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告白

受験で書けなかった分放出したため長編の上急展開です…( ̄ω ̄;)

 穴があったら入りたいって言うよね、俺は今、できることなら殴りたいよ。

 このイライラの原因は紗織の父、さっき聞いた名前は確か後台院大悟だったか。

「もっかい聞きますよ、なんで俺がここにいるんですか?」

「ん?ああ、俺が呼んだからだよ」

「だから!なんで!?」

 この人考えていることが全くわからん。

「面白そうだったからね」

「おもしろ…」

 もしかして、あれか…「自分が楽しいことしか考えない」タイプ、しかもそれを実現させちゃうタイプだなニュータイプですか?ガンダムとか乗れちゃうんじゃないの?その時はぜひ俺も乗せてください。

 イライラが呆れに変わりつつある。

「でも父さん、呼んだって言ったってどうやって?」

 紗織がもっともな疑問を口にした、実際親父さんがなぜ俺と紗織が一緒にいることを、そもそも俺が呼ばれる理由がない。

 俺の目に映っている好感度も28%と別段高いわけでもないし…

「いやー、それが…月島、リムジンの運転手が真太郎君の家の場所を忘れてしまったらしくてね、でも二人とも仲良く寝ていて起こすのも悪いと思ったらしくて、電話が俺にかかってきたんでじゃあうちに連れてこいって言ったんだ」

「何をもってして「じゃあ」なんだ…」

 ツッキーも何やってんだよ…普通に起こしていいよ、そんなおもてなしはいらん、そういうのはありがた迷惑と言います。はいここテストにでるよ!

「まあいいや、とにかく俺は帰る」

「どうやってだい?」

「は?」

「現在の時刻は11時、バスも電車も終わっている。君はタクシーを使えるほどお金も持っていないだろうし貸す気もない、おまけに我が家から君の家まではだいたい10キロ、歩いて帰ることもできないだろう?」



 ………お泊まり決定しました~!

 歩いて帰るとかムリだから、少し寝たけどまだ体めっちゃ重いし途中で倒れる。

「まあゆっくりしていってくれ、部屋は紗織の部屋を一緒に使っていい」

「はあ………はぁ!?」

「どういうこと!?お父さん!な、な、なんで真太郎を私の部屋に!?」

「おや?紗織は嫌なのかい?」

「へ?いえ、その…嫌と言うより…えっと…」

 あの…紗織さん、ここはハッキリ「嫌!」って言ってくれた方が助かるんですが…

 もじもじしないでスゲー可愛いから!

「嫌とかそんな問題じゃないだろ、どこに初対面の男を娘の部屋に止まらせる親がいるんだよ」

 ここにいるんだけどそれは置いといて

「ふむ、だが仕方ないのだよ。今我が家は使っていない部屋は全てリニューアル中でね」

 だからって…

「俺の部屋は仕事の資料なんかがあるから入れられないんだ、このリビングや廊下も急な客人が来たら使ってしまうしね」

 ぐぬ…つーかさっきからこの人笑顔で楽しそうに説明しやがって…





 その後何度も反論したがことごとく論破された、それも結構圧倒的に。

 どれくらい圧倒的だったかって言うと泣きながら「も、もう帰る!」とか言いそうなくらい、いや帰れないから困ってるんだけどさ…

 にしても、あの人俺が反論諦めたらガッツポーズしてやがったな…

 結局紗織の部屋に泊まらせてもらうことになってしまった、今は長ったらしい廊下を歩いているが、前を歩く紗織の表情は見えない。

 ほんと広いナーこの家、正直どこをどう進んだかわからないのでもうこの家から自力での脱出は不可能、メ○ルギアだったら詰んでるな。

「なあ、金持ちとは聞いてたけどもしかして社長とか?」

「ええ、まあ、父さんは『グート』の社長です」

「…マジか」

 『グート』とは、あらゆるジャンルに手を出し、大体成功させることで有名な大企業だ。たまに失敗もするとこでも有名。

 なるほど、確かにあの人が社長なら『グート』の性質も理解できる、「あの社長にしてあの企業あり」というわけか。

 端的な答えだったが紗織の声にはどこか誇らしげな雰囲気があった、きっと父親を尊敬しているんだろう。

「ここが私の部屋です」 

 廊下の突き当たりにあるドアを開けながら紗織が振り返った、その表情は固く、緊張しているのがまるわかりだがそれは俺も同じだ。

 女の子の部屋に入るのなんて姉の部屋掃除手伝う以外初めてなのでさっきから手汗がひどい、ガマガエルかっつーくらい。

 しかし俺も男だ、ここはもう覚悟を決めて突入する!

