プロローブ キャラクター作成
GWが暇だったので、勢いで書き始めました。
「それではチュートリアルを始めますね」
目の前にいる幼女(自称神様)が笑顔で手をかざすと、空中に画像が映し出される。
画面に映し出される文字には、「αテストにようこそ」の文字が画面の真ん中にでかでかと配置されている。
そう、俺は幸運(?) な事に神様が制作したというMMORPGのαテストのテスターに選ばれた、どこにでもいる男子高校生である。
ことの始まりはとある日曜午後、憂鬱な気分でコンビニに買い物に行った帰り道だった。
明日の学校をサボる方法を一通り考えた頃、目の前で幼女が配っていたポケットティッシュを受け取ったのが、この不思議空間に俺がいる原因だ。
「ごめん、もう一度この状況を説明してくれる?」
「…?先ほどの説明で分らないところがありました?」
「分らないところ以前に、全部分らないよ。ここに僕がいるのは、君の配っていたポケットティッシュが原因だって事は理解したけど」
頬をつねったりして、ようやく目の前の現実を現実として認識したのもさっきだし。
俺が現実と夢の区別をしている時に目の前の幼女が何かを説明していたが、その説明を聞く余裕が俺にあるはずも無く、俺は幼女の説明を全て聞き流している。
「仕方ないですね~ もう一度説明しますから、ちゃんと聞いてくださいよ」
幼女の子供に話すような雰囲気にムカっとするが、そんな事で怒るほど俺は子供では無い。
怒って相手に嫌われるのは嫌だし、幼女に泣かれたら俺が悪者だしね。
ここは背伸びする子供を見ていると思い込もう。そうすれば目の前の幼女が微笑ましく思えてくる。
こんな時にも人の顔色をうかがう、小心者な俺って…
「それでは、最初から説明しますね。
まず貴方がここにいる理由ですが、それは貴方がαテスト参加権を受け取ったからです。参加権は今貴方が持っているポケットティッシュがそうです」
幼女が言うように、俺が持っているポケットティッシュにはαテスト参加権と記載されている。
「いや~、貴方が参加権を受け取ってくれて助かりました。三日も配っているのに、誰も私に気がついてくれないですよ~。まあ、私は下っ端なんで本気で神様を信じている人にしか見えないんですけど」
ちなみに俺がポケットティッシュを受け取った時、学校を休めるように本気で神様にお願いしていた。信じていない神様に本気でお願い出来ないので、その時だけは神様の存在を信じていたのが良かったらしく、道行く人が見えなかった幼女が俺には見えた。
「さて、貴方がαテストに参加して頂くゲームですが、私の上司が造った超リアルが売りなダイブ型MMORPGになります」
「ダイブ型って、よくマンガとかラノベで出てくるアレですか?」
「そーです、あの仮想空間に接続して、仮想空間を現実と同じように感じるアレです」
おぉ、超科学的だ。
流石神様、現代の人類が持つ技術では不可能な事をやってみせる。
・・・しかもダイブ型って、MMORPGじゃなくてマンガとかで良くあるVRMMOじゃないか。
「ちなみにマンガやラノベだと、脳に仮想空間のデータを送ってダイブしますが、このゲームは魂ダイブ型となっています」
「魂ダイブ型?」
「肉体から魂を取り出し、ゲーム世界の肉体に取り出した魂をダイブさせる方式です」
おぉ、超ファンタジー。
神様にしか造れないゲームだね~
何時の間にか幼女の手のひらに浮かぶ画像は、肉体から火の玉が抜き取られて別の肉体に入り込んでいる絵(子供の落書きレベル)に変わっている。
って、魂取り出して肉体にダイブって、良くある転生物とか憑依物じゃないか。
「生きた肉体に魂をダイブさせるので、現実世界と同等のリアリティを保障しますよ!」
「むしろ現実世界との違いを教えてください」
「違いですか?いくらリアリティがあってもゲームですからね、死んでも生きられるトコでしょうか?」
