友達が少ないやつほど友情を大切にする
「なん……だと」
俺に対する好感度が49%と、ギリギリ半分ない親父の安眠妨害のためいつも通り全力で自宅のドアを閉めて登校すると
〈今日の放課後、校舎裏に〉
という紙が俺の下駄箱に入っていた。
まさか俺の下駄箱がポストの役割をする日がこようとは…
そう、これはラヴレター、あの伝説のラヴレターだ!
感動のあまり目頭が熱くなる、泣くな真太郎!いや、嬉しい涙なら人は泣いてもいいのかもしれない。
「よーっ!…どうした凪」
「ああ、田中か」
この手の中の宝に比べれば至極どうでもいい話だが、俺と田中は友達である。
昨日、杏奈に話かけられたことについて聞かれて、先輩をひいたことやそのまま河に(以下略)ということを正直に説明すると…
爆笑された。
たけどその笑いは嫌じゃなかった、素直な反応だったから。なんとなくそのまま何気ない話をするうちになんか友達になっていた。
別に俺は友達とかが嫌いなわけではない、いやまあ好きでもないけど…
馴れ馴れしい仲良しごっこをする気はしないが、〈気の合うやつ〉がいることは否定しないし、結局はそいつが「友達」になるのだろう。
「なあ、オレの名前は種川なんだけど…」
………友達でも名前覚えにくいやつっているよね!
「お、おおそうだった」
「まあいいや、早く行こうぜ、遅刻するぞ」
一年生のクラスは最上階の四階だ、二年生、三年生の順に下に下がる。高さ的には最高ランクだが、便利さ的には最低だ、なにこの年功序列、階段クソ長いもうやだ日本の縦社会!
教室に入ると昨日と同じように杏奈が声をかけてくれた。
「おはよっ!シンタロー!」
「おはよう、杏奈」
「ねえ、今日シンタローひまかな?よかったら遊びに行かない?あ、ついでに種川君も」
「あ~…ゴメン、ちょっと用事が…」
うおお、行きてー!でも今日の放課後は…
ていうかあのラヴレターは杏奈じゃないのか、俺なんかにこんなものよこすの杏奈くらいだと思ったんだけどな。
なんせ俺に対して好感度70%以上なんて女子は杏奈しかいない、少なくとも俺にが知る限り、とゆうかいたら知りたい。
「そっか、残念!また…今度行けるかな…」
「ああ、楽しみにしてる」
こっちから誘いたいくらいだ。
杏奈が俺のことを好きかどうかなんてわからない、[好感度]はあくまで[好感度]なのだ。
まあ実際80%くらいまでいくと9割方そいつのことが好きだけどな、残りの1割は幼馴染みとか、同性とかだ。
だから俺は、杏奈も「友達」として認識している。
「お、先生くるぞ、席座ろうぜ」
「うん、シンタロー、種川君、またね」
杏奈はパタパタと席に戻っていく
「…なあ凪、オレついでって言われた、西條さんに」
「気にするな、誰にでも優しいやつなんていない、いたとしたらそれは偽善者だ」
「妙に説得力あるけど、なぐさめになってねー」
チャイムと同時に先生が入ってきた。
本日の授業は放課後のことで頭がいっぱいでかけらも集中出来なかった。人は楽しい時間ほど短く感じるというのは本当だ。
たな…種川に挨拶してから、そそくさと校舎裏に急ぐ。やべ、スキップしそう。
果たして俺の前に現れるのはどんな子だろうか?
清純、ギャル、ツンデレ、どじっ子、萌えっ子、はたまたヤンデレだろうか
「お前か、凪真太郎ってやつは」
…………ヤンキーが来た。
「呼び出しに素直にしたがったことは褒めてやるよ」
呼び出しだと?そんなんされた覚えはない、あったら逃げる全力で!