 内心で自分を鼓舞しながら開かれるドアの先を見据える、そこはクマさんやらネズミやらのぬいぐるみが並ぶとてもファンシーな………

「……あ!!」

 いきなり紗織が短く叫んだ。

「どうし…ドウフッ!!!」

 何事かと聞こうとしたら突然両手でどつかれた…超痛い。

 そして紗織は部屋に入るとドアをバタンと閉めて

「すすす、少しまっていてください!!」

 と言いながらなにやらドッタンバッタンやっていた。

 一体どうしたというんだ…お決まりの部屋が汚いから片付けるというやつなんだろうか?見た感じ別に汚くは無かった気がするけど。

 待つこと5分、遠慮がちにドアが開いた。

「ど、どうぞ」

「し、しつれいします」

 ぬいぐるみが……消えた。

 特筆することはそれぐらいで、とても綺麗な部屋だった、きちんと整理整頓されている。

 ただぬいぐるみが消えたせいか女の子の部屋という感じはあまりしない。

 こういう時にクローゼットを開けたりしたらダメなんだろうか…

 ふとお決まりのパターンから想像したがよく考えたらどんな時だろうが女子のクローゼットを勝手に開けるのは常識的にも社会的にもダメだった。

「そこに座ってください」

「ん、おお」

 二つあるクッションの片方を指差されそれにしたがう、紗織ももうひとつに座り俺達は向かい合う形になる。

「………………………………………」

「………………………………………」

 ……………き、気まずい!