「死んでも生きられる?」
「ゲーム内でHPが0になって死んだ場合、死んでから72時間以内なら蘇生してゲームに復帰することが出来ます。また、死んでから72時間経過した場合はゲームオーバーになります。ゲームオーバーしたプレイヤーは現実世界に帰還して頂く事になります」
つまり、よくあるデスゲームフラグは無いって事か。
でもゲームオーバーになって現実世界に戻る時、死んだ記憶も一緒だと今後の生活が心配だな。
PTSDとか、よくTVコメンテーターが言うアニメやゲームの悪影響とか。
って、よく考えたらプレイ時間も問題だよな。
死んでから72時間経過したらゲームオーバーと言う事は、最低三日間はゲームの世界にいるって事だよな。
「あの、ログアウト機能は実装されているんですか?」
「ログアウト、現実世界に戻るにはゲームオーバーになって、この『始まりの空間』に戻ってくる必要があります。この空間を経由する事で現実世界とゲーム世界を行き来できる仕様になっています」
「その仕様だとプレイ時間がとんでもない事になると思うんだけど。僕も学生だから、学校に行かなきゃいけないんだけど…」
ホントは学校行き無くないけど…
まあ、それ以前に行方不明って事で警察沙汰だよ。
「大丈夫です!プレイ時間が何百年になったとしても、現実世界の時間は3秒しかたっていません。さらに肉体はプレイ中も現実世界に存在するので老化の心配もありませんし、『始まりの空間』で魂の洗浄を行うので、プレイヤーの魂に悪影響を与える事はありません」
「魂の洗浄?」
「転生システムの応用で、魂に記憶されているゲーム世界の都合の悪い部分を削除します」
幼女が画面を操作すると、小学生が描いたような灰色の火の玉が洗濯機で洗われている絵が映し出される。
洗濯機で洗われる火の玉から灰色が取れ始め、やがて赤い炎となって洗濯機から出てくる。
「削除された人間はどうなるんです? まさか記憶喪失になったり人格変わったりしませんよね」
「現実世界の記憶は、ちゃんと脳に残っているので大丈夫です」
「それじゃ、特にデメリットはないんですね?」
「所詮ゲームですからね~、楽しかった記憶、レベル上げを努力した記憶、ボスを倒した達成感、貴方の現実世界での人生にプラスになるものしか現実世界には引き継げません。生き物を殺した記憶とか、死んだ記憶などは責任を持って削除します。残して現実世界で悪徳を重ねて、後からゲームのせいにされたら困りますし」
たしかにゲーム内の死が本当の死なんてデスゲーム、マンガの中だけで十分だ。
そして死んだ記憶なんて今後の人生に役立つとは思えないし。
いや、宗教とか起こす時に有利か?
「それでは、ゲームの説明を続けますね。まず、世界観ですがよくある『剣と魔法』のファンタジー世界です。お約束でモンスターが人々を脅かし、冒険者が富を求めるダンジョンが世界各地に設置されています」
「まあ、『剣と魔法』のファンタジーはMMORPGの王道ですね」
「お偉方にも馴染みの世界観だったらしく、多数決で決定しました。」
神様(幼女)が言うからには、お偉方も神様なんだろうなぁ。
ついでに多数決って事は、複数神いるってことだよな。
でも多数決で決まったって事は、このゲームはこの幼女だけの独断じゃないって事か?
「あの、多数決って?」
「ああ、このゲームの目的を説明していませんでしたね。このゲームは、神様の自分達もゲームを造りたいという同人的欲求と、人間を交えて皆とゲームで遊びたいという欲求、この二つの欲求を同時に満たすために作成され、運営されます」
「ゲームを造りたい欲求と、遊びたい欲求ですか」
「最近ゲームが流行っているんです、特に大勢で遊べる系のゲームが」
大勢で遊べるゲームが流行ってるって、ネトゲ廃人多そうだ。
しかし、MMORPGってそれなりにプレイヤーいないと楽しくないけど、そんなにプレイヤー(神様)が多いのか?
