サクセスストーリーは突然に?
「合格した…」
中学三年の唐沢清志郎は、家のポストの中に入っていた、私立校からの重要書類を開け、そう呟いた。
こんなに早く高校合格が決まるなんて。
自分の学年じゃ、一番早いんじゃないか。まだ、秋も深まりはじめたころで、年も明けていないというのに。
「…………。」
清志郎は自室のベッドに寝転んだ。
実感が湧かない。
とりあえず、安心。
でも、テレビで見るみたいな合格者の特集みたく、飛び跳ねて喜ぶほどじゃない。
親に勉強勉強言われなくなるわけか。
でも、でもなんなんだ。
「ああそうか。」
これは俺が目指している、求めている針路じゃないんだ。
「………。」
清志郎は少し息を吸った
「〜♪〜〜…」
鼻歌を歌った
「…………。」
けど、すぐに止めてしまった。思わず苦笑する。
自分でも分かるほどに…
ヘッタクソだ。
「あはは、なんだよ。」
清志郎は、一言で表すならば平凡だ。
体型も、器量も、運動能力も、学力も、特に褒めるところがなければ非があるわけでもなく、とにかく平凡だ。
だがしかし、非常に音痴だった。
自覚してしまうほど音痴だった。
自分でもよくわからない。
音痴になりたくて音痴というわけではない。
だが、何だか音痴なのだ。説明のしようがないが、とにかく音痴だ。
歌は好きだ。音楽を聴くのも好きだ。
ただ、自分の運命を呪うべきか、自分自身には音楽は楽しめるものじゃないのか。
だから、鼻歌はいつも途中で止めてしまう。
歌いきったことなんてあるか。
清志郎はベッドから起き上がった。
親に、合格通知を渡してくることにした。
……………
結局、親に勉強勉強言われなくなるという予想は外れた。
合格が決まったからといって、周りに置いて行かれないようにとのことだった。
清志郎は、母親に頼まれ、近くのコンビニに麦茶を買いに行くことになった。
いつもなら断るところだが、今日はなぜか行く気になった。
外は、赤々と夕焼けに包まれている。
特に何も起こるわけじゃない、平凡な毎日だ。
こうして年をとって行くのか。
来年からは高校生
四年後は大学生
大学生卒業したら…
……十年後、俺はどうしてるのかな。
目の前をふと見た瞬間
ドンッ
「でっ」「ギャア!!」
ガシャン!!
清志郎は一瞬にして目の前に空が映っていた。
「?…」
ぼーっとする暇もなく、
「お、重たっ?!」
体にとんでもない圧力がかかっている
清志郎はその圧力に身動きが取れなかった。
何かがのしかかっている。
「…ってーな…」
ざっ…
「…!!」
ガラの悪い声と共に、重さが取り除かれた。
き…金髪…?!
清志郎は、輝く髪に一瞬目を細めた。
どうやら、夕焼けに染まって金に見えたようだったが…
清志郎は息を飲んだ。
目の前には、華奢というに相応しい、美しい少女がいた。…少女?
さらさらとしなやかな左右に束ねられた長い髪の毛
小さな人形のような顔
キラキラとして、大きな瞳とそこにびっしりと生えた睫毛
細長い手足
身長は清志郎と同じくらいあったので、女性の中でも大柄な方だろう。
ただ、目の前の女性は年齢が分からなかった。若いようだが…
「おい」
清志郎は我に返った
「ジロジロ見てんじゃねーよ」
「す、すみません」
この女性は、コッテコテのゴスロリファッションだった。
ただ、彼女はそれを着こなしている。
「コレ!!」
女性は指を指した
「どうしてくれんの」
「え!!」
指の先には…何か機械のようなものがあった。
「…スピーカー??」
「アンプ!!」
なんて気の強い女性なんだ。清志郎はたじろいだ。
「あんたのせいで…壊れた!!」
「ええええええええええ!!!!!!!」
「これからさあ…アタシはライブなわけよ…大事な大事なライブなわけよぉ…!!」
「どうしてくれんの!!」
清志郎は威圧感に目を逸らした
「こっち見ろや」
「す…すみませ」
「許さん」
…!!え、どうすりゃあいい
清志郎は直視出来なかったが、女性が怒っていることは確かだった。
「…あんた、ちょっと来な」
「!!」
女性は清志郎にガンを飛ばして足早に歩きだした。
「え」
「ソレ持って来いっつってんだよ!!」
ソレとはどうやらアンプのことらしい。
持ってこいとは言ってなかったような気がするが…
清志郎は思わずアンプを担いで後について行っていた。