金髪美少女はツンデレと相場は決まっている
「……タロー」
誰かの声がするような…
「シンタロー!起きて!」
「んあ…?」
目を開けると杏奈が目の前にいた、なんだ俺いつの間に杏奈と結婚したんだ?
「もう昼休みだよ!」
…そういやここ学校か。
今朝のLHR から寝続けたみたいだ、移動教室がなかったおかげだな。
「やー、凪やっと起きたか」
種川も横にいた、正面に杏奈、そして…
「えっと……後台院さん?なにかようでしょうか…」
なんでかクラス1の美少女、後台院紗織が杏奈と一緒に俺の前に立っていた。
後台院紗織、お金持ちのお嬢様な上にハーフの金髪美少女でスタイルもよく頭も良い才色兼備、だが誰にでも優しいとかそんな設定はなく、わりかし好き嫌いははっきり分かれるらしい。
彼女のカテゴライズでは俺は「嫌い」というより「無関心」に分類されるようだ、好感度が3%しかない。
まあ今まで話したこともないし、当然だな。ただなんで俺の前に立ってるの?
俺の疑問には杏奈が答えてくれた。
「私と紗織ちゃん、シンタローと種川君と一緒になったんだよ」
「なにで?」
「キャンプの班!もー、まだ寝ぼけてるの?」
あー、なるほど。
「で、紗織ちゃんが一緒の班なら挨拶くらいしっかりしておきたいって言うから」
そう言うと後台院は一歩前にでて
「後台院紗織です、よろしく」
とまあ必要最低限の自己紹介をしてくださったんだが………これって俺も自己紹介するべきなの?
確かに後台院は自己紹介せずともクラスは愚か学年全員が知ってるだろうが、俺と言えば人とほとんど関わろうとしないから未だクラスメイトに認識されてない可能性まである言ってしまえば村人Aだ、自己紹介が必要なのはむしろ俺の方か…
「凪真太郎、よろしく」
俺も必要最低限の挨拶はしたつもりだったが後台院はお気に召さなかったのか「フンッ」っと顔を背けると杏奈に話しかけた。
「杏奈、確かにあなたの言った通りぼーっとした男ね、覇気もなにも感じないわ」
「アハハ…まあ確かに普段はこんな感じだけど、たまに凄いんだよ?」
そんなにぼーっとしてるかな…いつも想像夢想幻想妄想と、脳ミソはフル回転なんだけどな…
てか杏奈いったいどういう説明したんだろう。
「あ、そだ!シンタロー、お昼一緒に食べようよ!親睦を深めるみたいな感じで、紗織ちゃんも種川君もどうかな?」
「俺はさんせー」
「あたしもかまわないわ」
「……じゃあ俺もいいけど」
よく考えたら今昼休みだったな、どおりで腹減ってたわけだ、つーか誰かと一緒に学校でメシ食うの中学以来だ。
鞄から今朝買ってきたパンを出す。
「あれ?シンタローいつもお弁当じゃなかったけ?」
「ん、ああ、今日は由佳里に呼び出されたから母さん起きてなくてな…てかなんで俺が普段弁当ってしってんだ?」
「い、いや!ほらたまたま!たまたま目に入ってたっていうか!」
顔を赤くしながらあたふたとまくしたてられた…
隣の種川は後台院と一生懸命喋っている、俺の目には[好感度90%]と[好感度45%]の数値が見えているが、つまり後台院は種川のことを嫌いではないということだ。「無関心」の俺よりマシだろう、頑張れ種川!
ただ…後台院みたいな好き嫌いはっきりさせるタイプって、好きでも嫌いでもない微妙なポジションの人にはあんまり恋愛感情もたないんじゃないかって思うのは俺だけ?
◆◆◆
授業も終わり、部活もたぶん今日はもうないので帰ろうと昇降口に向かう。
下駄箱の前で上履きを脱ごうとしたとき…
「まちなさい!凪真太郎!」
後台院に呼び止められた。
「…………何か用か?」
「用もなく呼び止めると思いますか?まったく、それぐらい察してください」
やけに上から目線なのがイラッとくるな………いやね?確かに俺は成績でも人間性でも後台院さんより下だと思うけどさ!