「まあ、造ろうと思ってもエクノ文字やルーン文字が出来てもプログラミングが出来る神なんていなかったので、新たにゲーム用の世界を創ったんですけどね」
…プログラミングが出来ないからって、世界を創るって。
やっぱり神様は人間とはスケールが違うなぁ。
というか世界を創ったんなら、そりゃ現実世界と変わらないくらいにリアルだろうよ。
しかし、神様って全知全能じゃないのか?
まあ俺もPCとか使えそうな神様って、某新世界の神しか知らないけどさ。
「さらに、プレイヤーの公平さを保つために新たな肉体を造り、そこに魂を憑依させる魂ダイブシステムを開発しました。これで現地人、人プレイヤー、神プレイヤーが同じ条件になります」
「公平さ?やっぱり神様と人間って能力が違うんですか?」
「そりゃそうですよ~ 上の方々の力なら簡単に星を割ったり出来るんですよ、己の肉体でモンスターと戦ったら、ゲームバランスが崩れてしまいます」
そりゃゲームバランス崩れまくりだろ。
PK仕掛けたら相手が神様だった、なんてもう死亡フラグじゃねえか。
レベルカンストしても、星とか割れる神様に勝てる気がしないんだが。
しかし、逆に考えれば最初から俺tueeeが出来るのに、その特権を自分から捨てるとは…
神様はそこらの人間よりも精神が大人のようだ。
「まあ、現実世界の能力が使えないだけで、ゲーム内システムを上手く使えば俺tueeeが簡単に出来るように造られているので、ゲームバランスが保たれているとは言えないんですが」
「ゲームバランスは大切だと思うんですが、崩れると糞ゲーになりやすいですよ」
「計算したところゲーム世界で俺tueeeが出来るまで、効率厨が狩りをしても約219000時間のプレイ時間がかかりますから」
「…それは違う意味でゲームバランスが崩れていのでは?」
「まあ、村レベルで俺tueeeをするなら約1095時間程度のプレイ時間なので」
幼女が言うプレイ時間を年数に変換すると、それぞれ25年と1年の狩りが必要って事だ。
しかもコントローラーでキャラを操作してモンスターを狩るんじゃなくて、自分の肉体でモンスターを狩るんだろ。
それって、普通に修行だろ! そりゃ25年も修行してたら俺tueeeになるわ。
…このゲーム、もしかしてマゾゲーか?
「まあ、それなりに努力すれば、そこそこの強さになるように設定されているので安心してください。それなりの勉強をすればテストの点数は上がりますが、全国一位の成績を取る事は出来ません。でも、別に全国一位を取らなくても将来は就職して普通に生きていけます」
「村レベルの俺tueeeでも、それで十分って事ですか?」
「それは貴方がこのゲームをどうプレイするかです。このゲームは自由度が高いですからね、世界最強になって最強ボスをソロで狩れるようになりますし、国を興すことや滅ぼす事、はたまた一般人として結婚して子を儲ける事も出来ます。何しろ、現実世界と変わらないリアリティが売りなので」
「…ようは、冒険者は生きていく手段の一つって事ですね。というか、それは自由度が高いというより規制されてないだけでは?」
なんとなく分った。
これってよくあるファンタジー世界にトリップするジャンルと変わらない。
ようはゲームの世界に入って、あとは自由に生きる。そして死んでゲームオーバーになったら現実に戻るってことか。
「ちゃんと創ったルールもありますよ。例えばモンスターを倒して経験値を貯めるとレベルアップとか、条件を満たすと手に入るスキル、スキルを使い続けると上がる熟練度」
「…あとは職業ですか?」
「もちろん職業システムもあります~。 後は称号システムですね、ベースレベルに職業レベル、スキルと熟練度に称号に装備。これで大体の強さが決まります」
「つまり、よくあるゲームシステムだけはあるけど、後はプレイヤーの自由って事ですね」
「私達が創ったルールは基本で絶対なルールですけど、ゲーム内国家の法律は別にありますので、あんまり悪い事はしないでくださいね。警察に捕まりますので」
簡単にまとめると、神様が創ったルール内なら何でも出来る。