 お互いに相手をうかがうような沈黙が続く、どうしたらいいんだろう。

 紗織は顔を伏せモゾモゾして、一向に話す気配がない。本来男であり、お世話になっている俺が何かしら話をしなきゃいけないと思うんだが…

 自分のトークセンスの無さに泣けてくる、きっかけすら作れず黙っているだけとは…

 何分が過ぎたか、そろそろ沈黙に耐えられなくなった時、救いの声がドアの向こうから聞こえてきた。

「お嬢様、お風呂の準備が出来ました。お客様もどうぞ、客人用がありますので」

 さっき紗織に絶叫された時飛び込んできたメイドさんの声だった。

 リムジンといいメイドといい豪邸といい、とことん「お金持ち」のイメージを裏切らない家だな。

「わかったわ、ありがとう」

「いえ、それでは」

 そう言うとメイドさんはどこかへ行ったようだ。

「真太郎も疲れてるでしょう?案内します」

「ああ、そうだな。頼むわ」

 正直クタクタだったので風呂はありがたい。

 紗織が案内してくれたからすぐ風呂場にはついたけどやっぱり自力で戻れる気がしないな…戻る時どうしよ。




「はあ、はあぁぁぁ~~」

 湯船に浸かると疲れが溶けていくようだ、温度も丁度良く、なんだかいい香りもする、うちのバスロマンとは大違いだ。

「ほんと、なんでこんなことになってんだろ?」

 言うまでもなく紗織の父親のせいである、まあ今さらだからいいんだけどさ…

 風呂は命の洗濯と、かのアニメで言っていたけど本当である。体が癒され心が洗われる。

「はふぅぅ~」

 あまりの気持ちよさに浸かり続けていたら…

「のぼせた………」

 いかん、元々俺はのぼせやすいんだった、もう出よう。

 脱衣所にはいつの間にか着替えが置かれ、制服は洗濯機の中でローリングしていた。

 シンプルなシャツと半ズボンでも、素材が良いのか着心地のよいものだ。

「さて…」

 どうやって部屋へ戻ろうかと考えながら脱衣所を出ると、

「待っていたぞ」

 さっきはスーツだった後台院大悟がアロハシャツを着て立っていた…

 ここで俺の選択肢は2つ。

1、「なんですか?」と素直に反応する。

2、俺に対する言葉ではないと解釈し、速やかにここから離脱する。

 当然2をチョイスした俺はとりあえず記憶を頼りに部屋に戻ろうと廊下を進みだした……が、

「待ちたまえ真太郎君、君と話がしたいんだよ」

 肩を掴まれ名指しで止められた。

「ついてきてくれ」

 まあ泊めてもらってる身なので逆らうことも出来ず、素直についていくことにした。

 



「さて、話をしよう」

 最初に目が覚めた広い部屋で、テーブルを挟んで向かいあう。

 紗織の父の真剣な顔もあり、緊張感を紛らわそうとメイドさんが淹れてくれた紅茶に口をつける。

「君は紗織のことが好きか?」

「ブッ!?……ゲホッ!…カハッ!」

 予想の範疇だったとはいえ思った以上にストレートだったので吹いた上にむせた。

「な、なに言って…」

「ふむ、では質問を変えよう。君は紗織の気持ちに気付いているかい?」

「……は?」

 今度は予想外の質問だった。

「もう16年も父親をやっているんだ、それくらいわかるさ」

「なに……言ってんだよ…」

 揺らぐ、今まで纏っていた、俺が作った『俺』という外骨格が揺らぎ始めていた。

「真太郎君も、わかっているんだろう?紗織が君のことを好きだということを」

「……………」

 わかってる、わかってしまう、『見えて』しまうんだ、わからない訳がない。

 場の空気が変わっていく、二人の雰囲気が普段と違う張り詰めた、刺のあるものになっていた。

「それに俺はね、その人間を見るとどんな人なのか、どんな考えをもっているのかが、何となく解るんだ」

 本当かどうかは判断出来ないけど、俺だって似たようなものだ。否定はできない。

「なら…解るだろ、俺がどんな人間か」

「そうだね、君はひどく歪んだ考え方を持っている。まず人を疑う、その人間の裏側や内面を探ろうとする、そんな人に見える。それは紗織も無意識的に感じているだろう、あの子もそういうことには敏感だからね」

 話を聞いて素直に驚いた、ほとんどその通りだから…だからこそ、

「大体あってるよ、そこまで解ってるならなおさらだ、そんなやつのことを好きになる人がいると思うか?」

 俺の質問に後台院大悟は肩をすくめて、しかし真っ直ぐに答えた。

「君がそれだけの人間ならいないだろうね、けれど違うだろう?それだけじゃない」

「………………」

 また俺は答えない。

 そんな俺に、後台院大悟は優しげな笑みを向けた。

「紗織から聞いた、君に助けられたこと、杏奈ちゃんにも色々してくれたこと。君は周りの人を放って置けないんだ、それも見て解ったよ」

「違う…」

「だからこそ気になるんだ、真太郎君の考え方はもともと持っていた君本来のものじゃない、今でも誰かを助けてしまうのだから変わったわけでもない。なにかきっかけがあって『追加されてしまった』んじゃないのかい?」

「うるさい…」

 やめろ、戻ってくる…

「君の過去には、なにがあったんだい?」

「うるせぇよ!!!」

 これ以上話を続ければ壊れてしまう、必死に作ってきた『俺』が、あの時に戻ってしまう…

 大悟はそんな真太郎を見て、10年前を思い出していた。

「すまかったね、身内にも君と同じような者がいるから…気になってしまったんだ」

「もう…戻ります…」

 そう言って真太郎は部屋を出ていこうとする、その背中に彼は最後の質問を投げ掛けた。

「君の言う通り、君のことを好きになる人がいないとして、君が誰かを好きになることはないのかい?」

 その言葉に真太郎はピクリと反応したが……答えることなく部屋を出た。



 



