第十二話 白銀の石像
はいお久しぶりです
今回はながめになりました。
理由は作者がどこで切ろうかと悩み続けた結果最後まで駆け抜けてしまったからです。
はい・・・なんか最後がおざなりなきがしますがまぁ・・・気のせいです頑張りました。
タイトルとあってない気もするんですが本来はその辺できるつもりだったのでこんなことになってます。
てかタイトルどおりにきると次の話が短くなると言うかなんと言うか・・・たんに腕が足らないだけですすみません
ではゆっくりしていってね!
第十二話 白銀の石像
side 定晴
学校の帰り道、みんなで秋の家にいこうという話になったから自転車の二人のりをしてあいつの家まで向かってた・・・んだが
「いきなりどうしたんだあいつ?」
愛ちゃんをのせて少し前を走っていた秋の漕ぐ自転車はもう視界のなかに存在していない。
「よくわからないです。でもあとでこいと言っていたのでとりあえず向かえばいいと思います」
後ろで俺の腰に手を回して落ちないようにしている未琴ちゃん・・・微かに感じる女子のやわらかさがたまらないなぁ
「定晴くんがなにやらおかしなことを考えているような気がします。」
「アッハッハー!気のせいだよ気のせい!」
危ない危ない・・・うちの女子陣は変なところ鋭いからなぁ。逆に秋は鈍いし・・・愛ちゃんなんてあんなにわかりやすいのに
「そんなことないですよー。女の子の心は定晴くんが想像しているよりずっと複雑なのです。」
・・・
「ねぇ未琴ちゃん。」
「なんです?」
「・・・何で考えてることがわかったの?」
「変なところに鋭くて複雑な女の子だからですよ。」
・・・おーう
「さいですか・・・っと見えてきた。あれが秋の家だよ。」
「ん?どれです?」
「あれだよあれ、あの庭の広いやつ。」
「おぉー、よく手入れされてるですね。」
「維持だけは秋がやってるらしいぞ。あいつの母親の趣味らしいけど今は家にいないからな。」
「色々大変なのですねぇ。さて・・・鍵は開いてますよね?」
「閉めてないと思うけど・・・お、開いてる開いてる。てか普通こういうときは出迎えるべきだろ!」
「あーらいらっしゃい。」
リビングだったとおもうが廊下にたち並ぶ扉のうちの一つから愛ちゃんの声がする
「あ、愛ちゃーん!お邪魔します!」
未琴ちゃんが愛ちゃんの声を聞いて靴を脱いでからかけていく
テンション上がってるなぁ
さて・・・俺もいくかね。
と靴を脱いでから声の聞こえるリビングにはいる。
そこでは二人が壁にかけられたコルクボードとにらめっこしていた。
「・・・何してるの君ら」
「ひゃ!?・・・なんだ定晴か。驚かさないでよ」
「今俺の名前に最悪のルビをふらなかったか?」
「気のせいよ気のせい。ところでこの女の子は秋の妹さん?」
とコルクボードに貼られた写真を指差して聞いてくる
「そうだよ。それが秋の妹の春ちゃん。」
「こっちの人はお姉さんですか?」
と未琴ちゃんもまた別の写真を指差して聞いてくる
・・・それは・・・
「・・・お母さんの夏帆さんだよ。」
「「えぇっ!!?」」
ま、驚くわなぁ
「こ、これがお母さん?」
「う、嘘ですよね?」
ここで一つ夏帆さんの容姿を述べると・・・異常な若さなのである。美しくなおかつ若い母と可愛く万能な妹に囲まれたあいつには殺意を覚える・・・ところで
「嘘じゃないけど・・・それより秋はどこいったのさ? お茶をいれてるとか服を着替えてるとかいう感じではなさそうだけど」
唯一答えを知るであろう愛ちゃんに聞いてみる
「さぁ?そこの机に乗ってる写真を見たあと同じく机に乗ってた手紙を持ってどこかにいっちゃった。」
「「どこかにいっちゃったぁ!?」」
なに考えてんだあいつ?
っと机に乗ってる写真というと・・・これか。
伏せられてたそれをひっくり返してみると隣から未琴ちゃんも覗いてくる
「うわぁ・・・すごい美人さんですね。縛られて寝てるみたいですけど・・・映画かなんかのワンシーンでしょうか?」
確かに美人だ・・・でもこれは・・・
「さぁ・・・ってどうしたの定晴?」
似ている。
髪の色こそ違うがそっくりだ。
日本人ばなれした容姿までもがそっくり・・・いや、まんま彼女のものだ
「ど、どうしたのですか定晴くん?」
「え?・・・あっ!い、いや何でもない。美人過ぎて見とれちまったよ。」
・・・秋のやつ・・・いったい何があったんだ?
