1話 ログイン
「これがゲームの世界・・・」
俺の目の前には広大な自然が広がっている。
遥か彼方に見える地平線と、地平線まで続いている石畳の街道。
街道の左側には広大な森林が育ち、街道の右側には平原が広がっている。
平原に申し訳程度に生えた木のそばには、ピンク色の球体が転がっている。
目を凝らして見ると球体は少しずつ動いているので、あれが子供でも倒せるモンスターでこのゲームのマスコット、プルンなのだろう。
プルンから視線を外し、空を見上げれば輝く太陽と雲一つ無い空。
ゲーム初日の天気は快晴だった。
「さて、これからどうするか」
当たりを見回してみると目の前には自然しか無かったが、後方には石で造られたと思われる城壁が見える。
城壁の中心には人の身長の何倍もの高さ誇る城門があり、城壁の左右の端は俺がいる場所からでは見る事は出来ない。
俺は城門まで数百mは離れている場所にいるが、ここからでも城門と城壁の大きさが十分に分かる。
石畳の街道は城壁の中心にある門から始まっているので、この街道はあの城壁で覆われた街が他の街と交易する為に建設された物かもしれない。
しかし、今の問題はそこでは無い。
「ガチャで当てたアイテムも持ってないし」
そう、俺の今の装備はゲームキャラが初期装備していそうな薄手の服と、腰にある一振りのナイフのみ。
Aランクガチャで当てた西洋剣、レオン・ウィローサを初めとする装備品を所持していなかった。
「冷静に考えると、ゲームっぽくメニューウィンドウを開いてみると、そこに所持アイテムが保管されてるとか?」
この仮説があたっている場合、メニューウィンドウの起動方法を知らない俺は開始早々に詰んでいる状態だということだ。
まずは、ゲームのシステム周りの確認が先決だな。
「とりあえず、お約束から」
目の前にステータスウィンドウが表示されていると想像し、一心不乱に目の前の空間を睨んでみる。
すると、目の前に三本のラインが見えた。
上から赤、青、緑のラインの上にはアレク レベル1と表示され、ラインの下にはHP 50/50、MP 15/15、 SP 7/7と表示されている。
ステータスウィンドウでは無いが、MMORPGのゲーム画面によくある簡易的なキャラクター情報だろう。
「あ、消えた」
見えていた三本のラインから意識を放した瞬間、目の前に見えていた三本のラインが消えてしまう。
「見ようと集中していないと駄目なのか? それだと戦闘中とかは見えないな」
俺は喧嘩をした事は無いが、MMORPGでプレイに熱中するあまり残りHPを気にすることなくモンスターと戦い、気が付いていたらHPが0になっていた経験は結構ある。
ゲームですら無理だったのに、肉体を使った戦闘でも残りHPを気にしている余裕はあるのか?
「とりあえず、もう一度見てみるか」
もう一度キャラクター情報を見ようと意識を集中させると、前よりも簡単に三本のラインが見えるようになった。
「…慣れの問題なのか?」
とりあえずキャラクター情報のON/OFFを繰り返してみると、次第に集中せずともキャラクター情報が見えるようになった。
また、見ようと集中していないと表示されなかったキャラクター情報も、消そうと思わない限り表示され続ける事が出来るようだ。
「次はステータスウィンドウだな」
見ようとすると見える方式じゃないようだから、次の方式を試してみるか。
ちょっと恥ずかしいが、誰かに見られている訳じゃないから良いけど。
「ステータスウィンドウ、オープン」
…何も起こらない。
「ステータスオープン」
…
「オープンウィンドウ」
…
「ステータス」
…
「開けゴマ」
…
くそ、発声方式じゃないのか?
それともステータス画面は出ない仕様なのか?
あぁ、あそこにいるプルンが呆れた視線を送っている気がする。
ぼっちだから助かっているけど、こんなトコを誰かに見られたら恥ずかしくて死んでしまう。
まさに、穴があったら入りたい、って気分だ。
穴には入れないがプルンからの視線を遮りたいと、プルンとの間に壁があるとイメージをした瞬間、本当に俺とプルンとの間に壁が出現した。
壁と言っても下敷き位の大きさで、半透明で薄く緑色に光っている壁が空中に浮かんでいる。
「…なんだ、コレ?」
もしかして、コレがガチャで手に入れた[結界術 Lv1]なのか?
