早起きで三文とくをしても睡眠時間が削れた分損した気しかしない
朝、なんら変わらない俺の朝だ、幼馴染みの美少女が起こしに来るわけでもない、残念ながら可愛い妹もいない、姉はいるけど…アレを姉と思いたくない。
ようは一般的な男子高校生の朝なわけだ。
………なのに何故さっきから俺の携帯が鳴り続けている…!
アラームではない、いつも俺は7時に起きている、今は6時だ。
10分前から鳴っているが俺は鋼の精神力(眠気)で無視してきた、だがこうも鳴り続けるとさすがにうざい。
仕方ない、ぱっと出てぱっと切ろう。
応答ボタンをタッチして耳にあてる。
「もしも…」
「真太郎君!起きるのが遅いぞ!っとまあとにかく部活だ!今から学校に来てくれ!来なかったら君と杏奈ちゃんの関係を学校にばらまくぞ!じゃっ!」
「ちょ、ちょっと!なんですか私とシンタローの関係って!?先輩!?」
電話は切られた…
あの先生といい最近の人は会話する気があるのだろうか。
後ろから杏奈の声も聞こえてきた…もう学校に来ているのか。
仕方ない、行くとしよう。
しかし俺と杏奈の関係ってなんだ?
「ふぁ…」
てゆーか眠い、昨日はゲームやり過ぎたな。まあボッチや非リアは基本ゲームやアニメは大好きだ、実際それ以外やることがないのが現実なんだが。
どうでもいいことを考えながら準備を終える、まだ家族は全員寝てるだろうから静かに出よう。
「おはようございます!アニキ!」
部屋を出ようとドアノブに手をかけた俺に背後から挨拶が飛んできた。
ふりかえると相川が部屋の窓を開け、そこに立っていた。
「由佳里に言われてお迎えにあがりました!さあ!行きま…あああぁぁぁぁ!!!」
相川がなにかほざいてた気がするがダッシュの勢いそのままに渾身の右ストレートをぶちかまし窓から叩き出した。
ちなみに俺の部屋は二階にある、だからあんなところに人間が現れるわけがない、きっと夢だ、夢なら二階から叩き落としても大丈夫だろう。
「さて…学校行くか!」
学校には杏奈と由佳里も待っている、余談だが、あれだけのことをされて敬語を使う気が起きるわけがなく由佳里のことはタメ口呼び捨てである。
さっきのことはすっぱり忘れて家を出る、いつものようにドアを全力で閉めると親父どころか母さんと姉の安眠まで妨害してしまうのでやめておこう。晩飯抜きにされかねん…
「アニキ、殺す気ですか!?」
「…チッ!生きてたか」
出て早々相川に声をかけられた、なんて気分の悪い朝だ…
「まあいいです、行きましょう!二人とも待ってますよ」
言われてハッとする、そうだ、こんな朝早くから杏奈と由佳里という美少女が俺を待ってくれているのだ。よく考えたらすごいことじゃねーか!
まあ由佳里はあんなんだし、集まってる部活もよくわからん変な部だけど…
「よし、行くか!」
でも少しだけ、これからの日々にワクワクしてる自分がいることに、まだ俺は気づいていなかった。
近づいてくる梅雨を吹き飛ばすように、俺はペダルをこいだ。
「……………で、なんだこれ!?」
「草むしりだ、見ればわかるだろう?」
由佳里はキョトンとした顔で律儀に説明してくれた、いや違うんだ!聞きたいのはそういうことじゃないんだ!
朝早く学校に呼び出され、相川に案内されたのは中庭だった…
「いやだから!なんで草むしりしてんだ!?」
「部活だよ、先日事務の人から依頼がきてね」
おいおい、完全に雑用係じゃん!てか仕事しろよ事務の人!
「ほら隼人!あんたもやりなさい!」
「はいよ、了解」
相川は芝刈機のようにずばばばっと草をむしっていく…なんだろうこの状況、こんなのが俺の日常になるのだろうか?なんか悲しくなってきた…
がっくりと肩を落とす、もう帰って学校も休もうかな。
「あ!シンタロー!おそいよ~」
心のダメージが一瞬で回復していく、声の先にはジャージ姿(二年ふたりは気にせず制服)の杏奈がいた。
クラスで3番目とはいえやはり可愛い、こんな子が俺に接して、ましてや同じ部活に入ってくれるとは…
「さ!一緒に頑張ろう!」
「お、おう」
その言葉を聞いた瞬間、暗い思考が頭をよぎる。
一緒に頑張ろう、か…
大概こんな言葉を使うやつはろくなやつがいないと、俺は思っていた。そんなことを言ってくるやつは自分より下の人間の頑張りを心のどこかで嘲笑い、やはり自分はこいつより上なんだ、と自己満足がしたいだけなんだ、と。
けど……案外そういうやつだけじゃないのかもしれない、杏奈が言ったその言葉は、純粋だった。
上手く説明は出来ないけど、元々人の裏側を見るような性格の上に好感度なんて見えるようになったせいで閉じていた俺の心が、少し開きかけた気がしたんだ。
今までも、たぶん今も俺は俺が嫌いな「仲良しごっこ」をしていたんだろう。
杏奈にも種川にも、嫌いではないけど心を開いていたわけじゃない。
けれど…
「一緒に頑張るか!」
きっとこいつらは信じられる、いつか。
草むしりを終えて教室に入ったのはチャイムの2分前だった。
さすがにヘトヘトだ…
「おはようさん、なんか疲れた顔してんな凪」
「おはょぅ…」
種川への挨拶も疲労のあまりフェードアウトしてしまった。
机に突っ伏して睡眠体勢に入る。朝早くに起こされた上に強制労働させられたのだ、少しくらい休ませてもらいたい。
「おーい、寝るな凪!もうルリ先生来ちゃうぞ~」
「くそう…」
こないだは話がつうじなすぎたせいで紹介するのを忘れていたけど、昨日俺達の補習担当だったあのロリ教師は残念なことにこのクラスの担任だ。フルネームを柊 瑠璃という。
「おはよー!皆さん、元気ですか~?」
噂をすればルリ先生が教室に入ってきた、本当にタイミングいいな、なんなんですか?呼ばれたら飛び出てジャジャジャジャーンなんですか?
「今日の一時限目はLHRですよ~、来週のキャンプについて班分けをしますからね~」
クラスが一気に盛り上がるが、俺にとってはどうでもいい。
キャンプ自体は非常に楽しみだ、そもそも俺は友達は少ないが引きこもりというわけではない。アウトドアやスポーツも好きだし実は運動神経も悪くない、ただ一緒にやるやつがいなかっただけ…
話がそれたな…まあわかると思うが俺がどうでもいいのは班分けだ、たぶん種川とは同じになるからマシだろうけど、あれほど面倒なものはない。
誰と組むだの散々揉めたあげく最終的には一緒になった人とさも「仲が良い」風に振る舞う。
中学のころからアレには軽く吐き気がしていたのだ、好感度が見えてしまう今なら本当に吐いちゃ…表現がよろしくないな、胃の内容物が食道を逆流して口及び鼻からぶちまけられるかもしれない。
「凪、俺と組んでくれるか?」
予想通り種川が誘ってくれた、今回の班分けは男子、女子それぞれ二人の組をさらに合わせるらしい。だからもう俺の班分けは終了だな。
「ああ、こっちから頼もうと思ってたところだ、じゃ後よろしく」
「お、おう」
朝のホームルームはほとんど終わっている、加えて一時限目はLHR だ、すでに班分けが終了しているも同然の俺はすることがない。
というわけで、寝る!
疲労も手伝って俺は即座に深い眠りに落ちた……