「さーてと。何してるか知らんけどいつも苦労しているであろうあいつのためにちょっとだけ働いてやるか。」
「掃除でもするんですか?」
「いやそれはいらんとおもうけど風呂洗ったり食器洗ったり・・・さすがに洗濯物を勝手に畳むのは不味いけどできることならいくらかあるだろ。」
「うげっ・・・私そういうの苦手」
「そんなんじゃ嫁にいけないぞ愛ちゃん。・・・っと婿に家事万能な秋をもらうから関係ないのkボゲェ!!」
まさに電光石火。素晴らしいパンチだった
「ふ、ふざけたこというんじゃないわよ!!だ、誰があんなやつ!!」
この時俺と未琴ちゃんの思考は完璧に一致した。
((バレバレだって愛ちゃん。))
「と、ところであれよね!秋ってばお父さんにもお母さんにも似てないわよね!」
「あー、こういうことはあんまり人にいうことじゃねぇけど・・・あいつ養子としてここにきたから。」
「「え?」」
いやまぁ驚くよなぁ・・・てか驚くことばっかりだよなぁ。
「詳しいことはしらんがな。さーてそんなことよりさっさと動こうぜ。 あ、でも愛ちゃんはほんとになにもしなくていいからね?」
「うっさい!余計なお世話!」
・・・余計なこと言わなきゃよかった。
side 秋
急がないと・・・早く!一秒でも早くあの倉庫へ!
既に家を出てから数分が経過した。
アリスは人質だ、危害は加えないと思うがそれでも安心はできない。
Mayはシードにすごい敵意を持っている。
そんな状態で安全だと言い切ることができるはずがない。こんなにも急いでいるのにようやく半分ほど進んだくらいだった
「・・・くそ!」
理由はいくつかある。
まず第一に屋根の上を跳んでいこうとしたがまだ俺には微妙な匙加減ができずおちたり瓦を砕いたりしている。
これでは余計にロスだし迷惑だ。
それなら一跳びでいけばいいとおもうがこれもダメだ。今の僕には着地地点の細かな制御もできないし下手したら着地すらできず地面に激突だ。
さらに困ったことに僕の住む住宅街は真反対とは言わないまでも港からは十分に遠い距離にある。
「もっと・・・もっと急げ!!」
それでも俺の移動速度は変わらない。
当たり前のことだ・・・願った程度では世界はなにも変わらない。
それは何年も前からわかっていることだった
・・・ここまできたのならもう着地を気にしなくともいいかもしれない。
ここまで来れば港までのだいたい距離は予想できる
あとは着地を気にしなければショートカットも可能だ。
勇気さえあれば・・・
(ためらうことなんて何もない・・・どうせ俺には初めから選択肢なんて存在しないんだから)
走り幅跳びの要領で勢いを殺さず縦ではなく横に跳ぶように踏み切る。
こうなれば昨日の朝と同じだ・・・着地まで少々慣れぬ感覚と言い知れぬ恐怖に耐え忍びその時を待つのみ。
少し跳ぶときに躊躇いがあったからだろうか?着地は倉庫より少し手前のコンテナ等を積み上げ要り組ませた少し広めの集積所だった。
幸い耐久力まで上がった自分の体は着地の衝撃にもしっかりと耐えて無事に破壊活動をすることもなく体を停止させた。
今から跳べばさすがに倉庫を通り越すが大幅なショートカットになったのは確かだ。ここから走ろう
そう決断して第一歩を踏み出した瞬間。
昨日も感じた不思議な感触を足に受ける。
階段を踏み外したかのような・・・地面が足を受け止めてくれないあの感覚。
視線をさげて自分の足を見てみれば案の定足首より先は地面に飲み込まれて見えない。
「お出迎えご苦労さま。・・・アリスを返してもらおうか。」
「えー?そんなつれないこと言わないでよー☆・・・というかこんなにかわいい女の子を前にして最初にいう言葉が他の女の事だなんておかしくなーい?」
「・・・ふざけてないで───」
「May嫉妬でシュー君の捜し物壊しちゃうかもぉ☆」
・・・
「悪かった。だからそれはやめてくれ」
「アハハ、別にいいよー?許しちゃう!だって私シュー君好きだしぃ。」
「そこがいまいちわからないな・・・俺はなにもしてないと思うんだけど?」
「うーん、そうだねー。君はなにもしていない。でも私と君は千年の時を一緒に過ごすより、一晩愛を囁き続けるより、同じお腹から産まれてくるより深く繋がったからねー。その結果が恋だっていうのはおかしくないと思うけど?」
深く繋がる?