 部屋を出て、どう進んだか覚えていない。

 もうほとんどいつもの『俺』ではなくなっていた、いろんな事ぐるぐると渦巻いた頭で…

 最後に聞かれた質問について考えてたんだ。

『君が誰かを好きになることはないのかい?』

 確かに杏奈や紗織といて、心臓が高鳴る時はある、けど、その先の感情には届かない。

 どれだけ期待しようが勘違いしようが俺が好きになることは無かった。

 ………いや、好きになれない、それを俺自身が許さないんだ…

 きっと俺はまだ……

「遅かったですね、真太郎」

 思考が途切れる、いつの間にか紗織の部屋の前に着いていたらしい。

 待っていてくれたんだろう、ドアの前に紗織が立っていた。

「ああ、悪いな。待っててくれたのか」

 いつも明るく演じている俺を演じる、いつも通りの俺のはずだ。

「っべ、別に待っていた訳ではありません!少し風に当たろうとしていただけです…」

 紗織はそっぽを向いて否定する、本当に素直じゃないな。

「廊下で風に当たれるのか?とにかく部屋、戻ろうぜ」

「あ、当たれるんです!………もう、心配したのに……」

 二人で部屋に戻った。

 紗織のおかげで少し、いつもの俺に戻れた気がした、色々ありすぎてもう眠い。

「……で、俺はどこで寝れば…」

「あ……い、嫌でなければ…その、広いですし、同じ…ベットでも…」

 真っ赤になりながら言葉を紡ぐ紗織を見て、頭にさっき言われたセリフが浮かんだ。

『紗織が君のことを好き』

「っつ!それはさすがに常識的にマズイだろ!ほ、ほらアレ!布団とかないのか!?」

 急いで否定しながら問いかける、すると今更ながらに自分の発言が恥ずかしかったのか余計に赤面しながら

「そ、そうですねっ!お布団なら確かクローゼットの中にあるはずです!」

 俺も頭に浮かんだ言葉を意識しないようにしていて、頭が回転していなかった。

「わ、わかった!」

 結論だけ言えばこの時の俺の行動は間違いだった、他にどんな選択肢があったかなんて分からないけど、少なくとも俺が紗織のクローゼットを開けたのは失敗だったたんだ………





「おわぁ!!!」

 開けた瞬間、大量のなにかが流れ出して俺は埋まった。

「あ!」

 ベットに座ってブツブツとなにか繰り返していた紗織が声をあげる。

「…ぷはっ!なんだ!?…………て、ぬいぐるみ?」

 クローゼットから流れ出しきた20個はあろうかと言うぬいぐるみ達は、紗織の部屋を最初に見た時にあったものだった。可愛い、女の子らしいぬいぐるみだ。

「ち、違うんです!」

 そう言いながら紗織は走ってきて、ぬいぐるみをかき集める。

 それがとても必死で、本当に必死で、違和感を感じた。

「違うって…なにが?」

 でも俺の言葉は聞こえていないらしく、なお必死に否定の言葉を…

「違うんです!ちがっ…う…違うのぉっ…」

「なっ……」

 紗織の頬を水滴が走った…

 涙

 あの、あの後台院紗織が、泣いていた。

「どうしたんだよ!紗織!」

 声をかけても紗織は首を振って泣きわめくだけだった。

「違うの!わ、わたっ…し、こんなの好きじゃない、好きじゃな…いからぁ!嫌いにならないでぇ!」

 心の叫び、だから、直感的に解ってしまった。

 好きじゃない、嫌いにならないで、こんなことを言う理由は一つしかない。

「嫌わないで!ちがうから…お願いっ…だから…」

「嫌わない!絶対にだ!紗織がなにが好きだろうと、俺は絶対に嫌いになんてならない!約束だ!」

 だから、しっかりと両肩を掴んで、確信と自信を持って、彼女が好きなものを否定する理由を否定した。

「ほんとうに…?」

「ああ!本当だ!」

 本来なら人間関係に絶対なんてないだろう、それでもこの時俺は、本気でそう思ったんだ。

「じゃあ、じゃあ聞いて、私を嫌わないなら、聞いて欲しいの…」

「聞くよ、なんでも」

 それから、紗織はポツポツと、話してくれた、10年前のことを…

 