慌ててキャラクター情報を表示させると、青いラインが短くなっておりMPが10/15と表示されている。
「これがスキル?」
確認の為にもう一度、壁が出ている方向とは逆に壁があるイメージをしてみる。
すると、体から力が抜ける感覚と共に、壁があるとイメージした場所に薄く緑色に光っている壁が出現していた。
「スキルは思考発動方式なのか」
スキルの発動条件は分った。
失敗の後の成功だった為か、無性に嬉しくなった俺は目の前の壁を人差し指で触れてみる。
スキルの名称が結界術だった為、目の前の壁は結界だと俺は思っていた。
つまり、結界という事は外敵から使用者を守る強固な盾って事だ。当然、固い感触が返ってくると俺は信じていたのだ。
が、俺の人差し指が感じた感触は薄い膜のような物で、薄い緑色の壁は人差し指で触っただけで穴が空き、シャボン玉のようにはじけて消えてしまう。
「…これが結界?」
壁の形で発現したから防御用と思ったが、実は人避けの結界とか?
いやいや、初心者に思考発動方式が早かった可能性もある。
とりあえず詠唱発動を試したいが、どうすれば良いのか分らん。
「とりあえず、結界!」
気合を入れ、掛け声とともに壁をイメージ。
すると、再び目の前に薄い緑色の壁が出現する。
「問題は強度だな」
恐る恐る人差し指で壁を触ってみるが、今度は触っただけで穴があく事は無く、そこに壁がある事を感じる事が出来た。
強く押しても大丈夫なようなので、とりあえず殴って固さを確認してみる。
少し飛躍しすぎている気がするが俺のパンチを防げないようでは、とてもモンスターとの戦闘には使えない。
「っよ」
俺が放った右ストレートは、そこに何も無いかのように壁を突き抜けた。
どうやら、まだ戦闘に使えるレベルじゃなかったようだ。
「スキルの発動方法が間違えているのか、元からこの強度なのか? まあ、傘の変わりにはなるか…と、頭がくらくらする」
スキルの確認が済んで気が緩んだからか、体を襲うだるさとめまいに気が付く。
青いラインが消えMPの表示が0/15になっている事から、この症状はMPが尽きた事によるペナルティなのだろう。
見える範囲にいるモンスターはプルンだけだが、モンスターがいるフィールドでこの状態は不味い。
速くあの城壁の中にあると思われる街で休むのがベストなのだろうが、今は城壁まで歩く気力が湧いてこない。
「ちゃんと考えて使えば良かった… MPは座っていれば自然回復するよな?」
MMORPGの定番だと座る事で回復したりするのだが、まだまだ未知のフィールドで呑気に座っているのは危険すぎる。
また、仮にモンスターに襲われた時に迎撃出来る気力が回復しているとは限らない。
「どこか、安全な場所は…」
どこか安全な場所は無いかと当たりを見渡すと、隠れる場所が少ない平原と、隠れる場所が多そうな森林が目に入る。
森林にはどんなモンスターが潜んでいるか分らない為、立ち入るのは危険と判断。
平原にいるモンスターはプルンしかいないようだが、隠れる場所が木陰しか無い。それでも360度視界良好なこの場所よりは安全だろう。
…この際、木に昆虫系のモンスターが隠れている可能性は無視する事にしよう。
とりあえずの方針を決め近くの木陰に移動しようとした時、俺は唐突に思い出した。
「あ、こんな時に便利なスキルを貰ってたな」
キャラクターの容姿を選べない変わりに得た、異空間に家を持てるスキル、ハウジングスキル。
ダンジョン内で休めるのだから、ここでも使えるだろう。
「問題はスキルの使用方法だな」
とりあえず、結界術と同じように思考方式と発声方式を試してみよう。
目の前に穴が、いや我が家の玄関があると想像する。
「ハウジングスキル」
適当な内容だったが、どうやら成功のようだ。
俺の目の前、約1メートル先に大人が立ったまま入れる大きさの穴が開いていた。
だるい体に活を入れ、1メートル先の穴まで足を運び、そのまま穴に倒れこむように踏み込む。
「…穴の向こうは日本家屋だった、か」
俺が倒れこんだのは、時代劇で良く見る床がそのまま土でできている三畳程の空間と、土の床から一段高くなった木の床がある空間、土間だった。
しかし、ぱっと見はただの玄関である。
「まあ、土間って現代家屋で言う玄関らしいからな」
ちなみに土間は室内と室外を分ける中間的な場所で、靴を脱ぐのが当たり前の日本家屋の中で例外的に土足が許される場所らしい。
「しかし、アンバランスな気がする」
一段高くなっている木の床は古い日本家屋風なのに、壁には現代風の白い壁紙が貼ってあり、これまた現代家屋にありそうなドアが二つあった。
「入ってきた穴は消えてるし、とりあえず安全な場所に避難できたか」