「・・・魂の捕食・・・霊としての母親か。」
俺とあいつの深い関わりについて言うなれば考えられるのは一つ・・・Mayは直接俺の魂に触れた唯一の霊だ。
「ピンポーン♪大正解!Mayちゃんはシュー君の魂を直接体内に取り込んだんだー。君という存在の理解具合についてで言えば誰よりも上だと思うよー?だから君に惚れたのは別に不思議じゃないし、君をほしいと思うのは霊として優秀そうだからというだけじゃない。にしても君の魂の話をしたらお腹すいてきちゃった☆ほんとすごかったんだもん。一口でお腹一杯になっちゃったしあの刺激的な味・・・何よりも驚くべきは未だに力が溢れてやまないことかなぁ。これまであの女に苦戦していたのが嘘みたい☆」
つまりアリスが負けたのはMayが俺を食べて力を増したせいか
「・・・だとしても俺は別に好きじゃない。」
「だっよねー・・・ところで答えは決まったかな?」
・・・この答えとはやはり俺がグールのもとにいくかいかないかの話だろう。
俺がそちらにいけば恐らくもう引き返せない。
定晴達とももう馬鹿できないし人間としていきることは・・・できなくなる。
「まだ悩んでるのー?何を?まさかとは思うけどまだ人間としての生に執着があるとか?無理だよ、無理無理。シードの連中は夢を振りかざすけど実際人間に混じっていきるのはきついんだよ?いくら戸籍を誤魔化したところで人と人との繋がりにそんなものはなんの力も見せない。だから深い関わりを持つことはできないし仮にばれてしまったらもうそこで君の仮面は剥がされる・・・どこの世界に化け物と共存したがる人間がいるのさ?いたとしたらそれは異端扱いされるような狂人ぐらいだよ。」
「そんなこと!・・・ない・・・だろ。」
あいつらはそんなことしない・・・あいつらは違う
「アハハ、なんか自分が年を取った気分になるよ。そんな甘い希望論で生きていくのは不可能だよ・・・昨日も言ったよね?君はまだこの平和ボケした日本という国で生きてるつもりなの?緊迫状態を演出することでしか均衡を保てず協力もできない世界に生きてるつもりなの?君はもうその輪からでたんだよ、でちゃったの。家族だって友人だって誰だって君を怖れる・・・君はいい加減自分の変化に向き合うべきだ。」
「やめ・・・ろ・・・」
「さぁいこう?君が来るならあの女も解放してあげる。」
心が揺れる。どうしようもないほどに揺れ動き考える最悪の展開へと転がっていく。
「昨日の夜・・・墓が荒らされたそうだね。それはもうとんでもないレベルで。テレビで見たよー。ご先祖様の寝室を荒らされた人達が口々に言っててねー。『人のやることじゃない』だの『考えられない』だのみんながみんなにたようなことばっかり。全く面白くない・・・」
人のやることじゃ・・・ない?
「全くもって困るよねぇ君は守っただけなのにー。あのlevel2から自分の身を」
おれは自分のために?あんな軽い気持ちで・・・
嘘だろ・・・嘘だ・・・
「そういえば今日は楽しそうだったねー。まぁ気にしなくていいもんねぇ?ばれなきゃ大丈夫だし道具もなしにあんな惨状を作り出せる人間がいるわけないもの」
人の墓をあんな状態にしておいて俺はなんで罪悪感も後悔も覚えずに・・・な、なんで・・・
「いい加減認めちゃいなって・・・君は人と関わるべきじゃないんだ。関わるにしたって・・・それはそんなぬるい関わり方じゃない。互いに憎み、怒り、叫んで殺しあう・・・血で血を洗うような恐ろしい関係・・・それが正しい霊と人との関わり方。」
そんなわけが・・・
『 人としての魂に刻まれた恐怖は霊にはのこらない』
頭のなかでアリスのいった言葉がリフレインする。
死ぬ瞬間たしかに思ったはずの悔しさが・・・怒りが・・・悲しみが・・・執着が・・・そのすべてが俺は失われている。
それはつまり俺が本当に人間を止めたってことなんじゃないのか?