 10年前、彼女は小学校一年生だった。

 社長令嬢なだけあって確かに様々なものが一般の子供とは違ったが、一人の人間としてはなんら変わらない女の子だった。

 そう、可愛いものが大好きなただの女の子だったのだ…

 しかし、その頃の彼女は社長である父に恥じない子供であろうと、幼いながらに責任を感じていた。

 それ故に常に正しくあろうと、クラスの中心となり、クラスメイトにもそれを要求した。

 それは決して悪いことではないと思う。確かに強制や無理強いは良くなかったかもしれない。

 だがそれに対しても、正面から意見すれば彼女はしっかりと受け止めてくれただろう。

 しかし皮肉なことに、正しい者、正々堂々とした者ほど、陰湿な攻撃を受けるのだ。

 まず、彼女は誰とも遊んでもらえなくなった。陰で悪口も飛び交い、その端々が彼女の耳に入った。

 それでも彼女は変わらなかった、その気の強さから『男女(おとこおんな)』と呼ばれても…

 だがそんなものは強がりだった、むしろたった六歳の少女がここまで耐えられたのはそれだけ彼女の心が強かったからだ。

 そんな彼女に、さらなる追い打ちが襲いかかった。

 ランドセルに付けていたお気に入りのウサギのストラップ、それを数人の男子に奪われた時だ、

「返しなさい!返して!」

 叫ぶ彼女に男の子達は

「いつもギャーギャーうるさいクセにこんなの大切にしてんのかよ、キモッ!」

「キーモーイ!」

「キーモーイ!」

「キーモーイ!」

 普段からの仕打ちに加えて集団からこんな言葉を受け、もう心は限界だった。

 そして最後に、

「おとこおんなのクセにかわいいものなんか持ってるから嫌われるんだよ!」

 これで彼女の心は崩れた。

 この日から学校へ行かなくなり、それによって今更ながらいじめが発覚し、「グートの社長の娘をいじめた」と逆にいじめていた側が噂され転校していった。

 しばらくして彼女は学校へ戻ったが、進んで近寄ろうとする人はいなかった。

 彼女もまた、戻った時にはひどく変わっていた。

 以前のストラップも洋服も、可愛い、女の子らしいものを一切持たなくなった。唯一部屋の中に置くだけだった。

 かわいいものを持ってるから、かわいいものが好きだから嫌われる。

 そんな思いが彼女の奥深くに刻み付けられてしまったから…

 



「………そうか、そういう理由だったんだな…」

 話を聞き終わった俺の胸は疼いていた、重なったからだ、過去の自分と。

「それから1ヶ月くらいで、杏奈が転校してきたんです」

「杏奈が?」

「ええ、杏奈は私が社長令嬢なんてこと気にせずに、「遊ぼう!」って言ってくれて…………杏奈のおかげで少しずつ周りとも馴染めたんです」

 思い出しながら話す紗織の顔にもう涙は無く、綺麗な微笑みをたたえていた。

 思わず、見とれる…

「でも、何故わかったのですか?その、私が…泣いてしまった理由が」

「え?」

「言ってくれたじゃないですか、「なにが好きだろうと、絶対に嫌いになんてならない」って、あんなこと、理由を知らなければ言えませんよ」

「それは…同じだからだよ…」

「…え?」

 うかつにも正直に口にしてしまった、俺も同じだと、同じような経験をしているからだと。

 こんなことを言えば紗織が無視する訳がない、そんなことわかってたはずなのに。

「真太郎、あなたも…」

 紗織が真剣な顔つきになる。

「いや、いいんだ、俺は」

「そうやって!!!!!」

「…………な…紗織?」

「真太郎はそうやってなにか隠してますよね!?なんとなくですけど、解るんです!話してください!私だってもう話してます!」

「俺…は…」

 ダメだ、こうなるってわかってたのに…同じような経験をしてるからって、

「大丈夫ですから、今度は私が聞きます、だから一人で抱え込まないで…」

 紗織に、この優しさに甘えてしまう…





「俺は、俺には親友が…親友だと思ってたやつがいたんだ。家も近くてよく遊んでた」

 話してしまっていた、自分でも、話し始めたら止められなかった。

「でも小学校五年生の時、そいつがいじめられだしたんだ。理由なんて大したことじゃない、きっかけは犬のフンを踏んじまったってだけだった。でもそういう嫌がらせはいくらでもエスカレートする。どんどん本格的になって、それでも俺はバカだったからさ、そいつを助けようとした」