ふとポケットに突っ込んだ手に紙が触る。…………………ああ、これか。
今朝の〈今日の放課後、校舎裏に〉はラブレターじゃなくデスレターでしたか。もうこんなフラグには騙されない、心に誓う。
とりあえず逃げようとしたが、四人で来たヤンキーはすでに俺を囲んでいた。「おい相川、こいつどうすんだ?」
相川…確か杏奈に言い寄っていた二年生か。
「とりあえず、こないだ俺を自転車でひいた償いをしてもらわないとな」
げ!なんで俺だって知ってんの!?
だが俺はしらを切る、なんとか誤魔化さないと何をされるかわかったもんじゃない。
「なんのことすか?」
「とぼけんな!あの日心臓破りの坂を激走したのは〈凪真太郎〉だって噂は広まってんだよ」
わお俺有名人!なんで普段名前なんて全然覚えてもらえないのに、こういう噂が広がるのってバカみたいに早いんだろ。
「あ、あれ~…マジですか」
「おかげで杏奈にもフラれちまうしよ~!踏んだり蹴ったりだぜ」
正確に言えばひかれたりフラれたりですがね~。
それより、今の言い方引っ掛かる。フラれたと言う割にはまったくショックを受けた様子じゃない。
俺の友達の友達の話だが、そいつはフラれた時、3日寝込んだ。こんな風に平然と「フラれた」なんて言える精神状態じゃなかった。
「もしかして相川先輩、杏奈のこと好きじゃなかったですか?」
「あ~?なんだいきなり、好きだったに決まってんだろ~」
やっぱりな、たぶんこいつ、杏奈のこと好きじゃない。
好きじゃない人と付き合おうとしてたってことは、何かあるのだろうか。
この状況を乗り切るには、そこを突くしかないと、俺の直感が言っている!
仕方ないな、あんまりやりたくないけど…
俺は目をつむり、集中する。
実は俺の能力には好感度を見る以外に、もうひとつ出来ることがある。俺が集中して見ようとした時だけ、その人の[プロフィール]を見ることだ。
身長、体重はもちろん、趣味やその他もろもろの情報がわかってしまう。
唯一の救いは、好感度と違って自分でon・offが出来ること。
目を開き相川先輩のプロフィールを見る、どんどん情報に目を走らせると…
「おい、てめー!なにジロジロ見てん…」
「原 由佳里」
「なっ!!!!」
俺は「好きな人」の枠にあった名前を呟いた。
「あんたの好きな人だろ」
「なんで、なんで知ってる!?」
相川先輩はさっきまでの高圧的な態度と変わって怯えたように俺を見る。
「そんなことどうでもいい、あんた好きでもないのに杏奈と付き合おうとしてたのか?その理由はなんだ」
反対に俺は憤りが少しずつ態度に出てくる、周りのヤンキーは何がなんだかわからず混乱している。
「そ、それは…」
「言え」
「そ、その、俺は由佳里に告白して、どれだけ俺が由佳里が好きなのかも説明した、けど「あなたはなにもわかってない」て…フラれたんだ。だから他の女と付き合って、なにかわかればきっと由佳里とも付き合あえると思って…」
「杏奈を選んだ理由は?」
「なんか、軽い女だと思って、こいつならすぐ落とせると思ってたんだ」
「そうか…」
人が人をどう思うかなんて個人の自由だ、そこに自分の認識を押し付けようなんて考えやしない。
けど、「友達」を軽い女と言われていい気はしない…!
「悪いかよ!俺はなんとしても由佳里と付き合いたかったんだ!」
物事に良い、悪いとかはない。全てのことはその人の価値観と固定観念で勝手に善悪に分けられるだけだ、だから…
「あんたのやったこと、俺は否定はしねえよ、ただ個人的にムカつくだけだ!」
腕を引き絞り、相川の顔面におもいっきり拳を叩きつけた。
「…あとで杏奈に謝っとけ」
クリティカルヒットだったらしく、相川は動かなかった。周りのヤンキーも、別に仲間というわけではなかったらしい。校舎裏を去る俺を追っては来なかった。
「……………ガラにもなくマジっぽいことしちゃったな」
ポツリと呟き、俺は新品の愛車に乗って坂を下った。