今まで実感がわかなかったがようやくその現実を本当の意味で理解する。
力を手に入れて不覚にも子供のようにワクワクしていた
世界が変わったように感じて浮かれていた
だから今まで気にもとめてなかった事実が俺を蝕む。
俺は知らぬ間に人をやめていたのだ。
「俺は・・・人間にはなれない?」
「そうだね・・・君は人じゃない。異物は排除される運命なのさ。それがどれだけ尊いものでもね。」
・・・あぁ。・・・結局理想論でしかなかったのか?アリスがいってたのは嘘なのか?
それだけじゃない・・・仮に付き合えたとしても・・・それは付き合った人達全てにこんな危険な世界へ足を踏み入れるきっかけを作ることになる。・・・そんな無責任なことが出来るわけがない、していいはずがないんだ。
そんな考えを裂くように轟音が轟く
「な、なんだ?」
発生源はMayの立っていた場所。
地面がごっそりと抉られコンテナもくり貫かれたかのように穴を開けられている。
そんないきなりの現象に目を丸くして呆けていると上から声がきこえた。
この二日間をともにすごしたあの少女の声
「あんなてきとうな言葉をそんなに深く受け取られても困るのだけれど」
次の瞬間には声だけでなくその姿までも現す。
「けどまぁ・・・よく考えるのは良いことよ。」
随分と元気なようでこちらを向いてウインクを決めるほどの余裕はあるようだ。
・・・というかなにをした?アリスの巛は拡張空間だったはず・・・あんな破壊力のある攻撃なんてどうやって・・・
「あー・・・よっくもやってくれたなクソ女」
そういって地面から浮き出てくるMay。どうやら地面にもぐって先程の攻撃を回避したようだ。
「随分と下品なものいいね、淑女として考えられないわ。」
・・・人をあんなにもこきつかう淑女がいてたまるか
「・・・ふぅ・・・・・・調子乗っちゃ嫌だよアリスちゃん☆さっきも私に手も足も出ずにボッコボコにされてたじゃ~ん」
一息ついて自分を落ち着かせたのかいつも通りのやたらとテンションの高いしゃべり方に戻っている
「あら嫌だ、あんな不意打ち紛いのことで勝った気になっていたの?」
「ゲームじゃないんだからいつでもどこでも真っ正面から戦えるわけないジャーン。随分と幸せな頭だねぇ」
「あらあら、あなたに言われると悔しさを感じないわね。あなたがよっぽど幸せに見えるからかしら?」
「そうだねぇ、やっとシュー君をお持ち帰りできるわけだから幸せかなぁ」
「ふーん。ところでその話とは全く関係のない話だけれどこの国には“捕らぬ狸の皮算用”という言葉があるそうよ。愚か者を指す言葉だそうだけど・・・グールにはピッタリな言葉だと思わない?」
「なにをもって愚か者と呼ぶのかわからないけれど・・・なにもわからずに呼んでるのならとても滑稽だと思うな~☆」
・・・な、なにこれ?怖いんだけど。なんか見えるよ!後ろからなんか出てますよお二人さん!顔笑顔なのになんか出てるせいかむっちゃ恐ろしいことになってるよ!!
「「・・・・・・コロス」」
(ひ、ひぃいいい!!!)
こ、怖すぎる・・・ここにいたくない
「秋、あなたよく見て考えなさい。今から起きるのが霊同士の戦いで・・・人外の所業よ。」
「シューく~ん!この女もう一回ボッコボコにしてやるから是非見ててねぇ?くふっ☆」
「ぶんなキモい」
「あれれー?お高く止まった口調はどうしたのかなぁー?素がでてるよー?」
「あんたに言われたくないのよ厚化粧」
「・・・んだと?このやろう・・・あたしのこれは化粧じゃなく地だっての!!」
「あーらやたらと可愛い子ぶった口調はどうしたのかなぁー?素がでてるよー?」
「・・・あーもういいわ。おまえ自分でいったことを忘れた訳じゃないよなぁ?」
「・・・なんのこと?」
「二日前いったろうが・・・『私たちの関係に言葉はいらない』。ならベラベラしゃべってんじゃねーよ」
「・・・上等じゃない。」
アリスがの側に黒い穴が開きそこに手が突き込まれる。