国の法を犯す事も出来る。ただし、犯罪をすると警察に捕まると…
「ちなみに、法律って変えられるの?」
「もちろん変える力があれば、変えられます。例えば一夫一婦制を一夫多妻に帰る事も出来ますし、独裁者としてハーレムも作れます。もちろん、えっちな事も出来ますよ」
「…ホントに自由度高いゲームですね」
どうでもいいけど、見た目幼女にえっちな事って言われると意味もなくドキドキする。
幼女に胸のドキドキを悟らせないよう、左手を口元にあてて考えているフリで必死に冷静さを取り戻す時間を稼ぐ。
幼女にドキドキしてるなんてバレたら、年上(見た目だけ?)の威厳が…
「それでは、このゲームのシステムを説明します。このシステムはゲーム世界では絶対の法則、あって当たり前のルールです」
幼女が再び画面を操作すると、タイトルに[ステータス画面の見方]と表示された。
画面には種族、ベースレベル、職業レベル、称号、HP、SPの文字が並ぶ。
「まず、種族ですが対象の種族が表示されます。種族により初期ステータス値とベースレベルアップ時のステータス上昇値が異なります。また、特定の条件を満たした存在はより高位の種族にランクアップする事が出来ます。とは言え、種族のランクアップは貴方のようなプレイヤーにはあまり関係ないシステムですが」
「関係無い? モンスター専用って事ですか?」
「事実上そうなります。設定では、すべての生物がランクアップを行う事が出来ましたが、邪神が生み出したモンスターに対抗する為に神が与えた[祝福]の為に、ランクアップを行えなくなりました」
「…邪神が生み出したモンスターでもランクアップ出来るんですか?」
「生み出した存在が邪神でも、その世界に生きる存在ですからね。ランクアップ可能です」
モンスター専用なら、そこまで気にする必要は無いか。
まあ、個人的には興味あるんだけどな。コブリンみたいな弱い種族から成りあがってくストーリーとか大好物だし。
…興味あるだけで、自分がやってみたいとは思わないけど。
「プレイヤーに関係する部分としては、テイムしたモンスターを育てる場合ですかね。あとはランクアップによってモンスターが高位存在になり、ダンジョンの危険度が上がったりするので余り人が来ない場所は注意が必要です」
「モンスターをテイム出来るんですか?」
「出来ますよ~、でもテイム条件は秘密です。ちなみにテイムしたモンスターに神の祝福を受けさせる事で、モンスターに職業に就ける事が出来ますが、その時点でランクアップ出来なくなりますので、テイムしたモンスターを職業に就けるときは気を付けてくださいね」
モンスター育成か、ちょっと興味あるな。
上手くいけば、テイムしたモンスターが敵を倒してくれれば楽できるし。
「次はベースレベルですけど、これは良くあるレベルと同じです。レベルアップ時に種族値とほんの少しの努力値に依存して能力値が上がります。ちなみに能力値には次の項目があります」
少女が画面に手をかざすと、画面が変わり別の文字が浮かんでくる。
画面には筋力、敏捷、器用、知力、体力、精神、運気の文字がある。
「こちらが能力値になります。それぞれの値は、よくあるゲームの通りです」
画面の説明には、以下のように書かれている。
筋力…物理攻撃力や所持出来る装備の重量に関係する。
敏捷…回避力に関係する。
器用…命中率や詠唱速度、クリティカル率に関係する。
知力…魔法攻撃力に関係する。
体力…物理防御力に関係する。
精神…魔法防御力に関係する。
運気…クリティカル率に関係する。
「ちなみにここでの説明は一般的な説明のみですが、それぞれの能力値には隠し要素があります」
「隠し要素?」
「例えばですが、器用が高いと細かい作業が得意になりますし、知力が低いと脳筋と馬鹿にされ頭脳労働職に就けなかったり、体力が低いと病弱になりますし、精神が高ければどんな状況でも冷静でいられますし、運気が高いと宝くじが当たったりします」
それは名称がそのまま過ぎて、隠し要素の意味が無いような気がする。