俺が倒れこんだ穴は何時の間にか消えていた。
入口が無い以上、この場に侵入して来る敵もいないだろう。
とりあえずの安全を確保出来た俺は、倒れこんだまま体を襲うだるさとめまいが消えさるのを待つ事にする。
それから10分程倒れこんでいると、徐々にだるさとめまいが消えていくのを感じた。
キャラクター情報に目をやると、青いラインが他のラインの三分の一程の長さまで回復しており、MPも6/15と表示されている。
「何時までも玄関に寝転んでるのも行儀が悪いし、部屋に上がるか」
起き上がり服に付いた土を払い、靴を脱いで木の床に上がる。
履いていた靴は何故か、俺が元々履いていたスニーカーだった。
…初期装備は布の服だけだったので、裸足よりはましなので気にしないでおこう。
さて、目の前にはドアが二つ。正面のドアと、右のドア。
利き手の右手に近いという理由から、右のドアから開けてみる事にする。
「…玄関の右はトイレか」
ドアを開けた先はトイレだった。
特に説明が必要ない程、一般家庭にある洋式トイレだ。
まあ、特筆するとタンクレスなところと、トイレットペーパーが二つ設置されている所だろうか。
設置されているトイレットペーパーには、「おまけ」と書かれたメモが貼ってあるので幼女がくれたオマケなのだろう。
ガチャでトイレットペーパーを当てた覚えは無いし。
「つまり、このトイレットペーパー使い切ったら補充する必要があるのか」
剣と魔法のファンタジー世界に、はたしてトイレットペーパーは売っているのだろうか?
とりあえず、今後の重要課題の一つにあげておこう。
「ゲームなんだから、排泄関係は仕様から外せば良いのに」
流石、超リアルが売りのゲームだ。
排泄が必要なゲームなんて聞いた事無いが、ここがバーチャル空間では無い弊害なのだろう。
「トイレットペーパーの心配は後にして、もう一つのドアをあけるか」
トイレを出てもう一つのドアを開ける。
ドアの先にはフローリングの部屋があった。幼女からの説明が正しければ、六畳の広さがあるはずだ。
六畳間の中央には炬燵が設置してあり、炬燵の上には槍やらナイフやらジャケット、ブーツが置かれている。
壁に目をやれば西洋剣が立てかけてあるので、ガチャの景品が置いてあるのだろう。
「…お腹が空いたな」
たしかガチャの景品にカップ焼きそばがあったはず。
炬燵のそばにある段ボールがそれだと考え、手を伸ばすと炬燵の上に一冊の本がある事に気が付いた。
「『初心者向けマニュアル~コーラルで生活するには~』か、マニュアルがあるのは嬉しいが、何故ここに」
ハウジングスキルを発動させないと入れない場所にマニュアルを置くなんて、ハウジングスキル発動出来なかったらどうする気だったんだろう?
「マニュアルは後にして、飯にするか」
段ボールを開け、カップ焼きそばを手にした瞬間に思い出した、お湯が無いと。
電気ポットはあるし、電気は永遠に供給されるから、水さえあればお湯は出来る。
が、肝心の水が無い。水が出るような家具はウォシュレットトイレしか無い。
「…まだ未使用なトイレだし、使っても大丈夫か?」
いや、未使用とかそういう問題じゃない。これは尊厳の問題だ。
それに今日はトイレの水でカップ焼きそばを食うとして、明日からのお湯はどうすると言うのだ。
「それ以前に、毎日カップ焼きそばを食うのはなぁ。それにカップ焼きそばも一箱しかないから、食糧と水の確保が必要だな」
食糧と水の確保にはあてがある。
あの城壁に囲まれた先にあると思われる、街だ。街に行けば、食糧と水を買う事が出来る。
問題はあの城壁がただの城壁で、あの門の向こうには街が無い可能性もある。
が、この手のゲームの常識として、プレイ開始地点には街があるものなのだ。
幸い日給3000円、こっちの世界だと3000ゴドが遊んでいても手に入る。
こっちの物価は知らないが、1日3000ゴドあれば三食食いっぱぐれる事は無いだろう。
「そう考えると、別にモンスターを狩って金を稼ぐ必要は無いんだよなぁ。クリアしたいクエストがある訳じゃないし」
このゲームで何をするか、それが一番の問題だ。
大抵のパターンだと現実世界に戻る為にクエストをクリアするとか、生きていく為にモンスターを狩るとかが王道だが、俺は既にログアウト方法は知っているし、生きていく方法を確立出来る状況にある。
ログアウトする方法が死である以上、すぐにログアウトする勇気は無い。
つまりプレイを続ける事は決定しているのだが、将来どうするのかが決まらない。
「この前の進路指導では大学進学って答えたけど、どうするかな~」
ここでは大学なんて無いだろうし、あったとしても現実世界で役に立つとは限らない。