 本当にバカだ、一人の力なんてたかが知れてるのに…

「俺だけはそいつをいじめず、かばって、先生にも報告した、いじめはなくなったよ」

「それじゃあ!」

 紗織は期待の声をあげるが現実はそんなに優しいもんじゃない。

「代わりに俺がいじめのターゲットになった」

「…………え?」

 唖然とした顔をする、紗織のいじめは時間が解決、いや、うやむやにした。でもあいつのいじめは俺が終わらせたんだ。

「当然だ、いじめの邪魔をしたやつは次に代わりに狙われる」

「そんな…」

「それからは凄かったよ、無視、悪口、嫌がらせ、リンチ、その中に、紗織がやられたのと同じことがあったんだ、俺が何をしようと、何を持っていようといじめる理由に出来るんだよ。俺は靴だったな、「そんな靴履いてんのかよダッセー、そんなの履いてるから嫌われるんだよ!」ってな」

 今思えば皆同じメーカーだったんだから本当になんでもよかったんだな…

「でもそんなのはなんとでもなった、さすがにリンチは痛かったけどな。けど、いじめが始まって1ヶ月くらいだったかな、トドメを刺されたんだ」

「なにが……あったの?」

「親友、と思ってたやつさ。ある日、俺の持ち物も机も椅子も、全部窓から捨てられたんだ。ご丁寧に俺が教室に入った瞬間にな………やったのはその親友だった」

 次第に俺の声も影を含み始めた、紗織も信じられないと言う表情になっている。

「なんで!?どうして、その人は、真太郎が助けてくれたのに……」

「やらなきゃまた自分がやられるからさ」

「っつ!……」

 言われて紗織も気付いた、そう、一緒にやらなきゃ今度はまた自分がやられる。自分を庇った人が今まさにやられているのだから疑いようもない。

「俺もそれに気付いたのは一年後だったよ、とにかくその瞬間、俺を支えていたものは…全部…無くなったんだ…」

 段々その時の感覚が蘇ってくる、時間というヤスリにかけて、忘れたと思っていた感覚が…

「それで、俺は…人を信じなく、信じられなくなった…転校しても、中学に行っても、うわべだけの付き合いで…こいつは本当は全然違うやつなんじゃないかって…」

 真太郎の身体が震え始めた、本人は、気付いていない。

「怖いんだ……………自分以外の人間も、それを信じられない自分自身も……」

 もう、止まらない。家族にすら打ち明けたことのない自分の内面を、ずっとせき止め、抱え込んで必死に忘れようとしていたものを吐き出すのを、止められない。

「さっき紗織の父親に言われたんだ…君のことを好きになる人もいるって、でも俺は…誰も信じられないやつを好きになる人がいるとも、こんな俺が誰かを好きになれるとも思えない!」

