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ルールを守っていれば事故には遭わないと思っているバカは認識を改めろ

「…やります」

「…ダメだ」

「やります」

「ダメだ」

「殺ります」

「なんか今のニュアンス違くなかったか!?やめろ!包丁を向けるなっ!」

 川遊びを終え、バーベキューを始めたのだがここで問題が発生した。

 紗織が準備をしようとするのだ、そんなことをさせれば俺たちが殺されかねない。

 カレーの一件からして紗織が怪我するかもしれないし…

「なぜ私にはやらせてくれないのですか!?杏奈も種川君もやっているのに!」

「お前にやらせられないから二人がやってるんだ!」

「だから私だって料理をしたことくらいあるんですからいいじゃないですか!」

「カップラーメンは料理じゃねぇっつってんだろ!?いいか、あの作り方が通用するのはカップラーメンとコーンポタージュだけだ!」

 なんだか初めて会った日のことを思い出すなチクショウ…

 だが今回はこれでいい、俺が紗織の相手をしている間に杏奈と種川がバーベキューの準備を終えるはずだ。

「なっ!?…大体、なんの理由があって私を止めるんですか!?」

「心配なんだよ!紗織のあの手付きじゃいつ怪我するかわかったもんじゃないからな」

「っべ、別に心配なんてしなくても…大丈夫…なのに」

 急に赤くなって、紗織は勢いを失った。あ、あれ?俺そんな恥ずかしいこと言った?

「おーい!準備出来たよー!」

「お、でかした!ほら、いくぞ」

 任務完了だ、不毛な言い合いも時間が稼げれば今回は価値のあるものになるのだ。

 焼かれ始めた肉や野菜のいいにおいが鼻をくすぐる、なんかこう…腹の減るにおいだよな。

「納得できません…なんで私だけ…」

 ったくまだむくれてるのか…しょうがない、ちょっとフォローしとくか。

「あのな紗織、たぶんだけどさ、紗織は練習すればすげー料理上手くなると思う」

「な、なんですか急に!別にあなたに言われなくても…」

「でもそれはちゃんと教わったら、だ。昨日みたいに何も知らずにやったら絶対失敗するし怪我する。…だからさ、ちゃんと家のコックとかに習え、それだったら俺も食べてみたい」

 うんまあ最後のは俺の願望だけどね。

「そ、そこまで言うのならわかりました。…その…ちゃんと練習したら、食べてくれるんですよね?」

「食べたいって言ったろ?紗織の手料理なんて、男だったら絶対食べるよ」

 うん今度は自分でも恥ずかしいこと言ったと思う。二人とも顔がヒートアップした。

「おまたせ、悪いな準備任せちまって」

「ううん、早く食べよう!コゲちゃうよ!」

「ほんじゃまさっそく」 

「「「「いただきます!」」」」

 ジューシーな肉、瑞々しい野菜、うん、旨いな。

「ところでさっき何の話してたの?」

「紗織は練習すれば料理上手くなるだろって話だ」 

「そうだよね!紗織ちゃんきっと練習すれば大丈夫!……だよね?」

 なんで最後疑問形にしちゃうんだよ。

「大丈夫だろ、なんてったって後台院さんだしさ」

「はい、必ず身に付けてみせます」

 まあ大丈夫だよな、本人もやる気十分みたいだし少なくとも料理の品ではなく調理の過程で人にダメージを与えることはなくなるはずだ。

「あの…それで皆さんに相談なのですが、何を最初に作ればいいでしょうか?」

「ああ、練習で作る料理か、んー…そういうのってやっぱお前の家のコックとかに聞いた方がいいんじゃないか?」

「いえ、やはり一般の意見も欲しいのです、わが家の料理担当者は皆プロなので正直私に理解できるかわかりませんし」

 確かに一理ある、出来るやつは出来ないやつのことはわかんないもんだしな。

「はいはーい!卵焼きがいいと思うな!」

「まあ無難だな、卵を投げつけでもしない限り周りに被害もないだろ」

「俺は肉じゃがとかいいと思うかなー」

「種川、お前料理したことあるか?」

「ないぜ!」

「んじゃとりあえずシャラップ」

 初心者に肉じゃがはちとレベルが高い、何よりじゃがいもと人参がカレーと同じ運命を辿りかねない。

「卵焼き…ですか、わかりました、まずはそれから始めてみます」

 紗織の表情には気合いが見てとれる、後は後台院家のコックさんに危害が加えられないことを祈るだけだ。

「ん?なんか話しながら食べてたら案外早くなくなったな」

「うーん…でも食べたねー!お腹いっぱいだよー」

 紗織の料理話以降はとりとめのない話ばかりしていたが、やはり一人で黙々と食べているよりも時間が早く感じる。

「というか真太郎はほとんど食べているだけでしたよね」

「な、なんだよ、別にいいだろ、誰かと話ながら食べるのに慣れてないんだよ」

「そうだな…ごめんな凪、今まで一人にして」

 やめろ憐れみの目でこっちを見るな!べ、別に一人でも寂しくなんかなかったし?むしろ食事に集中できるから飯も味わえるし?全然…寂しくないし…

「シンタロー…」

「その、すいません…」

 二人まで申し訳なさそうにしないで欲しい。

…もう、泣いちゃおうかな。

 