まあ、働いた経験は今後の人生で役に立つだろうから、働く事に躊躇する事は無い。
現実世界でも夏休みなどの長期休暇にバイトした経験もあるし、将来の予行演習と考えれば良い。
が、衣食住のうち住を確保して、残りの衣食も日給3000ゴドあるから、ある程度は生活出来る余裕があると思うと働く意欲が無くなる。
「結局、俺がこの世界で何がしたいのかって事か」
どうせなら現実世界では出来ない事、このゲーム世界じゃなきゃ出来ない事をやりたい。
そう考えると、普通に働くのは候補から消えるな。
そう言う普通なのは、現実世界に戻ってからやれば良い。
気ままに旅をする行商人ってのも興味あるが、やっぱりモンスターを狩ったりダンジョンに潜る冒険者的な職業がゲーム的でオモシロイか。
それがMMORPGの一般的な遊び方だし、俺は生産職系は好きじゃ無いからな。
「モンスター狩って一攫千金狙って見るのも良いな」
問題は俺がモンスターとは言え、生き物を殺せるかって事だな。
俺がモンスターに狩られる可能性もあるが、それは自分より格上のモンスターに会わないようにすれば良いだけだし。
「王様になるのは無理でも、メイドさんを雇うのを目指すか」
リアルメイドさんを雇うのも、このゲーム世界の醍醐味のはずだ。
何を隠そう、俺はメイドさん好きの高校生なのだ。
「未来のメイドさんは置いておいて、まずは今日の飯だ」
第一目標としては水の確保が優先だな。
とりあえずの食糧はあるから、水さえあれば暫くは生きられる。
さっき辺りを見渡した感じだと、近くに川や湖などの水場は見当たらなかった。
そうすると、やっぱりあの街に行くのがベストか? 街なら水の確保の他にも、食糧の確保も出来るだろうし。
「そうと決まれば、まずは安全に街まで行く方法だな」
さっきの感じだと、この一帯にはプルンが生息しているようだった。
子供でも倒せるモンスターと説明があったが、能力の使い方が分っていない現状では不安がある。
よって、まずやる事は…
「マニュアル読むか」
炬燵に足を入れ、初心者マニュアルを読む事にする。
目次によると、このマニュアルは五つの章に分かれているようだ。章はそれぞれ、システム編、戦闘編、生産編、売買編、付録の五つだ。
まずはシステム編を読む事にする。
このマニュアルによれば、俺が見れるようになったキャラクター情報は、この世界の住人なら誰でも自分のキャラクター情報に限り見ようと思えば見れる物らしい。
そして、キャラクター情報を表示している状態で、特定のワードを唱える事でメニューウィンドウが開かれると記載されている。
「メニューオープン」
キャラクター情報を表示した状態でマニュアルに記載されている正しいワードを唱えると、目の前に
ステータス、スキル、職業、称号の四つのメニューが表示された。
マニュアルによると表示されているメニューをクリックすると、それぞれの詳細情報が表示されるらしい。
ステータスのメニューは現在の能力値を確認出来るメニュー、スキルは取得しているスキルとその熟練度を確認出来るメニュー、職業のメニューは取得している職業とそのレベルが確認出来るメニュー、称号は取得している称号を確認出来るメニューのようだ。
まずは能力値を確認する為、ステータスのメニューをクリックする。
すると以下の情報が表示された。
キャラクター名 アレク
種族:人間 性別:男 年齢:17
ベースレベル1
職業 なし
称号 なし
HP 50/50
MP 9/15
SP 7/7
筋力 3
敏捷 4 (3+1)
器用 8 (7+1)
知力 10
体力 4
精神 5
運気 3
魅力 5
名声 0
悪名 0
「ふむ、ガチャを引く前と殆ど変ってないな」
変わっている所と言うと、敏捷と器用が1プラスされているくらいか。
プラスされている原因として考えれるのは、ガチャで手に入れたスキルだろう。
そう考え、次はスキルのメニューをクリックする。
[スキル]
魔力 Lv1
気 Lv2
回復術 Lv1 熟練度0%
短剣修練 Lv1 熟練度0%
ブリーダー Lv1 熟練度0%
[パッシブスキル]
魔力向上 Lv1
気向上 Lv2
[アクティブスキル]
ハウジング Lv1
魔力放出 Lv1
気放出 Lv2
結界術 Lv1 熟練度0.3%
ファーストエイド Lv1 熟練度0%
これが俺の取得スキルと熟練度だ。
結界術だけ熟練度が上がっているのは使用したからだろうが、一回使って上がる熟練度は0.1%だけのようだ。
つまり、レベルアップまで後997回使用する必要があるって事だ。
あと熟練度があるスキルと熟練度が無いスキルがある。
