第三話
「それで、言いたいことってなんだ?」
「はっきり言おう。お前らにもこれから戦って欲しい」
「…え?学校がダメって言うんじゃないの?私たちだって力になれるならなりたいけど、それでも」
「いや、俺の頼みだ。学校だってきっと受け入れてくれるはずだ。頼む、俺と一緒に戦ってくれ」
「栄都だけで十分じゃないのか?今日だってしっかり倒せたし」
「そういう問題じゃない…俺には、仲間が必要なんだ。一緒に戦って、励ましてくれる仲間が。お前らが居るのと居ないのじゃ、全然違うんだよ。頼む」
「…わかったよ。そんなこと言われて断れるわけないし」
「まあ確かに俺達も栄都をサポート出来るしな」
2人とも納得して、この話は終わった。
それよりも気になるのは。
「それよりさ…栄都、あなた大丈夫なの?」
「何が、どうしてだ」
「だってあんな事件があった後なのに…」
「平気なのがってことか?ああ、大丈夫だ。本当は少し大丈夫じゃないが弱気になってる場合じゃないからな」
栄都が強いのは、ALOの扱いだけじゃないのかもしれない。
「凄いわね…多分公家が見たら気絶するわ」
「あまり俺を舐めるな。それほど弱くはないよ、少なくともお前よりは」
「UMA見てビビってる人に言われたくないわね。私と公家、どっちが強いか勝負してみる?まあ私が当然勝つだろうけど」
「上等じゃねえか!」
凜花の挑発に公家が乗り、2人とも同時に立ち上がる。
こいつらは本当にやるつもりなのだろうか。
「落ち着けお前ら…人対人でALOを使うのは禁止なんだぞ」
「わかってるわ」
「でもバレなきゃいいだろ」
「バカかよ、ALOの使用履歴は通信で送られてるんだぞ。あんまり変な使い方するなよ」
「使用履歴?」
公家が冷や汗をかく。
「ああ、それがどうした?」
「俺ALOを使ってネットしてるんだけど…」
ALOには魔法を使う他、パソコンやその他の機器と繋げて通信をする機能がある。国の最新技術とだけあって、使い勝手が良い。
「ああ、俺も使ってるけどそれがどうした?」
「パソコンの履歴も送られてるってこと?」
栄都も状況がようやくわかったようで、急に深刻な表情になる。
「まあ、そうなるな…」
「見られちゃ困るモンでも見てるの?」
凜花が痛いところを指す。
「いやーまあ、男ですし…」
公家が苦笑いを浮かべながら、また冷や汗をかいていた。
「他人に見られてるってのは…」
栄都も気づいてなかったようで、凄く真剣な表情をしていた。
「あんた達、一体何を見てたの?」
凜花がALOを使って履歴を見ようとする。
「待て、何を見ようとしている!?」
「元々ALのメンバーの使用履歴を見れるように設定されてあったわよ、知らなかったの?」
「なんじゃそりゃあああ!!見るな!頼むから見ないでくれ!」
「嫌ですよ…って」
凜花が公家の履歴を開いた。
「何か文字ばっかで分かんない…」
とすぐに履歴を閉じる。
「よかった、リンクだけ表示されるらしいな」
「ああ、助かった…」
「それほど見られちゃ困るもんなの?増々見たくなってくるんだけど。特に公家、あんた反応が凄いから特にね」
「安心しろ凜花、パソコンでしっかり確認してある」
その画面には公家が見慣れたサイトが表示されていた。
「おい栄都!お前なんでそれを」
「俺もよく見てるからなこれ」
「そういう話は2人の時に話そうぜ!」
「うわぁ、公家…こういうの見てたんだ」
「しょうがないだろ男なんだから!」
「ふーん…そりゃ興味があるのはわかるけど、程々にしときなさいね」
凜花が顔を赤らめながら話した。
公家は無性にイジりたくなった。
「なあ栄都、一番変態な奴ってもしかしてこいつじゃね?」
「俺も今そう思った」
「あんた達は人がせっかく注意してあげたって言うのに!」
凜花はどうしようもない彼らを見て、溜め息をついた。
その後間もなく栄都は凜花の家を出て、自分の家へ向かう。
帰宅して要件を伝えるためである。
伝える要件は1つ、『AL全員で戦わせて欲しい』ということだけ。
それが通るかどうかはわからないが、本人たちは良いと言ってくれたのである。
だから出来ることはやる、と栄都は隣に歩いていた公家の方を見ながら思う。
「じゃあな栄都、しっかり学校に伝えられるよう祈ってるよ」
そして公家は自分の家へ戻る。
「おう、じゃあな」
栄都も挨拶をする。
公家は昔からああいう性格で、自分のことより他人のことを考えてる人だった。
その性格はなかなか栄都や凜花でもわかりづらいもので、だから公家の考えていることは栄都はあまり良くわからないのである。
凜花は対照的に、考えていることがすぐわかる。
だから栄都は尚更公家の事が不思議に思えた。
いや、今は人のことより自分のことを考えるべきだろう――栄都はそう思い、思考を転換させる。
そして歩いている途中だが電話をかける。話す相手は、学校だ。
もちろんさっき話したことをそのまま言うためだが、早めの方がいいと思い今かけようとする。
「もしもし」
数回のコール音が鳴ったあと、やっと出たので栄都は挨拶をする。
《もしもし、こちら寛政高等学校です》
「謀音栄都だ。UMA担当の大石先生を呼んでくれ。」
《少々お待ちください》
大石先生ー、と呼ぶ声がスピーカーから栄都に聞こえる。
「そんなでかい声で呼んで迷惑にならないのか…?」
《大石だ。謀音、何か用か?》
「率直に言う…UMAを倒すときはAL全員で行かせてほしい」
《何故だ》
「…俺が、1人で行くには怖いからだ。」
栄都は正直に胸の内を語った。
初めて起こった事件、初めて見た死体。
トラウマになってもおかしくない状況で、栄都はまだ、自分自身の事を深く考えることが出来たのだ。
《そうか…詳しくは聞かない、承知した。今度からは3人で行くように。》
電話が切れた。
栄都は気づくと、不安のせいか、それとも安心のせいかはわからないが、その場に立ちつくしていた。
「家に…戻らないと」
そして歩きだし、家へと向かう。