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弟と比べて妹フラグの回収速度の速さは異常

「いっ………てぇ~~…」

 最近の朝は何もなくて平和だなー、とか思ってたとこからこれかよ…

 自転車乗ってるのに自転車に跳ねられるとかどういうこと?

 本当にここのところロクなことがないんだが、俺なんか悪いことしましたか…

 たしかにこないだめぐみに

「『スクランブル』ってかき混ぜるってだけじゃなくて緊急出動って意味もあるらしいぞ」

 って教えたらあいつが次の日の朝食で親父に

「スクランブル~~~っエッグ!!」

 と叫びながらスクランブルエッグを顔面に叩きつけたのはさすがに親父に罪悪感を感じたが…あれは俺のせいじゃないよね!?

「あの、大丈夫!?」

 はね飛ばされた勢いで半回転した俺の視界に赤いツインテールが入り込んだ。

「あ、ああなんとか…」

 起き上がりながら彼女の姿を確認する、一言で言えば小柄な美少女、だろうか。

 普通こういう女の子との出逢いっていうのは遅刻しそうな時に曲がり角でぶつかって、とかじゃないんですか?

 しかもあれは走っている主人公とヒロイン限定のイベントだ、自転車に乗った主人公が曲がり角で後ろから同じく自転車に乗ったヒロインに追突されるラブコメなんてあってたまるか。

「ごめんね、ぼーっとして前見てなくて」

「いや、気にしないでくれ。大したことな…痛った!?」

 初対面の女の子と会話とか不得意極まりないので早々に切り上げようと勢いよく立ち上がったら、あちこちに痛みが走った。

 かなりの勢いではね飛ばされたせいで、身体中に打ち身ができてるみたいだ。

「だ、大丈夫!?」

「へ、平気平気、なんともないから」

「そう…なの?じゃあ、ごめんね、バイバイ」

 そう言って赤いツインテールはもう一度自転車に乗り走り出した。

「…………ふう」

 なんとか一人になれたか、けど痛くてチャリこぐのは…ムリだな!

「よっと…押して行くならなんとかなるな」

 ここから心臓破りの坂だけど…

「…くそ、普通に歩くよりキツいな……って、あれは…?」

 体の痛みに耐えてのらりくらりと坂を登っていると、眼前の坂から赤色のなにかが凄い速度で下りてきた。

「やっぱり全然大丈夫じゃないじゃないのよ!!」

「うえ!?さっきの!わざわざ戻ってきたのか!?」

「だってあんた怪我してるのにぶつかった私がそれ置いてくなんてひどいにも程があるでしょ!?平気とか言ってたけど自転車押してるし!」

「い、いやぁ、あれはあの状況から解放されたいが故についた致し方なき嘘というか…」

 初対面女子とマンツーマンで会話とか苦手なんですよ、なのでさっさと先に行ってくれるととても助かったんですが…

「なんでそんな嘘つくのよ…?まあいいわ、私も一緒に行くわよ。荷物こっちに乗せてあげるから、これなら少しは楽でしょ?」

 言いながら俺の鞄を自分の自転車かごに乗せる彼女に、俺は逆らうことが出来なかった。

「…助かる」

 二人で自転車を押して歩く、俺の目に映るのはいつもの道と彼女の顔、そして[好感度38%]の文字。

 恋が始まる予感がまるでしない現実である、まあ俺自身まだ誰かを好きになることなんてないと思うが…

「そういえば、あなた名前は?」

 たしかにそういえば、だ。お互いの名前を知らずに並んで歩いていたんだな。

「凪真太郎だ、お前は?」

「そう、私は……って凪真太郎!?」

「な、なんで急にそんな距離を取るんだ?………っ!?」

 俺の名前を聞いた途端に青ざめて下がった彼女の好感度が[好感度6%]…ってなんで!?

「あの凪真太郎!?学校の美少女の弱味を握って自分の世話をさせて、二年生を絞めて舎弟にしただけでは飽きたらず、私のお兄ちゃんと禁断の関係を築こうとしているっていうあの凪真太郎!?」

「ちょっとまて!?なにそれ!?なんなのそれ!?たぶんそれは俺のことだけど全部誤解だから!」

「いやぁ!近づかないで!お兄ちゃんは渡さないから!」

「だから誤解だって!!!取り敢えず話を聞いて!!!!」

 いやいやと首を振る彼女のツインテールに顔をぺしぺしと叩かれながらも必死になだめ、誤解を解くのにかなり時間がかかった…

 