「また、能力値の他にも魅力、名声、悪名があります。これらはベースレベルアップ時には上がらず、特定の行動の結果や取得しているスキル、称号により値が増減します。ちなみに、魅力が高いと他者から好かれ、名声が高いと民衆から敬われ、悪名が高いと民衆から恐れます」
「特定の行動ですか…例えばPKをすると悪名が高まる、とかですか?」
「その通りです。ゲーム世界の住人を襲っても同じ結果になります。あと、山で襲えば職業『山賊』を、海で襲えば職業『海賊』を得る事が出来ます」
「ペナルティがありそうな職業ですね」
「その通りです。この二つの職業は強制装備ですし、官憲に追われるようになります。メリットとしては筋力値と悪名のプラス補正の他に、悪名が高まり職業レベルが上がると部下が自然に集まり簡単に大組織の首領になれます。さらに一定の武力を持てば政府も手が出し辛くなりますので、やりたい放題出来ます」
やりたい放題か…
部下に仕事を押し付けて、自分は自堕落に生きるのもアリかなぁ
でも、犯罪行為をするのは日本人としての道徳心が痛む。
「さて、他の職業についてですが、基本職は神殿に行けばその職業を得られますので、ゲーム内で神殿を訪ねてください。また、職業は複数取得出来ますが、装備できる職業はベースレベルに依存します」
「それじゃ戦士系の職業と魔法職系の職業を同時に装備すれば、魔法戦士になれるって事ですか?」
「魔法職系の職業を装備していなくても取得したスキルは使用出来るので、二つの職業を同時に装備する必要はありません。でも、能力値の職業補正がありますので、魔法戦士として活躍するなら同時に装備するのがおススメですね」
ふむ、取得したスキルは何時でも使用出来るのか。
なら、戦士系職で魔法を使ったり、回復系職でも物理スキルが使えるってことか?
でも、そうすると装備する職業のメリットって、能力補正だけか?
「ちなみに職業を装備する最大のメリットは、最大HPにも補正がある事です。ゲーム世界では最大HPは種族固定ですが、職業を装備する事で最大HPに補正があります。これによって脆弱な力しかなかった人間が、モンスターと戦える力を得たのです」
画面には[種族と能力値の例]というタイトルで次のような情報が表示されている。
プルン 種族ランクE 最大HP40 ゼリー状のモンスター 人間の子供でも倒せる
コボルト 種族ランクE 最大HP60 二足歩行する子犬型のモンスター 群で行動
ゴブリン 種族ランクE 最大HP80 小鬼 手先が器用 群で行動
人間 種族ランクD 最大HP50 手先が器用で知能が高い 神の祝福を得る
オーク 種族ランクD 最大HP200 豚鬼 身体能力が高いが知能が低い
オーガ 種族ランクC 最大HP1000 大鬼 身体能力が高いが知能が低い
ドラゴン(非魔法種) 種族ランクB 最大HP5000 龍種 知能が低い為、魔法が使えない
吸血鬼 種族ランクA 最大HP10000 不老 身体能力が高く、知能が高い
ドラゴン(魔法種) 種族ランクS 最大HP20000 知能が高く、魔法が使用できる
…人間弱いな
ランクが人間より下のコボルトやコブリンよりも最大HPが少ないんだが。
確かにこれなら職業システムが無いとモンスターに対抗出来ないな。
でもプルンってなんだ? ゼリー状で子供でも倒せるって、スライムだよな。
「この表にある種族はあくまでも一例です。例えば真祖の吸血鬼(種族ランクS)という吸血鬼の上位種族も存在していますし、ゴブリンロードなどの派生種族も存在しています」
「あの、質問してもいいですか?」
「どうぞ」
「このプルンって、スライムですよね? なんで他のモンスターは定番モンスターなのに、これだけ定番モンスターって感じじゃないんですけど」
「私の上司がマスコットキャラクターとして考えたモンスターらしいです。まあ、よくある名前ですしシルエットも丸い球体ですので、所詮は二番煎じですね」
確かに、どこかのゲームにいそうな名前だ。
というか、マスコットキャラってキャラクターグッズの販売でも始める気か?