熟練度があるスキルは単純に熟練度が100%になればレベルが上がるが、熟練度が無いスキルはクエスの報酬、神殿に行ってスキルを強化、このゲーム世界の神様から力を授かる事でレベルアップが可能だとマニュアルに記載されている。
さて、マニュアルの付録には公開出来る範囲のゲーム情報が記載されている。
例えば職業一覧とか、スキル一覧、アイテム一覧などだ。
この付録の中の、スキル一覧から[短剣修練]のページを開いてプラス補正の効果を確認する。
短剣修練
短剣を装備している場合、敏捷と器用にレベル数分のプラス補正。
例:短剣修練Lv10ならプラス10補正
さらに筋力にレベル/2(小数点切り捨て)の補正。
例:短剣修練Lv10ならプラス5補正
スキルレベルによりアクティブスキルや、短剣二刀修練などの派生あり。
熟練度が100%になる事でレベルアップ。レベルアップ後、熟練度は0%に戻る。
熟練度は短剣を使用して戦闘を行う、素振りをする、などで上がる。
やはり、能力値のプラス補正は短剣修練の影響のようだ。
素振りで熟練度が上がるとあるので、腰に装備されていた初心者のナイフを手に取り、立ち上がりざまに手にしたナイフを突き出す。
何かに体を引っ張られる感覚を覚えつつ、突き出したナイフを引き戻す。
「さて、熟練度は…」
スキルのメニューを確認すると、短剣修練 Lv1 熟練度0.01%とあった。
「一回で0.01%って、千回素振りしてレベルアップか」
レベル2になる為に素振り千回だと、今後レベルが上がるとどうなる事やら。
レベルアップに素振り一万回とか普通にありそうだ。
まあ、千回とか一万回でレベルアップすると考えると、現実世界と比べれば楽なんだろうけど、それでもゲームとして考えると多い気がする。
それでも能力値補正がある分、現時点ではレオン・ウィローサ使うよりはナイフを使った方が有利か…
「とりあえず次は、結界術の確認をするか」
発動方法がはっきりしないスキルの発動方法を確認する為、付録から結界術のページを開く。
結界術 消費MP = レベル数×5 発動させるレベルは術者が任意に選択可
世界に満ちる魔力を盾として具現化する術。
具現化した盾の強度や大きさ、具現化できる盾の枚数はスキルレベルと術者の能力値に比例する。
まあ、スキルの説明に使い方までは書いてないか…
書いてあるとすると、システム編に記載されているか?
マニュアルのシステム編のページをめくっていくと、スキルについて説明されているページがあった。
スキル
スキルには、スキル体系の意味合いがあるスキルと常に効果を発揮するパッシブスキル、使用者が効果を任意に発動させるアクティブスキルの三つがある。
スキルの習得は職業レベルや前提スキルのレベルが一定の値になる事で習得する他、クエストの報酬や神から授けられる事もある。
パッシブスキルとアクティブスキルの習得は、該当スキルのレベルが一定の値になる事で習得する事が出来る。ただし、稀に該当スキルのレベルが足りない、該当スキルを取得していない者でもパッシブスキルやアクティブスキルを習得している者がいる。俗に言う、天才という人種である。
ふむ、この説明を読むと前提スキルが無いのに結界術覚えている俺って、結構変なヤツ?
目立つのはあんまり好きじゃないからな、なるべく該当スキルの無い結界術の使用は控えるべきか…
考えても仕方ない、続きのアクティブスキルのページを確認するか。
アクティブスキル
使用者が任意に発動するスキル。
発動時にMPを消費する術スキル、SPを消費する技スキルに分かれる。
精霊などの高位存在の力を借りるのが術スキル、自身の力のみを使用するのが技スキルとなる。
荷物運びを例にすると、人を雇い荷物を運ぶ術スキル、自分で荷物を運ぶ技スキルとなる。
両者にはそれぞれメリットとデメリットがあり、術スキルは複数人を雇えば一人では運べない重さの荷物も運べるように、技スキルより大きな効果を発揮出来る。ただし、人を雇う、指示を伝えるなどの手間がある為、効果を発揮するまでのスピードは技スキルに劣る。
消費するMPは力を借りた存在への賃金、SPは自身が消費した体力となる。
「ふむ、つまり術スキルは発動までに時間がかかるが効果は大きい、技スキルは発動するのは早いが効果は小さいと…結局、発動方法が分からないままか」
この説明を読む限り、術スキルは誰かの力を借りて効果を発揮するスキルらしい。
と言うことは、力を借りる相手に自分がどのような事で力を借りたいのかを伝える必要がある。
デメリットに[人を雇う、指示を伝えるなどの手間]とあるから、この自分の意思を伝えると言う説は間違い無いはずだ。
つまり、この自分の意思を伝える行為が、よくゲームである詠唱って事か?
