序章
空には満月があった。
それが少女の抱いた初めての感想。
自分の足に巻き付いたこの鎖は何だろう。
それが少女の抱いた初めての疑問。
まるでこの鎖は自分をこの場所に縛り付けているみたいだと、そう思った。
見渡せば歩いて行ける大地がそこにあるのに。
見上げれば自由を謳う限りのない空があるのに。
この鎖はそれを許さない。許してくれない。
「助けて……」
鈴の音のようなそんな声は、誰ひとりにも届かず、ただ風に流れて溶けてゆくだけ。
誰も私には気付いてくれないんだ。
自らの心の中に渦巻く『孤独』。
それが少女の抱いた初めての恐怖。
負の感情は徐々に少女を蝕み始め、まずは身体を、次に足を、腕を、手を、指を、口を、支配していく。
とうとう『孤独』は目までをも蝕んだ。少女の意思とは関係なく瞼は重たくなり、視界を闇が覆い始める。
これが絶望と言う感情なのかな。そう思ってしまうくらいに少女の心は弱って。
もうどうでもいい。恐怖という感情はみるみる内に諦めへと姿を変えていく。
『――――』
声が聞こえた。
誰もいないはずのこの場所に声が聞こえた。
何を言ってるのかは分からない。酷く小さくて、声なのかさえも疑問に思う。
でもそれは、私に向かって掛けてくれた声だと少女は思った。本当にそうなのか確証も持てないのに、それでもそう思うことができた。
何故だかは分からないけど、その声は不思議と少女の体に心地よく沁みて。心が温かい何かで満たされていく。
すると口が動いた。次に指が、手が、腕が、足が、身体が動いてくれる。まるで氷が溶けていくかのように身体に自由が戻る。
相変わらず鎖だけは解けてくれないけど、きっと大丈夫。
私に声を掛けてくれる人がいた。例えこの鎖が私の自由をどれだけ奪っても、私はその事実だけで目を閉じずにいられる。前を向いていられる。
酷く頼りない光だけど。今にも消えてしまいそうな輝きだけど。
世の中には絶望の闇だけじゃない。ほんの一筋でも希望の光はあるんだ。
なら待ってみよう。私じゃ解けない、自由を奪う鎖を断ってくれるその光を。
信じてみよう。いつの日か来るかもしれない自由の日を。
それが孤独の中で少女が抱いた初めての――。