抜いた手に握られるは拳銃・・・ただしそれは前回俺に突きつけたシンプルなものではなく派手であまり実用的ではない意匠の凝らされた銃口付近がオートマチック、手元付近がリボルバーといった不思議な面持ちのものであった。
それをまっすぐにMayへと向ける。
「これをぶちこんで終わらせてあげる」
するとMayが途端に表情を歪ませ忌々しいといった口調で吐き捨てた
「ゴーストの癖に無粋なものを・・・ほんと嫌いだお前。」
今度はMayもその少ししゃがめば中身の見えそうなスカートをひるがして二本の包丁を取り出しそれを腕を左右に広げるようにして構える。
夕日に照らされて包丁から伸びる影が不自然に変化していく・・・
「だからコロス。安心しろよ・・・お前は食ってやらないから。」
ただの包丁が二本の刀のように伸びていく・・・影が動きを止めた頃にはすでに刀身の長さが左右ともに60センチを越えるほどまでに成長していて夕暮れの光を反射して輝く様はそれがどれだけ鋭利な物なのかを言葉より如実に語っていた。元が肉を切るための物だからかMayが巛によって脆さと短さをカバーすればそれは凶器ではなく立派な武器だ。
それだけじゃない・・・Mayの鮮やかすぎる包丁捌きは自身が身をもって体験している。
「その趣味の悪いなまくら振り回してるあんたに言われたくないけどね。」
言葉を一度区切り引き金を引く指に力を込める
「ま、それとは関係なしに無粋なものでも使えるなら使うべきだと思うけど・・・聖具開放『聖母ノ悲鳴』」
アリスが最後に何かを唱えるように言を紡ぐとMayを標準している銃の腹から黄金の翼が広がり銃口の付近の模様が浮き上がり歌う女性の像を作り上げる。
余計拳銃からかけ離れたそれにMayが反応して駆け出す。
「あら、今日はいつにもまして好戦的ね。」
戦闘が開始したにも関わらず軽口をたたくアリス。
腕も冷静に敵をとらえ続けるというわけでもなく最初に構えた位置から動かしていない。
・・・しかしアリスはそのまま引き金を引いた
響くは讃歌のような美しい音色。
上昇した動体視力が捉えたのは普通の弾丸だ
(アリスはなにを───)
弾丸は俺の視界をゆっくりと進みMayから離れた空間を貫いた───直後加速しつつも少し大きめの弧を描き今度は上から襲いかかる。相変わらず空気を裂く音は讃歌のようで霊が扱う武器としては違和感を感じる。
Mayは回避を諦めたのかはじめから不可能だと知っていたのかコンテナの形状を変化させて壁にする。
いくら不思議な力をもとうがただの弾丸・・・本来ならば鋼で作られたコンテナの壁を抉ることすらなく弾かれて讃歌も中断を余儀無くされる───筈だった。
ところが事実は違う・・・歌いながらMayを追いかけて加速する弾丸は巛で変化した鋼の壁に触れた瞬間に爆発したのだ。
弾丸とコンテナの接触面から光が溢れ弾丸を包んだかと思えば今度は弾丸からも共鳴するように光が溢れ周囲を飲み込む。
先程と同じ轟音と共に破裂した後に残るのはやはり先程と同じクレーターと綺麗に穴の空けられたコンテナのみである。
コンテナの影にいたMayの姿はない
「な、何が?」
誰に聞いたわけでもないただの呟きはアリスに拾われた
「聖具・・・人が霊を殺すために作った対霊戦闘用武具。霊気に反応して発動し、様々な力を振るう・・・普通なら霊が握るだけでも拒絶反応が起きて重症を負うものなんだけど・・・こういう風に手袋さえつけてれば一応持つことはできるの。それでも携帯には不便だしそうじゃなくとも一撃で自分を殺しうる様なものを持ち歩くのはリスクをおして持ち歩く霊はいないわ。・・・ただ私だけはその携帯の危険を巛でカバーすることができるから持ち歩いているけどね。私がランクSになれたのもこれのお陰よ。」
確かにすごい威力だ
「私のもってる拳銃型聖具『聖母ノ悲鳴』から放たれる弾丸は霊から漏れ出す霊気を追い巛や霊体に接触することでその特性たる圧倒的『神聖性』をもって魔を祓う・・・さっきの光は溢れだした浄化が外界に牙を剥いた結果よ。ちなみに霊を追いかけるといってもそのくらい制御ができるから流れ弾については安心しなさい。」
何て危ないものを・・・って流れ弾?
