ舞う。
そして屋根の上に登った。
足のとてつもない力を利用したのである。
「な…なんだあれ」
「あれが噂のALO!?」
「とんでもない力だな…」
周囲の人間が発言をしているが、栄都の耳には届かない。
栄都が優れているのは戦闘力だけではない。圧倒的な、集中力。
それらがUMAを圧倒する。
本当はUMAと戦うのが怖い。
先日の事件があったからだ。
だが今は、そんな寝言のようなことは言っている場合ではない。
「悪いなUMA…友達を呼んでるヒマもねえっ!!」
栄都はUMAの足を目掛け蹴りを喰らわせようとする。
だが避けられた。後ろではなく、『横』にである。
「どんだけ優れた予測能力だ…俺の足の届く範囲がわかってるなんて」
少し苦笑いを浮かべてしまうほど、今回のUMAの能力も非常に高い。
今回のUMAは、よくある怪獣系。
栄都が先日倒したUMAと形は同じだ。
外見的に言えば違うところは殆ど無い。あったとしても個体差である。
それならやはり、内面か――
栄都はUMAを見つける。
UMAはこちらの出方を警戒して、あえて何も動かない作戦のようだ。
なら。
「肉体強化+3、スタート!」
こちらから仕掛けるしか無い。
肉体強化の性質変化、そしてそれに伴い体も変化する。
腕の筋肉がより大きくなる。
それにより、腕を使った攻撃により威力が出る。
「喰らえ!!」
足を走らせ、UMAに接近する。
そして大きくバックスイングを取り、構える。
パンチをするつもりだ。
「うおおおおおおお!!」
顔面、より少し上の頭の方を狙ったのだが、見事に避けられてしまう。
そしてそれによって、栄都の体に大きな隙が出来る。
そう、大きくした代わりの、反動である。
「クソ…外れた――!?」
突然腹部に走った衝撃。
UMAが隙が出来た栄都の腹を殴ったのである。
「グオオオオオ!!」
UMAの咆哮が鳴り響く。
それに伴い、力も徐々に強くなっていく。
そのままUMAの手は、栄都の腹に押し込まれていった。
「ク、クソが!」
突然のことで反応が出来ず、対処に遅れ栄都はようやくUMAから離れる。
だが、動き回れるほど体の余裕はなかった。
「痛ぇ…ちょっとマズいかもな」
今まで感じたことが無い程の痛さだった。
頭が回らなくなり、視界がグルングルンと、まるで目が回ったかのように力が入らなくなる。
「しっかりしろ、今はそんな事してる場合じゃ――!?」
そこの隙も、UMAは逃さなかった。
今度は先ほどの殴られるのとは違い、張り手のような押し出される感覚。
そう、屋根の上から――
「ク、クソ、UMAが…!」
栄都はそう発言した時点で、意識がほとんどなくなっていた。
屋根から突き落とされ、意識が朦朧としていたのである。
家の高さは3階建てだ。
そんな高さから、自分は突き落とされたのだと――
考えた途端、栄都の意識はなくなった