「さて、そろそろキャラクター作成を始めましょうか。キャラクター作成と言っても、性別と名前以外はランダムなんですけどね」
「容姿とかは決められないんですか?」
キャラ作成が性別と名前だけって、どんだけ時代遅れなんだ。
最近のMMORPGは髪型や輪郭に瞳の色、声までカスタマイズ出来るんだぞ。
「今のところ未実装になっています。でも、容姿を指定しない場合はあるスキルを取得出来るボーナスが付きます」
「それじゃ容姿はランダムの方が有利なんですか?」
「スタートラインが有利になるだけなので、容姿を選んだ人も後から挽回可能な程度ですけどね。ちゃんと貴方にも適用されるので安心してくださいね」
「ちなみに容姿をランダムにした場合のボーナスってなんですか?」
しょぼいボーナス貰って、しょぼい容姿になったら死んでも死にきれん。
やっぱり楽しくゲームを続けるには、容姿は重要だよ。
…性別の方がもっと重要だけど。流石にリアルでネカマは無理だ、下手したら妊娠・出産が出来そうな自由度があるゲームだからなぁ
「簡単に説明すると、ハウジングシステムのような物です。異空間に自分の家を持ち、そこで生活できるようになるスキルを初期状態で取得しています。まあ、家といってもレベル1なので六畳一間の質素な家ですけど」
「異空間って事は、何処でも使えるんですか? 例えば、ダンジョン内とかでも?」
「使えますよ。異空間なんでモンスターから襲われない特典もあります。高位冒険者の必須スキルですね。休憩所にもなりますし、移動式の倉庫にもなりますし」
移動式の倉庫って、何処の英雄王だ…
でも便利なのは間違いない。ダンジョンでヤバくなったら家?に逃げれば良いし、ドロップアイテムも手で持たなくても良くなるし。
「凄い便利ですね。でも、このスキルって後からでも取得出来るんですか?」
「便利なのは当たり前です。私達がプレイヤーの要望通りの肉体を創る手間を省くためのボーナスですから。あと、このスキルはゲーム内の神殿で購入・カスタマイズが可能です」
肉体を創る手間か…
創った事無いから想像出来ないけど、きっと大変なんだろうなぁ
今までのゲームだと現実に存在しないような容姿を選択してたから、同じような感覚でキャラクターの容姿を選ぶと、肉体を創る作業が大変な事になるんだろうなぁ
「さて、話しを戻します。ゲーム内の性別と名前はどうします?」
「性別は男で、名前はアレクでお願いします」
「男で、アレクですね」
キーボードを叩く動作をする幼女。
当然、幼女の前にキーボードなどは存在していない。
…きっと神様的な人間には見えないキーボードだったのだろう。
どうでも良い情報だが、アレクは俺が現在プレイしているMMORPGのキャラクター名だ。
特に愛着があった訳では無いのだが、他に名前が思い付かないので使用する事にした。
「それでは、こちらが現在のプレイヤー[アレク]のステータスになります」
キャラクター名 アレク
種族:人間 性別:男 年齢:17
ベースレベル1
職業 なし
称号 なし
HP 50/50
MP 15
SP 7
筋力 3
敏捷 3
器用 7
知力 10
体力 4
精神 5
運気 3
魅力 5
名声 0
悪名 0
取得スキル
[スキル]
なし
[パッシブスキル]
なし
[アクティブスキル]
ハウジング Lv1
装備
初心者のナイフ
布の服
所持金
3000ゴド (1ゴド=1円)
マイホーム状態
六畳一間