「お、おい。もう終わったんじゃ・・・」
「・・・あんなので終わるなら今まで苦労してないわよ。」
アリスが銃と同じように西洋剣を取り出しながら言った・・・西洋剣というよりその細身の刀身はレイピアに近い。
・・・まだいるってことか
とアリスの後ろの地面が揺れ動いている
「アリス、後ろだ!!」
声に反応したわけではないだろうがアリスが後ろにレイピアを突き出す。
レイピアは同様に地面から突き出された包丁と衝突して弾かれたがアリスの武器はそれだけではない。
本命の拳銃を地面に向けて構え大きく後退しながら発砲する。
聖母の悲鳴が響きその後に三度目の轟音
「いいから秋は見ることに集中しなさい!あなたがなにをしたいのか・・・あなたがなんなのか・・・私たち霊にはするべきことなんかない!縛られる必要なんてないの」
アリスが俺に語りかけるのを邪魔するようにMayが地面から飛び出し左右の包丁を振るう。
包丁の放つ鈍い輝きが弧を描きながら空間を歪めるようにアリスへと振るわれたその刃の軌跡を描く
レイピアで振るわれる二刀・・・二丁を逸らしながら後退を続けるアリス。
最終的に下がっても無駄だと判断したのか逆に前に出たアリスのレイピアとMayの包丁のうちの一丁が鍔競り合う
「あたしの邪魔をしないでもらえるかな?」
「それに私が頷くと本気で思ってるわけ?」
そこでアリスがMayを弾き左手の包丁によるニノ太刀を銃の腹で受けると刃をそらすように角度を調整してまた放つ。
今は空中・・・障害物もなく地面に逃げることもできない。
そんな状態でもMayは冷静に右手の包丁で弾丸を逸らした。
弾丸は光始めるがそのまま後ろに流れていきはじめと同じで大きな弧を描き出したあたりで爆発した。
接触から爆発までのタイムラグを利用したのか。
「さぁ?どうだろうね。でも・・・シュー君はもらう!これは本気だよ!!」
爆風に拐われる髪を押さえることもせず再び構える。
「・・・あらそう、残念ながら本気だからといって渡すわけにもいかないのよ。こちらも人材不足だしなによりも・・・それがlevel4の補食に耐えうる魂だというのならなおさらね」
「そんな人のためだなんだと大義名分を掲げた組織がまともなものか!!私はお前らには絶対渡さない」
「・・・相変わらずあなたたちは人間が嫌いなのね」
「当たり前だ・・・だからこその私たちだ。」
「・・・でも私は別にあなたと組織の善悪だの人間に対する嫌悪感だのを話し合う気はないの・・・ここで殺しておしまい」
嫌な沈黙が流れる。
その沈黙を会話の終了と受け取ったのかまた戦闘を再開するべく銃口を持ち上げ次は外さんとばかりに慎重に狙いを定める
一方自身を一撃のもとに葬る死を運ぶ聖女を向けられたMayは笑っていた。
(あの笑いは見たことがある・・・昨日の倉庫でのMay・・・いきなり雰囲気を変化させたグールとしてのMay!)
「アリス何かまず───
『ゲェーム──オォーバァァァ★』
突如世界が傾いた。
俺がバランスを崩したとか地震が起きたとかではない紛れもない大地の動き・・・ここら一帯の土や砂利の一斉操作!!
アリスの顔に驚愕が浮かぶ
大地に飲み込まれていくコンテナの上でバランスをとりながらも必死に状況を整理する
「な、なんで・・・あんたにここまで広範囲の制御はできなかったはず・・・ましてや大気のような個じゃなくて粒子のような群の制御なんて!!」
アリスの狼狽ぶりが心底おかしいのか耐えられないと言ったように身体を思いっきり反らして空に笑う
「アッハッハッハッハ!!!いやーほんとシュー君様々って感じ?さすがにlevel5のように概念干渉はまだできないけどこんな風に・・・物理干渉だけならlevel5に近づいたよ。そしてこの状態じゃあんたは手が出せない・・・」
手が出せない?なんで・・・っ!?