 真太郎の身体はガタガタと大きく震えだし、感情の爆発が始まった。

「怖いんだ!なにもかも!手に入れるのも失うのも、信じるのも裏切られるのも!俺は…俺はっそんな自分さえ怖い!自分のことも…嫌いになりそうで…」

 舞い戻り、沸き上がってきた感情に押し潰され、震える真太郎を…紗織は抱きしめた。

 彼女は、解ってしまった、今までの話を聞いて。

 初めて話をした日の、自分を助けてくれた時の顔、あの表情こそ真太郎が本来持っていた、持っているべきだったもの。

 そしてだからこそ、普段の彼の無気力さ、やる気のなさが、彼の傷の深さを物語っていることに…

 あれは、人と関わること、何かをすることに対する恐怖の表れだったのだ。

 それともうひとつ、わかった。


「大丈夫、だって私は、真太郎のことが好きだから」

 自然と、唇から、流れるように紡がれた言葉。

「……………え?」

「怖がらなくていい、あなたは自分を嫌わなくてもいいの、自分がまだ信じられないなら私を信じて。真太郎のことが好きな私を信じて…」

 他人が怖いと言った、関わりを持つのが怖いと言った、けれど、それでもなお彼は全く無関係だった私を、迷いなく助けた。

 それほどまでに、優しいのだ。  

 きっと本人は認めないだろうけど、真太郎は優しい、そんな彼のことが自分は好きなんだと、確信した。

 話をするようになってからたった二日だとか、そんなことは関係ない。

「大丈夫、怖くないから…」

 そう言いながら真太郎の髪を撫でた。

「……う…あ…あああああああぁぁぁぁぁ!!!!」

 今度は真太郎が、泣いた。

 今まで出せなかった分を全て、絞り出すように…

「ああああああぁぁぁぁぁ!!!!」

「大丈夫、大丈夫だから…」

 紗織は撫で続けた、震える身体を包んで、温もりを、安らぎを与えられるように。

 いつしか二人は、そのまま眠りに落ちた。




「ふぁ…」

 翌朝、先に目を覚ましたのは真太郎だった。

 あの後、メイドさんが部屋に来て紗織をベットに、真太郎を敷いた布団に寝かせたのだ。

「昨日は………」

 起きながら記憶を探る…

「話しちまったんだよなぁ…」

 覚えてるのは自分の感情が爆発しちまった所までだな…その後…なんか包まれような感じで「大丈夫」って言われた気がして、なんだか眠くなって…

「っとそうだ、紗織は」

 見るとベットで寝ていた、随分と気持ち良さそうだ。

「…ん………しん…た…ろぉ…」

「~~~~~っ!!」

 クソ、寝言かよ…心臓止まるかと思った。

 これ以上寝顔を見てるのも罪悪感を感じるので部屋を出ることにした。

 それにしても…話したからだろうか、気分がスッキリしている。

「おはよう、真太郎君」

「おはようございます」

 軽く迷子になりかけて泣きそうになったがなんとかあの大部屋にたどり着いた。

「よく眠れたようだね」

 なんか親父さんの顔がやけにニヤニヤしてるな…

「まあ、そうみたいですね」

「おや、もしかして昨日の事をあまり覚えていないのかな?」

「ぶっちゃけそんなには…」

 そう言うと後台院大悟の目が光った。

「そうか!それは大変だ!ミチルさん、アレを」

「かしこまりました」

 なんでそんなに楽しそうなんだ…?それよかあのメイドさんミチルって名前だったんだ…

「どうぞ」

「ん?それって、ボイスレコーダー?」

「まあそうだね、ポチっとな!」

 古い…と思ったのもつかの間聞き覚えがある、ていうか俺の声が聞こえてきた。

  『自分のことも…嫌いになりそうで…』

「おい!これってまさ」

「静かに!まあ聞いてって」

  『大丈夫、だって私は、真太郎のことが好きだから』

「………………………え?」

 今…

「…………………………………い…」

 声がしたので振り返ると、紗織が立っていた、そしてみるみる顔を紅くしながら…

「いやああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 叫んだ。

「はっはっはー!お父さんは嬉しいぞ!娘がやっと初告白をしてくれてな!」

「はあ!?いや、ちょいまってくれ!どうゆうことだ!?」

「何を言ってるんだ真太郎君!君は告白されたのだよ!我が愛娘になぁ!」

「いやぁぁ!!お父さん少し黙って!」

「いや、え!?なん…なんで!?」

「もういいから!!!真太郎も早く帰ってーーー!!!」

「は、はい!」



 帰宅。

「ただいま…」

 なんだかひどく懐かしいように感じる。

 疲労に身を任せ、自分のベットに倒れこむ。

「なんだったんだ…」

 告白されたって言ったって、どうすればいいのか全くわかんねぇ…

 嬉しくないわけがない、紗織は誰がどう見ても美少女だし、いいやつだとも思ってる。

 けど、わからない…俺は紗織のこと好きなのか?



 結局休日をフルに使ってもハッキリせず、キャンプへと突入していく

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