「用があるのはわかってるよ、今の言葉はわかってても使うだろ、そっちこそ察してくれ」
「なっ!?」
「む~」っと後台院は口を閉じた、なんだろうこの違和感、「こいつ高圧的キャラで偉そうだな~」と思っていたが、ホントは違うんじゃなかろうか…
「と、とにかく!話があります、こっちにきてください」
「断る、あんたがこっちに来ればいいだろう」
「なぜあたしがあなたに合わせなくてはならないのですか?あなたが、来てください」
このやろう……あくまで上から目線か、このままじゃ押し問答だな、決着がつきそうにない。
それにさっきから後台院は昇降口前の廊下に立っている、歩いてる人たちが邪魔そうに避けてることに気付いていないんだろうか?やっぱどこか抜けてるなぁ。
「はぁ、じゃもうここでいいだろ、このまま話せよ」
「あなたは本当に馬鹿なのですね、こんな所で話をしたら他の人に聞かれしまうでしょう」
「聞かれたらマズイのか?」
聞きつつ俺は後台院の後ろに目を奪われていた、後台院の後ろには掃除用のロッカーが並んでいるのだが、それにふざけて乗ったりしている二人の男子生徒がいたのだ…
そして
「だからさっきも言ったでしょう、それくらい察し…え?ええ!?」
喋っている間にロッカーが後台院に向かって倒れ始めた、俺はそれを見た瞬間に全力で後台院に向かって走った、その距離3メートル。
「っ…つあぁっ!」
「きゃあ!」
ギリギリで後台院を押し倒し、直撃はさけられた…ロッカーが倒れものすごい音が鳴り響く。
「なっ、なっ、なっ…」
事態がのみ込めずフリーズしているが、後台院の無事を確認した俺は即座に立ち上がり二人の男子生徒に
「あぶねえだろ!!すこしは考えろ!!」
と怒鳴りつけた。
本当に大怪我をするところだったんだ、そりゃ怒るさ。二人の男子生徒の好感度は0になったが知ったこっちゃない、元々知り合いでもないしな、嫌われてもかまわない。
とまあ怒りをぶちまけて落ち着いたので振り返ると…
後台院が座り込んだままポカンとした顔で俺を見ていた、まるで俺じゃない人を見たような顔だった。
「っと、大丈夫か?」
俺はスッと手を差し出す。
「…………ん」
後台院はボーッとしたまま手を取り立ち上がる、そして繋いだままの手と俺の顔をなん往復かさせると…
「あ、あり、ありが…あ、あ」
なにか言おうとしながらどんどん首から顔全体、耳までリンゴみたいに赤くなっていった。
そして何より驚くことが起きた…………俺の目の前で後台院の俺に対する好感度がどんどん上がっていくのだ!
50…60…70…80!?
今まで好感度が変わるところを見たことがなかったから余計驚いた、いつもはだいたい次会った時には変わってたんだけど……うーん、もしかしたら俺が他の人を見てなすぎたんだろうか。
「あ、あり…」
「あの…後台院?」
あまりの出来事になにか言いかけていた後台院に声をかけてしまった。
すると後台院はビクッとした後、未だに繋いでいた手に再び視線を戻し、一層顔を赤くさせて…
「わーーーーーーー!!!!」
叫びながら上の階まで走っていった。
あの好感度を見た後なのでなんだか気恥ずかしく、追いかけることは出来ずそのまま帰った。
夜11時、そろそろ寝ようと思っていたタイミングで携帯が鳴った。
「なんだこんな時間に…また由佳里か?」
届いたのはメールだった、けど知らないアドレスだ……迷惑メールか?おかしいな、最近はアレ系のサイトにも登録してないはずだ…
内心ビビりながらもよく見ると件名に
「後台院紗織です」とあった。
「こんばんは、これからなにかとキャンプのことで連絡が取れた方がいいと思い、杏奈にアドレスを教えてもらいました。
別にあたし個人としては必要ないと思ったのですが、個人の考えで全体に迷惑をかけたくもないのでしかたなくです、本当にしかたなくですからね!
あたしの連絡先を添付しておきました、登録しておいてください。
………嫌だったらいいですけど。
紗織」
………これは…もしかして後台院はあの人種なのだろうか、たしかに金髪キャラは高確率であの特性を持っているけど…
とにかく返信しておくか、たぶんだけど今後台院、携帯の前で正座してそわそわしてるだろうし…
真太郎は知らないがこの時彼女は本当に携帯の前に正座してそわそわしていた。携帯を持ったのは中学からだったし、中学は女子校だったので男の子にメールするのは初めてだったからである。
相当な美少女である彼女には当然アドレス交換を申し入れる男子はそりゃあもうたくさんいたのだが、ものの見事に全員玉砕した。
そのような彼女がしかたなくでも男にメールをすることは本来ないのだ、ましてや杏奈に頼んでアドレスを教えてもらったりもしないだろう。
つまり真太郎に送ったメールの内容は最後の部分以外はほとんど嘘である、本当は自分の連絡先を教えておきたかっただけ、とどのつまり彼女は真太郎が想像した通りツンデレだった…
そんなわけでそわそわもぞもぞしていた紗織だが、目の前の携帯がメロディーを奏でると
「ひゃあ!」
と待っていたのに驚いてしまった。真太郎からの返信は
「嫌じゃないから登録させてもらったぞ、あと一応電話番号も知ってた方がいいと思ったから添付しといた。
これからよろしく。
真太郎」
という内容だった、少々素っ気ない気もするが、彼らしいといえばそうかもしれない。
画面を見ながらついにやける紗織、「嫌じゃない」と「これからよろしく」という言葉は彼女にとってはとても嬉しく、携帯を抱きながらベッドの上をついゴロゴロしてしまう。
何故自分はこんなにもこの男の子のことが気になってしまうのか……
話をしたのだって今日が初めて、しかも最初は杏奈に言ったように覇気もやる気もない、なんの特徴もないぼーっとした人としか思ってなかった。
けど杏奈がやたら褒めているので「杏奈となにがあった?」と聞こうと昇降口で呼び止め、言い合いになった時は「変な人だな」と思った。
あたしと面と向かって口喧嘩?なんてする人いままでいなかったから。
そして助けられた。あんなにぼーっとしてた人が急に真剣な顔になって、あんなに大声であたしのために怒ってくれた。
イメージが違い過ぎて、同じ人とは思えないくらいだったけど…なんだかカッコよかった。
それに手も繋いじゃったし……
とにもかくにも、気になってしまう。
このツンデレお嬢様が明日とんでもないことをしでかしてくれるとは、俺は予想もしていなかった。