「各能力値はベースレベルが1ですので、種族人間の初期値が適用されています。取得スキルは先程説明したボーナススキル、装備品と所持金は初期装備になります」
「ちなみに種族ランクが人間と同じオークの初期値ってどれくらいですか?」
「詳しくは教えられませんが、筋力値と体力値が二桁とだけ答えましょう。」
二桁って事は、筋力値は俺の三倍はあるって事か。
流石に正面からのガチバトルじゃ勝てないよなぁ
「それじゃ、αテスト参加ボーナスのガチャを回してください」
「参加ボーナス?」
「テストに参加頂く報酬とお考えください。また、プレイヤーが集まらなかった場合を考え、多少の能力底上げの意味もあります。今回はテスト用の仮想世界でプレイして頂く為、プレイヤーとモンスターの他はNPC役の自動人形しかいないので、テストプレイヤー同士でしかPTプレイが出来ないので」
「ちなみに、他の参加者って?」
「いませんよ、貴方だけです。予算の関係で、宣伝がティッシュ配りだけでしたからね。本当は夢で啓示とかしたかったんですが、予算が足りなくて」
・・・PTプレイが求められるMMORPGでプレイヤーが俺一人って。
それってどんないじめ?
「予定では三ヶ月後に本番移行なので、それ以降は神様プレイヤーが参加しますし、ゲーム世界の住人もいますので、その方達とPTを組んでください」
「・・・私は三ヶ月もゲーム内で一人ぼっちなんですか?」
孤独すぎて死んでしまう自信があるのだが。
ぼっちじゃMMORPGじゃなくて無人島サバイバルゲームじゃないか。
「参加者特典の先着順一人目から三人目の方に、アイテム[知恵の実]が配布されます。これはテイムしたモンスターの知能を人間並みにアップし、スキル[会話Lv1]を習得させるアイテムなので、これでテイムしたモンスターと会話する事が出来ます。しかもテスターは貴方だけなので、三つとも進呈します」
「一人分のボーナスだけじゃないんですか?」
「二十人目の方までの参加ボーナスを用意しています。参加者が二十人に満たない場合は一人目の方から余ったボーナスを獲得していく方式ですので、貴方には全ての特典を獲得する権利があります」
二十人分の特典か。
もしかしたらチート能力を手に入れて、楽が出来るかも。
俺tueeeeにも興味はあるけど、それ以上に楽がしたい。
人生日々平穏、人より楽に稼いで楽しく生きたい。
そのためにもチート能力はあっても、無駄にはならないはず…
「一人目から三人目の特典がAランクガチャと[知恵の実]、四人目から十人目がBランクガチャ、十一人目から二十人目がCランクガチャになります。それじゃ、回してください」
幼女の説明が終わると、俺の目の前に三台のガチャガチャが現れた。
ガチャガチャにはそれぞれA、B、Cと書かれているので、それぞれのガチャガチャが幼女が言っていたランクのガチャガチャなのだろう。
「それじゃ、Aランクのガチャガチャから回してください」
「分りました」
好物は最後に残す派の俺としてはCランクから回したいのだが、神様に反論する度胸が無いのでAと書かれたガチャガチャの前に立ち、ハンドルを回す。
ハンドルを回すと、透明のカプセルがガチャガチャから出てきた。
出てきたカプセルを俺が取る前に、ガチャガチャの横にいた幼女がカプセルを手に取り開けてしまう。
…くそ、カプセルを開けるドキドキ感を返せ。
「獲得したのは、スキル[魔力Lv1]ですね。レア度は高いスキルですが、Aランクガチャの結果としてはハズレですね。これが[魔力Lv3]なら当たりなんですが」
