人は一部が突出するとどこかが致命的に欠落する
読んでくださった方、お久しぶりです。ほぼエタッてましたが復活しました!
種川の話を聞いてからもHRは長引いていた、もうじき行われる体育祭の組み分けをやっているからだ。この学校の体育祭はクラス内で二つに分かれて各学年二チームの合計六チームで争うらしい、その説明が終わった時点でチャイムが鳴ったから、チーム分けのくじ引きのために時間を延長しているというわけだ。
クラスの皆が緊張した表情でくじを引いていくうちに俺の番になった、すでに引き終わった連中は誰と同じチームだなんだと騒いでいる。「お!一緒じゃん、がんばろーぜ!」とか言って肩を組んでるやつらの好感度が、お互いに50%もないのにはさすがに見ていて複雑なモノがあるな…
さて、俺もさっさと引くか。
くじを渡す係から折りたたまれた紙とウインクを受け取った。
「赤組か…」
どちらのチームでも別に問題はないんだけど。
「真太郎は赤ですか、では私とは敵同士ですね。一切、手加減はしませんよ?」
負けず嫌いな紗織のことだ、本当に手加減しないだろう。厄介な相手が敵に回った。
「ああ、やるからには全力だ、負けないからな」
「あ!シンタローは赤なの?じゃあ一緒だね!」
「オレは青だ、よろしくな後台院さん」
俺たち四人はうまいことバラけたみたいだな、俺と杏奈は赤チーム、紗織と種川は青チームになった。
「は~い、これで体育祭のチーム分けはおしまいです!本番まで1ヶ月ですから、皆さん頑張ってくださいね。それじゃあ由佳里さんお待たせしました、手伝ってくれてありがとうね」
「いえいえ!では行くぞ!真太郎君!杏奈ちゃん!」
さっきまでくじを渡していた由佳里が大声で呼んでくる。そう、クラスのみんなは別に体育祭のチーム分けに緊張の面持ちで臨んでいた訳ではなく、いつも通り終業のチャイムと同時に教室に飛び込み、HRが終わっていないならと勝手にくじを渡す係をやり始めた由佳里から紙を手渡されることに緊張していただけなのだ。
確かに由佳里は整った顔立ちに艶やかなロングの黒髪、引っ込むところは引っ込んで、出るところは『無い』とは言えない程度に出ている。喋りさえしなければこんなクールビューティー(笑)からくじを手渡しなんて、男子どころか女子まで緊張するだろう。
俺も普段から由佳里と接して、あいつの傍若無人っぷりを知ることがなければ、みんなの様にときめけたんだろうか…
「はぁ………」
部室に向かう途中、思わず出たため息に由佳里が振り返る。
「どうしたんだい真太郎君、ため息なんてついて」
「いや…知らない方がいいこともあるんだなとしみじみと実感してな…」
暗に「お前のことだ」と伝えるため、由佳里を半眼でにらみながら答えると、由佳里はそれを汲み取ったのか軽快に笑った。
「それは確かにそうだ、けれど知って得をすることもあるし、良いこともある。世の中はいつだって公平ではなく平等なのだから、アレはいいことだけ、コレは悪いことだけ、なんてあるわけがないさ」
「公平じゃないのに平等なの?シンタロー、どういうこと?」
横を歩く杏奈が疑問符を浮かべていた。
「杏奈は解らないだろうし、それこそ知らない方がいいことかもな」
「そっか!じゃあいいかな」
「それはそうと、今日は相談が来ているんだ。二人には働いてもらうぞ!」
それはずいぶんと珍しいことだ、俺が不本意ながら所属している[なんでもお悩み相談部]、通称NO相談部は簡単に言えば人助けの部活だがその活動は大きく二種類ある。一つは部活名のとおり悩みを解決する『相談』、もう一つはこんなふざけた部活が認められている対価として、学校関係者から与えらえる雑用をこなす『依頼』だ。
どちらが多いのかと聞かれれば当然ながら圧倒的に後者、『依頼』である。というか俺がこの部に入ってから雑用しかやっていなかった…
「おおー!初の相談ですね!!誰からなんですか?」
