第一話
「ALって知ってる?」
「ああ、あのUMAを倒す人たちのことでしょ?」
「そうそう。3人しかいないんだけど、すごい憧れるよねそういうの」
「わかるー!正義の味方みたいな」
教室で入学仕立ての女子高生2人が、とても大きな声で話している。
「くだらねえ…」
その教室には、その『AL』に入っている者が居た。
全員揃って、である。
「今日も仕事あるのかな?やりたくねえな」
「仕方ないだろ、頼まれてるんだからさ…」
「まあそうだけどよ、金は俺たちが直接貰えるワケじゃないんだぜ?親がそういう家系だったからってちょっと理不尽だよな」
「この国のためになってるって思えば光栄な事でもあるけどな」
こんなダルい会話をしている高校生2人は、国から働く事を命じられた集団『AL』である。
2030年の日本の首都、東京ではUMA(未確認生物)の出現が確認されている。
そして、そのUMAを倒して日本の平和を守るために働かされているということである。
「俺たちだって、UMAは怖いんだけどなぁ」
『謀音栄都』は顔を顰めながら不満を吐く。
それをいつも聞いてやるのが、栄都の友人『平田公家』のもう1つの仕事でもある。
「それは確かに言えているな。政治家の人たちだってあれを見れば慌てて逃げ出すし」
「男があんなので怖がってどうすんのよ」
話に割り込んで来たのは、『相田凜花(あいだりんか』。彼女も、ALに所属している。
「お前だって中学の頃は無茶苦茶怖がってたじゃないか。可愛かったな、あの頃のお前は今と違って」
「そっちだって中学の頃は私を守ってくれてカッコ良かったなぁ。今はこんな頼りないバカになっちゃったけど」
公家と凜花は幼馴染のような関係にあるため、このような馴れ合いは普段から行っていた。
「まあまあ落ち着けってお前ら、もう席つけよ」
時計の針が、もうすぐチャイムが鳴ってしまう合図を示していた。
突然東京に現れたUMA(未確認生物)。瞬間移動のように街の中に突然出て、消えるその様子は、世間が騒がれていた時代に動画サイトにアップされて大変な人気を博したほどに、非現実的かつ非日常的な事と言うこともあり日本には一時期『UMAブーム』が起こったほどである。
それが大体2025年~2026年ぐらいの出来事だったのだが、自体は1つの事件をきっかけに悪化していく。
UMAが、殺人をしてしまったのである。
殺されてしまった男性はなんの罪もない普通のサラリーマンだった。
その事件によって世間ではUMAを恐れ、『UMAブーム』はあっという間に収まった。
そして代わりに起きるのがUMAに対するブーイングと疑問である。
『なぜUMAを殺さないんだ!』
『そもそもUMAって本当に存在するの?』
『消えたUMAはどこへ行くんだ!』
『国の悪ふざけじゃねーの?』
政府に叩きつけられたそのブーイングや疑問の数々。気になるのは当然のことで、政府も「自分たちが知りたい」と関与を自ら否定した。
だがそれでもUMAは消えなかった。
東京でまた出現報告、それによって街の人が逃げて消える。
それの繰り返しだった。
そしてUMAが消えるまで家に待機、ということだ。
だがしかし政府も考えだした。
『消えたUMAは、もしかしてまだ生きているのではないか?』
と、だから倒すべきではないかという意見だった。
それは確かに正しい意見でもあった。だが政府はそんなことを出来る人たちを知らない。
だからUMAを倒すなど無理というのが国の中で自然に成立していった。
だがしかしそれはある1人の発言により変わる。
「家は前からずっとUMAの研究してたんですよね、ええ。まさか本当に街に出現するとは思わなかったです」
発言したのは栄都の父親、南音だった。
その発言がキッカケにより、南音の名前は世間に広く伝わった。
更には政府まで頼るようになってしまったのである。
そう、UMAを倒すことについて。
だが南音も最初は否定していた「自分が研究している物を倒すなど簡単に出来ることではない』と。
その発言もまた世間を騒がせたのである。
だが騒いでいた人たちの発言はみんな一緒だった。「私たちを助けて」と、ただそれだけだったのだ。
殺人事件が起きてしまっている状況で、UMAを生かしておくわけにはいかない。
南音も了解し、だがしかし自分は研究があると子供にその役目を預けた。
それが、栄都だったのだ。
倒し方は簡単。腕にリストバンドのような機械をつけ、手からそれぞれの能力が出るようになる。
政府と警察が開発した人類の最終兵器である。
様々な国も集まって共同開発されたその機械は、『ALO』と呼ばれ、ALの者たちだけが使うことが許された機械だった。
それぞれに自分の血液、指紋を認知させて、反応するように仕組まれている。
だがALOは元々、UMAを倒すために開発されたわけではないのだ。
そもそも地球全体は当時、『人類は能力を使うことが出来る』という専門家の意見から騒がれていた。
能力によって様々な事柄を便利に、効率的にこなすことが出来るかもしれないと、当時は話題になった。
それによっていろいろな国が能力を出すための機械の開発に至ったのである。そして日本もその中の1つだった。
その開発していたデータを、そのまま使ったのがALOである。
とは言っても突然開発したもので、不具合があるのではないかと当時は騒がれていた。
だがこれをつけてから3年間、ALたちにはALOが原因で起きた事故や怪我はない。