「・・・アリスの銃は巛や霊に接触することで圧倒的な破壊を撒き散らす。それだけじゃなく一度狙った獲物を追いかけ続けるという性質ももっている・・・それはつまり相手に弾丸を誘導されてしまうこともあるというわけか」
「シュー君ご名答♪ご褒美にあとでなにかおごってあげちゃう!」
そんな俺らの会話を聞きながらその端正な顔を汗を浮かばせるアリス
「それだけじゃないだろ。問題はその弾丸の攻撃力・・・あの爆発は使用者すらも無差別に巻き込む。だからさっきアリスは至近距離で銃を使うことをしなかったし射つときは距離をとっていた。だけど今みたいに四方が巛干渉を受けている今・・・距離をとろうがとるまいが関係なく自身を巻き込んでしまう可能性が高いと・・・」
「うんうん、理解してくれて何よりだよ。あ、シュー君はそこにいてくれていいからね?」
言われなくともだよ・・・手を出したくとも出せやしない。コンテナの上ではなく地で戦闘を眺めていた俺は真っ先にMayの巛でとらわれているし何より先程からなぜか身体が動かない。全くというわけではないが身動ぎ程度が限界だろう
アリスがこちらを困った目で見る。
恐らく枷になっているのだろう。
今のこの状態・・・アリスだけなら脱出できるだろう。
ここら一帯の大地を制御下において自由に操るMayは凶悪だがまともに戦う必要がないとなれば話は別だ・・・
いつぞや俺を学校に飛ばしたようにこの制御域を逃れて外から聖具を放てばいい。
霊殺すという以上ただ弾丸を放つだけのはずがない・・・もっと何か効果があると見た。
ただしそれは俺を巻き込むものなのだろう。
だからこそ外からだろうが中からだろうが聖具を使うことは叶わない。
今まで通りの攻撃ではこの物量を前に無力だろうしアリスが言うには聖具があったからこそSランクとして認められる功績をあげてこれた・・・ならばそれが使えない場合の戦闘方法は純粋な肉弾戦や既存の兵器群に収まってしまうのだろう。それでもやはりこの物量の壁は越えられない。
万事休すか・・・アリスの瞳の奥に諦めが見えた。
俺が考えられることがアリスに考えられないはずがない・・・何かかくし球があるのなら別だがあの様子を見るとないのだろう。
その諦めを好機とみたのかこちらへニコニコと笑いかけていた顔を一瞬で無表情へと戻したMayがアリスに迫る。
「あっ!?」
気がついたときには遅くその手にもつ聖具を弾かれてしまった。
拳銃は緩やかに曲線を描き僕の目の前の地面に落ちる。
・・・手を伸ばせば届くのに手が動かない・・・それがまるでなにをしても無駄なのだと言われているようで僕は視線を銃からアリスたちにもどした
「──っアリス!!」
目をはなした数瞬の間にアリスは剣まで砂利に飲まれ丸腰の状態でMayに首を持ち上げれていた。
「大丈夫だよシュー君・・・グール化すれば辛い記憶なんか忘れられる。この女のこともすぐに忘れるよ。シュー君は魂がすごく強いからすぐ自我も取り戻せるよ、私も手伝うし。」
なにをいってる?
「うっ・・・・あ・・き・・・」
アリスが呻く
「耳を・・・貸したら・・・あ゛っ!」
Mayが首を絞める力を強めたのか苦悶の声が漏れる
「五月蝿いよ、黙ってて。」
やめろ、やめてくれ
「ねぇシュー君?こっちにおいでよ」
なんでだよ・・・俺は普通に家に帰ってただけだぞ?
「そうすればみんなハッピーエンドだよ?」
なのになんでこんなことに・・・なにか間違えたか?何を間違えた?俺が何をした
「・・・答えてくれないんだ・・・ふーん。じゃいいや、この女・・・殺そう」
な!?
「や、やめろ!!」
「やめないよー。シュー君が答えてくれるまでねー」
ピシッと氷の割れるような音が響きアリスの身体に変化が現れる。
足元から徐々に石が登っていく・・・いや足元から徐々に石に変えられてゆく。
アリスは表情を苦悶から恐怖が入り交じったものへ変えて自分の体を見ている。
そんなアリスを見て俺はグールへわたることに決めた
どちらにせよ既に人間をやめたんだ・・・今さらどちらかにこだわることもない。結局本能的に傷つけるか理性的に傷つけるかの差でしかない。
俺のこの選択で一人の女の子を助けられるのならそれでいい。
俺は彼女を助けたい
だから声に出す。
『ついていく。俺はおまえについていく。だからアリスを離せ』
出すつもりだった。しかし声はでない・・・それどころか体が欠片も動かない。先程まではまだ身動ぎくらいはできていたのに今はそれすらできない・・・完璧な金縛り。
よくよく考えたらこれはMayの巛では再現できないだろう。なんといってもなにも変化させずに変化を与えることはできないから。でも俺の身体にはなにもされていない断言できる。
じゃあなんで俺は動けないのか・・・この瞬間にもアリスの石化は進んでいる。
第三者による犯行か?いや違う・・・それなら彼女たちが気づかないはずがない。
それでは誰がこれをしている?
この正体不明の現象を起こせる人物は一体だれだ?
『そんなの決まってるじゃないか』
声が聞こえる
『この場には三人しかいなくてそのうち二人が違うというのなら残った一人が犯人に違いない。小学生でもわかるよ』
あぁそうだな、その通りだ。だが俺はなにもしていない
『あぁそうだね、君はなにもしていない。しているのは僕だ』
お前が?
『そう・・・君の金縛りは僕が原因だ』
なら今すぐやめろ。じゃないとアリスが危険なんだ・・・おまえにもわかるだろう?