「科学部からの相談だ」
「科学部なんてあったか?部活動紹介にはいなかっただろ」
まあそれはこの部も同様なんだが…
「ああ、公式には存在しない部活だからね、真太郎君は波佐間海斗〈はざま かいと〉という人を知っているかい?」
「波佐間海斗って…まさか!?」
「そう!超天才少年発明家、しかし発明品を発表するだけで一切技術公表も行わず商品化もしないのでその発明品が市場に出回ったことは一度もないというあの波佐間海斗さ!」
「あ、あたしも聞いたことあるよ。テレビでやってたんだけど…はんじゅーりょくぼーど、だっけ?」
そう、反重力ボードや拳銃型空気圧縮砲など主に十四歳頃に特定の病を患った少年少女の心をどストライクに打ち抜く彼の発明品は純粋に科学的にもとんでもない価値があるらしい。かくゆう俺も彼の発明に魅了された一人だ。
「彼はこの学校の二年生なんだ、ちゃんと名簿にも載っている正式な我校の生徒だ」
「マジか!?俺の一つ年上ってのはしてたけどまさかこの高校にいるなんて…ていうかそんな話聞いたことないぞ」
「それは当然だ、彼は入学式にすら出席せずその後も一度として在籍するクラスに現れたことがないのだからな」
なにそれどういうことなの?
「どういうことなんですか?先輩」
杏奈も俺と同じ気持ちのようだ。
「うむ、ここが科学部につながるんだ。波佐間海斗は日本を離れる気は全くない、しかし最低限高校卒業資格くらいは取っておきたい、だが授業を受けるくらいなら研究をしていたいと考えていたらしい」
なんともまあわがままというか…頭いいのに頭悪いこと言ってるな。
「確かに日本は飛び級とかないしな、でも確か試験かなんかでその資格って取れるんじゃなかったか?」
「その通りなのだが、なぜ彼があえて学校に通う選択をしたかまでは本人しかわからないだろうな。そして本題はここからだ!どこから聞きつけたかは知らないがここの校長が波佐間の情報をつかんだらしく、彼に話を持ち掛けたのだ、研究のためのスペースを与える上に、クラスや授業に出席せずとも卒業させるからぜひ当校に来てくれ、とな」
「え?あれっ!?それって全然入ってもらっても意味ないんじゃ…?」
困惑に顔をしかめる杏奈、どうやらこいつはここまで聞いて何一つわかっていないようだ。国語のテスト大丈夫だろうか…
「あのなぁ…学校はあの波佐間海斗が在籍してたってだけでも箔が付くし、人気が出る、入って卒業してくれるだけでも十分ってことだ。ついでに今言ってた研究のためのスペースってのが科学部っていうカモフラージュをされてるわけか」
「ご名答!さすがは凪真太郎君だ」
なんでだろう…褒められたのに全然嬉しくない、なんかこう社会の薄汚れた部分を察するのは得意だな、的な感じが含まれてるみたいで…
「社会の薄汚れた部分を察するのは得意だな!」
言いやがったよ。
「ほっとけ、ていうかなんでお前がそんな事しってるんだよ」
「ん?ああ、君たちがキャンプに行っている間寂しくてね…そこでふと昔に部活を作るために集めた校長の弱みの中にこの話があったのを思い出したのだよ」
もうつっこまんぞ。
「で、お前は科学部に行ったんだな」
「え!?先輩行ったんですか!?」
何を驚いているんだ杏奈、相川の話を聞いて俺をこの部に強制的に入部させるような由香里がそんな話を思い出してじっとしているわけがないだろう。
「最初は相手にされなかったがね、なにぶん私もやることがなかったから毎日遊びに行ったら彼も少しづつ心をひらいてくれたよ、まあそんなわけで今回はその彼からの相談なんだ」
そう話しながら由香里は自分のスマホを渡す、開かれたメッセージアプリの内容はこんなものだった。
『君の部活に相談がある、対人でないとできない実験なんだ。運動の得意な実験動物…間違えた協力者はいないかい?』
「………」
黙って杏奈にもスマホを渡すと、俺は走り出した。
さあ行こう、あの場所へ、全速力で、
昇降口へ