 緋居美姫あかい みき、クラスは違うが俺と同じ1年生で、キャンプ以来一緒に居ることが多くなった俺の友人、緋居縺の妹らしい。

 双子ではなく年子だと言う、レンが4月、美姫が3月に生まれたので学年が一緒になったとのことだ。

「と、そんなわけで…いろんな偶然や出来事が重なってそんな噂が流れているみたいだけど、全部誤解なんだ」

 彼女、緋居美姫の説得は困難を極めたが、なんとか俺はノンケ(普通に女性が恋愛対象)であることを伝えてからは落ち着いて話を聞いてくれるようになった。

 おかげで互いに自己紹介をやり直し、他の噂に関しても説明することが出来たんだけど、この子一人の誤解を解いても噂が広がるのは止められないだろうなぁ。

「そうだったの…ごめんね、最近お兄ちゃんが男と付き合ってるって噂があったからつい…」

 そうか、そんな噂が…確かにレンは外見的に目立つ、そしてこれまで周りとほとんど関わりを持っていなかったのにキャンプの後からよく俺と一緒に居るようになった。加えて俺は紗織や杏奈と急に関係を持ちだして悪目立ちしている。

 以上の情報から、腐った女性陣がどういう結論を導き出すかは……わかりきっている。

「そっか、けど本人に確認すればよかったんじゃないか?」

「もちろん確認したわよ!凪真太郎って人とどういう関係なの!?って!そしたら…」

「そしたら?」

『真太郎は、僕の…はじめての人…だよ?』

「って!!!!!!」

 その言葉を聞いたときの悲しさを思い出したのか、美姫は涙目だった。

 俺も両手で顔を覆って俯いた。

 手を放したせいで倒れた自転車が、悲しみを表すようにカシャンっと音を立てる。

「たぶんだけど………その[はじめての人]ってのは、[はじめての友達]って意味だと思う」

「わかってるわよ!あなたの話を聞いて気付いたわよ!!」

 まだ時間を共にするようになってからそれほど経っていないが、レンの言語能力の低さはかなりのものだと、俺は知っていた。恐らく他人とのコミュニケーションを長年取れなかったせいで自分の伝えたいことを言葉にするのが下手になってしまったのだろう。

 この間レンが俺に

「数学、ください」

 なんて言ってきた時は数学の教科書を貸して欲しいって意味だと理解するのに2分かかった、まあ俺も持ってなかったから種川に借りてそれ貸したんだけど。

「…そりゃ勘違いもするわな、別にあんたが悪いわけじゃないみたいだしここは痛み分けってことで、いいか?」

「ええ、でも悪かったわ、よく知りもしないのに噂だけであなたを悪く言って」

 申し訳なさそうに謝ってくる彼女の好感度は48%まで上昇していた、間違いなく誤解は解けたみたいだ。

 倒れた自転車を起こしながらこっちの気持ちを伝える。

「気にしないでいいよ、えっと…緋居さん」

「ミキでいいわ、お兄ちゃんと一緒になっちゃうし、緋居って呼ばれるのはなれてないから」

「そか、じゃあ俺のことも好きによんでくれ」

「それじゃ…ナギ、って呼ぶわね」

 そう言ってミキは笑って見せた。

 その笑顔を見てふと、ミキの赤い髪に意識が向いた、彼女もきっとレンと同じ苦労を少なからずしてきたはずだ。それでもこんな笑顔をつくり、赤の他人だった俺ともここまでコミュニケーションを取ることが出来る。

 きっと彼女はとても強いのだと、俺は僅かな嫉妬と、それを覆い尽くす感心を抱いた。


 


 教室のドアに手をかける、ミキとは二人で駐輪場まで行きその場で別れた。

 坂道の途中でリムジンが通り、ミキが思い出したように紗織と杏奈のことをどう思っているか、なんて聞いてきた時は少し困った、自分でもよくわからなかったからだ。悪く思っていないのはたしかなのだが…

 話題を変えるためにミキからさっきの噂について聞いてみたところ、どうやら俺が紗織と杏奈の弱味を握っているとか、二年の先輩を絞めて舎弟にしたなんて噂はそこまで広まっておらず、むしろ俺とレンの禁断の関係のほうが女子の間で爆発的に広まっているらしい…

 元々女子の間では隠れイケメンとして注目されていたレンと、学校有数の美少女と行動を共にする凪真太郎の組み合わせは一部にとっては美味しいらしい。詳しくは知りたくない…怖い…

 思考によって背中に走った恐怖を払うように、ドアを開けた。

「おはよ…う?」

 開けたドアの前に、紗織が立っていた。

「おはようございます、真太郎。話があります、そこに正座してください」

 矛盾するかもしれないが、にこやかな鬼の形相で。



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