「だったら早く販売しろ」と発言したくなるものだが、どうやら販売する気配は殆どなかった。
まだ開発しているのだろうか。それとも人類には要らないものだと考えたのだろうか。
それはまだ誰も知らなかった。
「もう2年か…こいつを使い始めて」
栄都が使い始めた当時を思い出しながら話す。彼がALに入ったのは中学2年生の頃だ。正式には、ALが作られたと同時に入った。
そして現在3人は高校1年生。尚且つまだ入ったばかりである。
メンバーは3人。栄都、公家、凜花の3名である。
元々入る予定だった栄都が、2人を誘ったのである。
2人も最初は動揺したが、友達である栄都の頼みはそう断れず成り行きで入った。
結果、栄都だけが異臭を放つほどの才能を発揮した。
ALOの扱いにおいてである。
元々持っていた能力はそれぞれ至って普通だった。
『自分自身の肉体を強化する』栄都。
『雷などの電気系統の魔法を使う』公家。
『モノとモノをくっつける』凜花。
だがその中でも、やはり一番戦力で活躍していたのは栄都だった。
公家も意識を落とすことは出来るが、決定力に欠ける。
凜花も2体をぶつけたり建物と接触させるなどして攻撃を与えることは出来るが、それでもそう簡単には倒せない。
それに凜花の能力は、自分のモノは使うことが出来ないのだ。(建物、土地は可)
それに比べて栄都の能力は、自分の肉体を強化するという地味な能力だが、栄都は元々運動神経がいいため更に良くすることが出来、また体を使った直感的な戦い方なので力が入りやすく、決定力も高い。
そしてなによりその能力が栄都にマッチしていたため、人類にとって非常に強い戦力となった。
そのため、高校に入ってからは栄都が1人でUMAを倒しに行くことが多い。
「栄都は才能あるからいいよな」
「その通りよ。私なんて全く役に立たないわ」
「やめろよ。俺だってこんな才能欲しくて持ったワケじゃないし、お前らだって十分強いだろ」
栄都はこの仕事があまり好きじゃない。
UMAが嫌いだからだ。
人を殺すのも許せないが、それによって更に世の中がおかしくなっていく。
まるで何かに取り憑かれたかのように。
そしてそれは全世界に広まっていき、『東京は終わった』『日本は破滅だ』などと他の国から散々言われる自体になっている。
これが許せないのだ。
人間たちが互いを協力しあい、支援していく。それが栄都の想う理想の世界だ。
だが現実は全く違う。
支援を要求すると、目を逸らされる。
UMAの情報を報告しようとしても、誰も聞く耳を持たない。
一体そんな世界で、UMAを倒してなんの意味があるのだろうか?
栄都が悩んだ時にだって、UMAはどこかで出現しているかもしれないのだ。
そう、もしかしたらどこかに――
『都内にUMAが出現しました。謀音栄都さんは直ちに職員室まで来てください」
「それじゃ、行って来る」
今は一時間が終わった後の休み時間。UMAが出現するのは大体昼間のため、出現するときは殆ど学校にいることが多い。
栄都は教室を飛び出し、廊下を全速力で走って行く。怒る先生など1人もいない。
「やっぱり謀音君、ALだったんだ」
「そりゃそうでしょ。制服脱いだ時つけてたじゃないYシャツにほら、ALOって言うんだっけ?」
一気に教室だけではなく、学校中がざわつく。
「俺騒がれるの、あんま好きじゃないけどな」
「騒がれてる原因は公家じゃないからいいじゃない」
「まあそうだけどさ、ALじゃん?俺らも、やっぱり」
「確かにそうだけど…」
「やっぱり平田君ってALだったの!?」
1人の女子が公家に話しかける。慣れ慣れしい口調でだ。
「ああ、何か不都合な点でもあったか?」
「そういうことじゃないんだけど…ほら、謀音君といつも一緒に居たから」
「なるほどな。そうだ、俺達は栄都の友達だからな」
「俺達って…相田さんも?」
「私もALに入ってるけど…私の情報はそこまで要らないでしょ?」
「そんな事無いよ~!相田さんだってクラスの一員だし、みんなに知ってもらう必要もあるかなって思って」
「公家の事ならやめておいた方がいいわ。こいつは鈍感でアホだからきっと後悔すると思う」
「おい凜花、その情報は要らないよな!?」
「ありがとう相田さん!参考にするね!」
「なんの参考だよ…名前、なんて言うんだ?」
「睦田克実って言うの。よろしくね」
ウインクしながら話す彼女の姿は、普通の可愛い女子高生だった。
彼女は情報をいろんなところから取り入れていろんなところに発信する、わかりやすく例えるなら『近所に居ると厄介な人』だ。
「ああ。よろしく」
「2人は栄都君に付いていかないの?ALなのに」
「栄都だけで十分だからよ。私たちが無理に行く必要もないし、逆に足手まといになるかもしれないわ」
「そっか…でもいいなぁ、ALO。私にもちょっと使わせて」
「ダメだ。これにはもう俺の設定が施されているから、もし使ったら死ぬぞ」
「え…死ぬ?」
「私達の持っているALOは、紛失した時のために様々な設定がされているのよ」
「じゃあ使うのは…無理ってことかぁ」
「悪いな、それにもし使えたとしても使わせないよ。みんなが事故に遭ったり、睦田さん自身も怪我をしたら困るから」
公家は性格が良い奴だった。それが原因で、何故か結構モテるという謎のステータスまで持っていたりする。
「平田君…優しいんだね!ありがとう」
睦田もしっかりその謎の現象に乗せられていた。