「あ、続きがある。プレイヤー向け説明、スキル発動方法について。一番簡単な発動方法はメニュー画面から使用するスキルを選択し、実行をクリックする。二番目に簡単な方法はそれぞれのスキルに決められたワードを唱えること、技スキルのワードはスキル名、術スキルはスキル毎に決まった詠唱文を唱える。三番目の方法は、使用するスキルをイメージする事で発動させる方法。技スキルは体に馴染ませれば比較的に楽に発動出来るが、術スキルの場合は力を借りる存在との友好度が高いなどの条件がある」
普通に考えて、戦闘中にメニューから使用スキルを選択する方法はNGだ。
ゲームであるMMORPですら、スキルの発動はショートカットキーに登録された物を使用するのが一般的なのに、現実と変わらないこの世界でメニューから発動するスキルを選択するなんて、そんな時間的余裕があるとは思えない。
となるとスキルを発動する方法は二番目か三番目になるが、ベストは三番目の方法だろ。
技スキルは二番目と三番目で大した違いは無いかもしれないが、術スキルの場合は二番目と三番目の差は大きい。
いや、よく考えれば使用する技スキルの名称を唱えてたら、敵にこれから使うスキルがもろバレだからデメリットは大きいか…
「結局、技スキルも術スキル三番目の思考発動方式がベストって事だな」
とは言え、初めからベストな方法が出来るとは思えないので、メニューから結界術を選択し実行をクリックする。
「世界に循環する魔力よ、我を守る盾となれ。シールド!」
実行をクリックした瞬間、口が勝手に動いた。
勝手に口走ったこの言葉が、結界術の詠唱文なのだろう。
その証拠に、俺の目の前に薄く輝く緑色の壁が出現している。
・・・しかし、体が勝手に動くなんて、なんてミステリー。
まあ、詠唱文を確認するって意味では、便利なんだろうけど。
あとは、ファーストエイドの発動方法を確認しておくか。
発動方法と言っても、発動方法は結界術と変わらないので、ここで確認したいのは詠唱文だ。
後は一度イメージが持てれば、次からは思考発動が可能になるかも知れない。
まずはファーストエイドの消費MPの確認からだ。
今の結界術を使用とした影響で、残りMPが5になっているから、消費MPが5より大きい場合は直ぐには使えない。
早速手元にあるマニュアルの付録から、ファーストエイドのページを開いて消費MPを確認する。
ファーストエイド 消費MP = レベル数×4 発動させるレベルは術者が任意に選択可
世界に満ちる魔力を用い、対象者一人のHPを小回復する術。この術では対象者の状態異常(出血)を含め、全ての状態異常は回復しない。
回復するHP量は他の回復術の中で最低だが、スキル発動までの早さは最速を誇る
レベル1で取得出来るアクティブスキルだけあって、効果が微妙。
これはスキル連打で対応しろという事か? まだ連打できるMP無いけどさ。
「とりあえず、使ってみるか」
メニューの取得スキル一覧からファーストエイドを選択し、実行をクリックする。
「癒せ、ファーストエイド」
再び口が勝手に動き、詠唱文を唱える。
唱え終わった瞬間、俺の右手が一瞬光る。光は消えることなく、キラキラと輝いて下に落ちていった。
「HP減ってないから効果が分からないな」
だが、効果を確認する為に、自分で自分のHPを減らす度胸は俺には無い。
なぜならHPを減らすって事は、自分の体を傷つける事だからだ。
そう、俺には自傷趣味は無いのだ。
…HP回復の効果確認は、また今度にするか。
そのうち怪我するだろし、その時でも遅くない。
遅くないと良いなぁ。
「そろそろ街に行ってみるか、お腹すいたし」
ファーストエイドの熟練度が0.1%上昇しているのを確認し、完全な状態で街に行く為にMPが全回復するのを待つ。
性急な気がするが、空腹の前に勝てる物は無いのだ。