「時々さ、学校燃えないかなー…ってガチめに思うことないか?」

「気持ちはわかるけど急だな、どうしたんだ突然」

 キャンプファイヤーを見ていたらふと思っただけなので特に意味はないんだが、本当に燃えなくてもいいからリア充もろとも爆発してくれないだろうか。

 二日目夜のメインイベントであるキャンプファイヤー、巻き上がる炎と駄々下がるテンション。

 闇夜に浮き上がる炎は確かに綺麗だ、だがこんなどこか幻想的な風景もあと少しでリア充どものキャッキャウフフのフォークダンスで埋め尽くされる。

 せめてもの救いがこのフォークダンスは自由参加であること、こちとら願い下げなのにわざわざ「〇〇と手繋ぐとかあり得ないんですけどー」とか言われずに済む。そもそも俺は誰かと一緒にやることとはほとんど縁がない…

「シンタロー!」

「あの…真太郎」

………はずだったんだけどなぁ。

「な、なんでしょう二人とも」

 言われなくても見当はついているんだけど…俺の思い上がりで全然ちがう用件である可能性もある。

「あのね、フォーク『よしフォークだな!ちょっとまってろ今調理場からもってくるから(俺)』って違うよ!?ダンス!フォークダンス一緒に踊ろうって言おうとしとんだよ!?」

 杏奈なら誤魔化せるかと思ったがダメだった。

「あ、ああ、フォークダンスな…んで、紗織は何の用だ?」

「そ、その、私も………ふぉ、フォーク…」

「フォークなら調理場、すんません」

 さすがに同じ誤魔化し方では無理かと思ったがやっぱ凄い睨まれた。

「コホン、…真太郎、私とフォークダンスを踊ることを許可します」

 …まさかここでこんなツンが来るとは思わなかったよ。

「杏奈、悪いな、俺は踊る気は無いんだ。あと紗織、その許可はいらん」

「えーっ!」

「なっっ!?」

 そんなことをしたら目立ってしまうどころか恨みを買いまくるに決まっている、実際ここ数日クラスの男子からの好感度がやけに低いのだ。ぽっと出の地味男がクラス有数の美少女二人とよく一緒にいると言うことで、良く思われていないのだろう。

 その上フォークダンスなんて踊ってみろ、終わった途端に俺は処刑台に連行されるだろう。

「ぶーっ!なんでよシンタロー!紗織ちゃん、論破だ論破!」

「こっちが論を唱えてないのにどうやって破るんだよ、だったらこっちは逆転すんぞ」

「いいでしょう、では真太郎、あなたがフォークダンスをしない理由は?」

「目立つから」

「それなら皆と離れた所でやれば」

「却下だ、見つかった時のリスクが高すぎる」

「む…でしたら真太郎だとわからないようマスクを」

「嫌だ」

「いっそのこと堂々と」

「断る」

「せめて並んで立つだけでも」

「拒否する」

 なんと言われようとも踊る気はない、命懸かってるから。

「……う…」

「紗織?」

「うがぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」

「えぇーーーーーーー!?」

 叫んでどこかに走って行ってしまった…

「追いかけるよ!シンタロー!」

「お、おう」

 俺達もそれを追いかける、そして、この時完全に忘れられていた種川の気持ちを俺達はまだ知らない。

「ぐす…っく、ひっく…」

 …紗織は割りと近くにいた。

 ていうか泣いてた、………ちょっと悪いことしたかな。

「わた…しは、いっしょにおどってみたかっただけなのに…ひっく…しんたろうのばかぁ…」

 俺達が来たことに気づいてないのか、素が出てるぞ…

「紗織」

 声をかけると肩が震えた。

「なんですか…ばか太郎」

 口調は戻ったがまだ拗ねていらっしゃる。

 どうするか、本音を言えば納得してくれるかもしれないけど…恥ずかしいしなぁ…

 でも俺の我が儘が紗織を泣かせたのは事実だ、だったら、せめて伝えなきゃいけないだろう。それが最低限の『男』ってもんだと思うから。

「悪かったよ、どうしても俺は目立つのが嫌なんだ…でも正直、杏奈にも紗織にも誘ってもらえてスゲー嬉しかった。それこそ踊り出しそうなくらい嬉しかったんだ。だからこそ、ごめんな」

 杏奈が気にしてないよー、と首を振ってくれる。そして、紗織は…

「…………ずるい」

「へ?」

「やっぱりずるいー!!!!」

「はあぁぁ!?」

 なんぞ!?また素になってるし好感度も85%に上がってる!?

 もう何がなんだかわからず、俺は考えることを放棄した。

 杏奈は紗織とその場に残り、思考停止した俺はキャンプファイヤーへと戻った。

「はぁ…疲れた…悪い種川待たせた、………?」

 声に反応しない種川の顔には悟りを開いたような微笑みと流れた滴の跡があった…

「っつ!すまない種川!!俺は…わかっていたのに!一人で放っておかれる辛さを知っていたはずなのに!!!」

 人形の様になった種川を俺は抱きしめた。

 そして俺の耳に届いた優しい囁き…

「いいんだ…」





 キャンプが終わってから一週間、特筆することと言えば毎日由佳里が放課後俺と杏奈を迎えに来るようになったせいで部活をサボれなくなったことと、紗織がデレると素が出るようになったことくらいだ。

 一ヶ月以上通い、そろそろ慣れてきた自転車通学だがまだ油断してはいけない。

 そもそも俺は…交通事故が原因で好感度なんてもんが見えてしまうようになったため、一時停止ではちゃんと止まるし信号も守る。

 今も路地から大通りに出る前に、ちゃんと一時停止した俺を…背後からのものっそい衝撃が撥ね飛ばした…

 よくわかんないけど自転車にぶつかられたみたいだなぁ…と吹っ飛びながら思考する、一瞬視界に写ったのは白い自転車と、赤いツインテールだった。


 交通ルールを


 守っても

 撥ねられるなら

 意味なくね?

 


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