『わかるけれどだからといって解放する理由にはならないな。解放したら君・・・あのlevel4のところにいっちゃうでしょ?』
それでもアリスが犠牲になるよりはましだろう。
『そんなわけないだろう。人に限らずこの世の生物は皆利己的であり利己的であるべきなのさ。他人のために命をなげうつだなんて馬鹿馬鹿しい・・・そうしたところで世界はなにも変わらずいずれは助けたことさえ忘れられて君の存在は完璧にこの世から消えるんだ。』
そんなことない!だとしても人が人を思いやることはなにも間違えていない!
『まず人じゃないのだけれども・・・まぁいいさ。ここで君と言葉を交わす必要はないんだ。君はここで彼女が石になるのを黙ってみているしかない。それだけなのさ』
気がつけば石化は首にまで達している。既に呼吸ができていないのか顔は青い。
見てわかる・・・あのままでは不味い
『だからといって何ができるわけでもあるまいし・・・割りきりなよ』
・・・・・・ろ
『・・・なに?』
「・・・・・・ろ」
口が動く。
「・・・・・めろ」
『・・・へぇ』
「・・・・やめろ」
『これは意外な展開だ。うん・・・それにしてもさすがは僕といったところかな?』
Mayがこちらを振り向く。
「何かいったかなシュー君?」
体が・・・動く!!!
「やめろっていってんだよアリスから手を離しやがれっ!!!!!」
一瞬・・・世界が反転するを感じながら自分の中から溢れる力の本流に従い叫ぶ。
Mayが驚きの表情を浮かべる。
それだけじゃない・・・半分以上石化していて既に生命活動すら危うかったアリスの体が光りをはなちもとの石が肉に戻っていく。
『これはこれは・・・ズールイのやつが見たら驚きそうだな。』
「な、なんで!?」
驚くMayを尻目に目の前に落ちた聖具を構えて引き金を引く
打ち出された弾丸は真っ直ぐにMayへと向かった。
さすがに制御かにおいた大地の壁で防がれたがその隙にアリスを助ける。
「・・・ねぇシュー君・・・今君何をしたの? 」
声の冷静さとは裏腹に顔は驚愕を通り越していた
「さすがに今のはないでしょ・・・無理無理無理だって・・・だって・・・・・・どうして?なんで巛が解除されて・・・それだけじゃない!!なんで素手で聖具を・・・」
未知への恐怖・・・そう表現するしかないだろう。Mayは確かに恐怖していた。
「さぁな。何をしたかなんてわからないけどよ。でも俺はただアリスを助けたい思いで叫んだだけだ。目の前にあるこれを使えば俺でもおまえを倒せるだけの攻撃が射てるのは知ってたし当たらないと言うのも予想がついてた・・・それだけだよ。」
既に周りは完璧に夜の闇に包まれていて見渡しにくいが集積所は酷い荒れようで原型をとどめていない。
またニュースになるなぁなんて場違いなことを考えながら俺はかえす。
「答えがまだだったな。・・・素直な気持ちを言うなら俺は人間に戻りたい。永遠をいきるのが楽しいのか辛いのかはわからないけれど俺はそんな悠久を過ごすつもりはないし刺激のある人生でなくてもいい・・・俺は恐れられてでも日常を過ごすよ。そのためにおれはシードとして過ごす。」
言葉をくぎって思いを告げる
「俺は自分のためにシードとしていきる。人のためにいきるつもりなんてはなからないよ。皆々・・・そうやって生きてるんだから。」
・・・俺の言葉を聞いたMayはいつものテンションとは違うすこしショックを受けたかんじで一言
「そうか・・・」
と呟いて地面に飲まれていった。
勝ったわけじゃない・・・むしろ惨敗だ。
でも俺はシードとしてまだここに存在してアリスを助けることができた。
気絶こそしているが上下する胸を見ていると無事に生きていることがわかる。
自分でも何がなんだかよくわからない終わりだったがとにかく明日明後日を過ごせば長い一週間は終わりを迎える。
またMayが来るとも限らないがあの様子なら大丈夫そあだ。
とにかく俺は早く力をつけるべきだと思う。
今回のことだって俺のせいでアリスが負けたようなものなのだ。助けたいと思ったのなら・・・まずは足手まといにならないぐらいに力をつけるべきだと思う。
なぜなら俺は・・・戦いはこれだけでは終わらないと直感していたからだ
はい・・・まぁ・・・ね、
こんなわけですごく微妙な終わりかたとなりました第一章。
二章はこうならないように頑張ります!
では!