「まずは取得できる職業を確認するか」
MP回復まで時間があるので、マニュアルを読んで時間をつぶす事にする。
マニュアルは職業とは、の書き出しから始まっているが、そこは斜め読みで読み進める。
分かったのは職業とは神の祝福で、職業を装備する事で脆弱な人間でもモンスターと対等に戦えるようになる事。
また、職業は神の祝福だが、同時に神罰的な側面もあるという事だ。これは山賊や海賊など強制的に装備状態になってしまう職業がそれにあたる。
「で、肝心の取得できる職業は・・・」
職業は神殿で取得出来るようだが、初期状態で取得出来る戦闘職系の基本職業は以下の7つがあるらしい。
戦士…体力にプラス補正があり、HP補正値が基本職業中最高。初期スキルは戦技スキルLv1。戦闘回数によりレベルがあがる特殊な職業。戦技スキルはHP回復率向上やSP回復率向上など戦闘に役立つスキルが多い。
剣士…筋力にプラス補正があり、HP補正値は基本職業の中では並み。初期スキルは剣修練Lv1。職業レベル=剣修練系スキルのレベルの合計の為、基本職業の中で最もレベルが上げやすい。ただし修練系スキルは装備している武器に依存し、一つのみが適用される為、広く浅く修練系スキルのレベルを上げた場合はレベルの割に能力値が低い場合がある。
槍士…敏捷にプラス補正があり、HP補正値は基本職業の中では並み。初期スキルは槍修練Lv1。職業レベル=槍修練系スキルのレベルの合計の為、比較的レベルを上げやすい。槍修練系スキルの数は剣修練系スキルの数より少ない為、剣士に比べるとレベルを上げづらい。
斧士…筋力にプラス補正があり、HP補正値は基本職業中二番目に高い。初期スキルは斧修練Lv1。職業レベル=斧修練系スキルのレベルの合計の為、比較的レベルが上げやすい。
筋力補正は剣士よりも高く、戦士と斧士の二つの職業を装備した者には最強脳筋への道が開ける。
弓使い…器用にプラス補正があり、HP補正値は武器を扱う基本職業の中では最低。初期スキルは弓修練Lv1。職業レベル=弓修練レベル+属性矢作成スキルである為、武器を扱う基本職業の中では一番レベルが上げづらい。武器を扱う基本職業の中では唯一の後衛職であり、デバフ属性の矢を使用する事でデバッファーとして活躍出来る。
魔法使い…知力にプラス補正があり、HP補正値は基本職業の中では最低。初期スキルは魔術Lv1。職業レベル=魔術スキルレベルであり、基本職業の中では一番レベルが上げづらい。
ただし、魔術を使用した際の火力は基本職業の中では最強である。
神官…精神にプラス補正があり、HP補正値は基本職業の中では下から二番目。初期スキルは回復術Lv1。職業レベル=回復術スキルレベル+神聖スキルレベルである為、弓使いと並びレベルが上げづらい。回復術でHPを回復が、神聖スキルではバフスキルを使用出来る。
まずは剣士と神官を取得しよう。
既に剣士と神官のスキルを取得してるから、この職業取って無いと怪しまれる可能性があるからな。
あとは、戦士と斧士の組み合わせは無しの方向でいこう、脳筋は嫌だ。
「さて、MPも全回復したから、そろそろ行くか」
決意はしだが、それでも怖い。
もう少し準備が必要なのではと、どうしても外に出る勇気が湧いてこない。
何か外でも出来るんだって、証が欲しい。
初期装備のナイフでは心許ない為、ガチャで当てた護身用のナイフを腰に装備しても、布の服だけでは心許ない為、ガチャで当てたジャケットを着込んでも不安が消えない。
「…ナイフの素振りでもするか」
気持ちを落ち着かせる為にも、特訓でもして見るか。
ただ素振りするだけでは意味が無いと考え、何か的を探してみる。
そう、現代日本人としては当たり前だが、俺はナイフを何かに刺したことは無いし、何かを斬ったことも無いのだ。
今のうちに何かを刺す経験が必要なのではないか?
