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正座で足が痺れるまでの時間は結構個人差がある

 さて、状況を整理しよう。

Q,俺は今何をしている?

A,正座をしている。

Q,どこで?

A,教室のドアの前で。

Q,なぜ正座をしている?

A,紗織が怒っているから。

Q,ではなぜ紗織は怒っている?

A,わからない。


 詰 ん だ


「さて真太郎、どうして私がこんなことをしているかわかりますか?」

 にこやかに、確かな怒気を孕んで俺に問いかける。しかし紗織のその問いは今しがた自問自答の末に「わからない」という結論が出たばかりだった…

「わ、わかりません…」

 正直に答えた、そうするしかなかった、そしてその結果として、怒気が殺気に変わった。


 終 わ っ た


「そうですかわかりませんかキャンプの前私にあれだけのことを言っておいて今朝女の子と楽しそうに二人並んで登校してその横を私が乗っているリムジンが通ったのを見ているのになぜなんでどんな理由で私がこんなにも不機嫌になっているかがわからないんですかそうですか」

「怖い怖い怖い!!!ごめんなさい!!今わかりました!でも違うから!今朝一緒にいたやつはいろいろあってたまたま並んで登校しただけだから!」

 ものすごい勢いで責められた……息継ぎなしのノンストップ攻撃だったぞ、紗織さん大丈夫だよね?あなたにヤンデレ属性なんて付いてないよね!?

「いろいろ、ですか…それはどんな『いろいろ』なのですか?」

「いや、その、それは………」

 自転車に乗ってたら自転車に追突されたって、どう説明すればいいんだ?俺自身でさえもその言葉だけ聞いたら「は?」ってなるぞ。

「言えなんですか、言えないような『いろいろ』があったんですか」

「ち、違うぞ!ちょっと事故っただけなんだ、それで責任感じたあいつが俺の荷物を運ぶって聞かなくて」

「では真太郎が被害者、彼女が加害者ということですか、そのわりにはずいぶんと楽しそうにお話ししていたようですが、ねぇ?」

 紗織の笑顔は一向に崩れる気配がないのに不機嫌のオーラだけがどんどん膨れ上がっている。

 怖い、怖いよ!なんか『病み』に落ちたっていうより『闇』に堕ちたって感じなんですが!?

「凪の言ってることは本当だよ、後台院さん」

「種川君…」

 た、田中!っじゃなかった種川!まさかお前が助けてくれるとは!!

 ちょうど登校してきたらしい種川が、救いの手を差し伸べてくれた。

「凪が事故った時に遭遇してな、こいつ曲がり角から吹っ飛んで来てさ、びっくりしたよ。その後ぶつかったっぽい女の子と一言二言話してから凪は一人で自転車押してたんだけど、その子が戻って来て凪の荷物カゴに乗っけて歩き出したんだよ」

 すげえ……まるですっごい面白いもの見たからみんなに話そうと思ってまとめてた、ってくらい分かりやすい説明だ。

「だから別に凪が望んで女の子と二人で登校してたわけじゃないんだよ、ヤキモチ妬くのも分かるけど、そろそろ許してやってくれないかな?」

 ん?ヤキモチ?紗織は俺が気持ちに答えられないって言ったのに女子と二人で登校したことに怒ってるだけじゃなかったのか?

「ちっ、ちがっ…真太郎!そんな顔で見ないでください!違いますからね!!真太郎と二人で登校なんて羨ましいなんて思ってませんから!!」

「いや、そんなことは考えてなかったんだが…」

 今やあの恐怖の笑顔は紗織の顔にない、代わりに慌てふためく真っ赤な顔があった。

「~~~~~っと、とにかく分かりました!真太郎が女の子と登校したのは不可抗力だったと言うことですね!ではこの話は終わりです!!くれぐれも誤解しないでくださいね!ヤキモチなんて妬いてないですし、別に私も一緒に登下校したいとかそんなこと考えてませんから!!!」

 あの…思考がダダ漏れなんですが…

 金髪をなびかせ紗織は自分の席に戻る、するとクラス中からの視線がスッと消えたのを感じた。完全に注目の的だったらしい、さっきまでの会話は何人に聞かれたんだろう…全部聞こえてる人がいたらきっと紗織に対するイメージが大分変わっただろう。

「あ~、足痺れた…けど助かったぜ、種川」

「なに、いいっていいって」

「しかしあのタイミングでお前が登校してきてよかったよ、あと少し遅かったら紗織がどうなってたか…」

「ああ、オレもそう思って出てきたからな」

「は?」

「いや~、凪のすぐ後ろにいたんだけど、お前がドア開けてすぐに正座させられるし後台院さんがヤキモチ妬いて怒ってるのにもまるで気づいてないし、超おもしろかったからずっと見てたんだいだだだだだだだだだだだだだだだだ!!!ちょっ、凪!アイアンクローはやめろ!」

「もっと早く出て来いよ………!!」

 こいつはここで殺そう、俺が味わった以上の恐怖を与えないと気が済まない、あの恐怖以上のものなんて死の恐怖くらいだろう。

「あ、凪君に種川君、もうチャイム鳴ってますよ!」

 ルリ先生がチャイムと同時にやってきた。

「ルリ先生!助けてください!」

「ルリ先生、少し待ってください、あと十秒でこいつを始末しますから」

「もう、しょうがないですね…十秒だけですよ?」

「まって!?ルリ先生ちゃんと話聞いて!今こいつ『十秒』の後『始末』って言ったよ!?ルリせんせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」





「まったく、あそこまですることないだろ…」

「完全にお前が悪いだろ、あの時の紗織がどんだけ怖かったと思ってんだ」

 帰りのHR、復活した種川が隣から文句を言ってきた。お互いに小声でグチりあう。

「ていうか後台院さんがあそこまで怒ったのはヤキモチ妬いてるのに凪が気付かなかったせいだろ、好きな人にあんな態度されたらそりゃ怒るって」

「ブッ!!!!っ、はあぁっ!?」

「凪君、どうかしましたか?」

「い、いや、なんでもないです!すいません!」

 びっくりしすぎて大声を出しちまった…っていやいや!

「た、種川、お前なに言って…」

「いや、凪だって分かってるんだろ?後台院さんがお前のこと好きだって、というかクラスでも何人かは気付いてるぞ?」

「それは…分かってる…けど、俺が言いたいのは種川、お前は…」

 種川の紗織に対する好感度は90%だ、それはつまるところ、

「ん?もしかして凪は、オレが後台院さんのこと好きだと思ってたのか?」

「違う…のか?」

 家族でもない、ずっと前から一緒にいるわけでもない、そして好感度は90%、それでも恋愛感情を抱いていない?

「違うよ、確かに普段からオレの後台院さんへの態度を見てるお前なら、勘違いするのはしょうがないかもしれないけど」

 そう話す種川の顔はどこか自分を責めるような影が見え隠れしているように、俺には見えた。

「オレは後台院さんに憧れてるんだよ」

 そして、嘘はついていないと、なんとなく感じた。

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