辺りを見渡しても的になる物は無さそうなのだった。仕方ないので、的は造る事にしよう。
折角、全回復させたのに勿体ないが、MPはまた回復させれば良い。
「シールド」
最初は柔らかな方が良いだろうから、わざと中途半端な詠唱とイメージで結界術を使用する。
そして、発現した下敷き程の盾にナイフを突き出す。
中途半端に使用した為か、盾は抵抗もなく突き出した腕ごと突き抜けた。
同じ事を二回、全回復したMPが尽きるまで繰り返す。
尽きたMPが回復する間、暇つぶしに短剣修練の熟練度を確認すると面白いことが起きていた。
なんと、短剣修練の熟練度が30.01%になっているのだ。
0.01%は素振り分で元からあったから、この短期間で30%上がった事になる。
「この盾を短剣で破壊すると、一回につき10%上がるのか…」
それに気が付くと、感じていた空腹を忘れてしまった。
俺は夢中でMPが回復したのを確認すると同時に結界術を使用し、再びナイフで発現した盾を破壊する。
破壊後に短剣修練の熟練度を確認すると、40.01%に上がっているではないか。
「おぉ、いきなりお手軽レベルアップ方法発見」
色々と検証した結果、以下の事が分った。
壁を一撃で破壊した場合に増える熟練度は10%、一撃で倒せない場合は攻撃回数×0.1%+破壊後に1%の熟練度が増えるようだ。
「よし、これでレベルアップ」
MPが尽きるまで結界術を使用し、ナイフで破壊する。
MPの回復に時間がかかったが、短剣修練をレベル2に上げる事が出来たので早速ステータスを確認してみる。
キャラクター名 アレク
種族:人間 性別:男 年齢:17
ベースレベル1
職業 なし
称号 なし
HP 50/50
MP 0/15
SP 8/8
筋力 4 (3+1)
敏捷 5 (3+2)
器用 9 (7+2)
知力 10
体力 4
精神 5
運気 3
魅力 5
名声 0
悪名 0
「お、筋力が上がった」
筋力は物理攻撃力に影響するみたいだから、このままスキルレベルを4まで上げよう。
問題はMPの回復が1分に1しか回復しないから、熟練度を10%上げるのに5分かかる所だな。
さっきから5分休憩、熟練度10%上げる、5分休憩の繰り返しだ。
ステータス画面を閉じ、レベル4を目指して再び作業を開始する。MPが5/15になった事を確認した瞬間、反射的に結界術を使用しナイフを突き出す。
既に作業と化した動作を再開した時、熟練度の上がり方が変わっている事に気が付いた。
「ん? 熟練度が5%しか上がって無い」
レベルアップしたからか、熟練度が5%しか上がらない。
このペースだと5分に5%上がるので、レベル3まで100分もかかってしまう。
まあ、それを言ったらレベル2に上げるまでに50分、検証した時間も入れれば1時間は使ったけどさ。
それから約95分間、俺は熟練度を上げるまで作業を繰り返し繰り返し続けた。
正直、地味な作業の繰り返しで何度も止め様と考えたが、安全にレベルアップ出来ると折れそうになる心を奮い立たせ作業を続ける。
ついに短剣修練がレベル3になると敏捷と器用のプラス補正が1増えた他に、新たにアクティブスキル[ダブルアタックLv1]を習得したのだ!
ダブルアタック 消費SP = レベル数×5 発動させるレベルは使用者が任意に選択可
高速の二連撃を繰り出すアクティブスキル。一撃の物理攻撃力は通常の物理攻撃力×75%(発動レベルが1増える毎に+5%
短剣修練レベル4を目指し再度作業に入るが、盾を破壊して得られる熟練度が2.5%である事を確認すると、途端にやる気がゼロになった。
上がる熟練度が2.5では、レベルが上がるまでに200分もかかるのだ。
流石に、こんな地味で単純な作業を200分も続ける根性は俺には無い。
それに、いい加減に腹も空いた。
とりあえず、この修行(?) の成果を確認しマイハウスから旅立つ事を決意する。
今回の成果
短剣修練Lv1 → Lv3にアップ
筋力補正 0 → 1にアップ
敏捷補正 1 → 3にアップ
器用補正 1 → 3にアップ
アクティブスキル[ダブルアタックLv1]習得
結界術Lv1 熟練度 0% → 41.3%にアップ
「よし、早速腕試しだ!」
単純労働から解放された俺は土間を駆け抜け、元いた街道沿いの平原に飛び出した。
目指すは木陰からこちらを伺っているプルンだ。
愛らしいピンク色の球体目掛け突進する俺。
こうして、俺のゲーム世界最初のバトルが始まるのだった。
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今日のバグ報告
◆ひとつめ◆
プレイヤーが発現させた結界を、プレイヤー自身が破壊した際に修練系スキルの熟練度が上がる不具合を発見。
原因は、修練系スキルが戦闘に使用されたか判断する判定式。既存の判定式ではHPを削った場合は戦闘に使用したと判定していた為、HPが付与されている結界を破壊する事で戦闘に使用したと判定されている。
プレイヤー自身のスキルで発現したHPが付与された物体を破壊しても熟練度が上がらないよう修正予定。
※パーティープレイヤーのスキルまで対象を広げるかは要検討。
◆ふたつめ◆
初心者マニュアルの渡し方について検討の余地あり。
初心者マニュアルは初期装備品では無い為、現在はハウジング空間に配置している。
しかし、この方法ではハウジングスキル使用後にしか、初心者マニュアルを参照できない。
早くメイドさんを書きたい。