「その言い方だと、[魔力Lv3]はこのガチャガチャに入っているんですね」
「その通りです。この[魔力Lv1]はパッシブ効果とアクティブ効果の両方の効果を持つスキルです。まず、パッシブ効果ですが最大MPの5%増加、魔法攻撃力5%アップ、魔法防御力の5%アップです。アクティブ効果は消費MPを二倍にする事で、使用する術スキルの効果を100%アップさせる効果があります」
パッシブ効果が魔法攻撃力アップで、さらにアクティブ効果を使えばさらに倍になると。
火力を求められる魔法使いを目指すなら美味しいスキルだな。
「さて、それでは次の特典分を回してください」
幼女に促され、再びガチャガチャのハンドルを回す。
出てきたカプセルは再び幼女に奪い取られた。
「あ、今度はスキル[気Lv2]ですね。これは先程の[魔力Lv1]の物理版です。最大SPが10%アップ、物理攻撃力10%アップ、物理防御力10%アップ、アクティブ効果として消費SPを三倍にする代わりに、使用する技スキルの効果が200%アップします。ちなみにAランクガチャの景品としてのレア度は普通ですね」
「あの、術スキルとか、技スキルってなんですか?」
「術スキルはMPを使用するアクティブスキル、代表的な物は魔法スキルですね。知力、精神などの精神的な能力により効果が上がります。技スキルはSPを使用するアクティブスキル、代表的な物は剣技スキルですね。筋力、体力、敏捷などの肉体的な能力により効果が上がります」
術スキルが魔法使い系、技スキルが戦士系のスキルって事か。
でも便利なスキルだな[気Lv2]、物理攻撃力が10%アップすれば通常の物理攻撃力もアップするって事だし。
「また、スキルには常時効果を発揮するパッシブスキル、スキルレベルによりパッシブスキルやアクティブスキルを習得する[スキル]があります。[魔力Lv1]や[気Lv2]はこの[スキル]に分類されます。補足として、[スキル]は職業を取得する事で習得出来ます」
それじゃ、ただスキルって名称の場合は他にアクティブスキルを覚える事が出来るのか。
つまり、スキルツリーの大本みたいな物が[スキル]って事だな。
「そろそろ次を回しますね」
「最後のAランクですね、今度はあたりを引けると良いですね」
最後のAランク、良い物出ろと念じながらハンドルを回す。
そんな俺の気合が入ったAランク最後のカプセルは、やっぱり幼女に取られてしまう。
神様だけあって、反応速度が速い。
いや、俺も最初からカプセルの出口に手を出してればいいのだが、それをやると幼女が泣きそうな顔をするからフライング行為は出来ないのだ。
「あ、これはあたりですね。何しろ、この私が作成したアイテムですからね」
「アイテム?」
「正確には今回あたったのは武器です。私が企画・作成した十二種類のアイテムの一つで、名をレオン・ウィローサといいます」
幼女が手にしたカプセルを開けると、そこから1m程の西洋剣が現れた。
ゲームの初期に登場する無骨でシンプルなデザインの剣で、神(幼女)が造った剣には見えない。
「私が作成したレオン・ウィローサを含む十二種類のアイテムには、『可能性』、『成長』、『進化』の概念を結晶化させ、形にしました」
「それってつまり、この剣は成長するんですか?」
「その通りです。今でこそレオン・ウィローサは、初心者でも買えるお手頃な値段の店売り品と同程度の性能ですが、プレイヤーが使い込む事でレベルが上がり、将来は聖剣や魔剣と呼ばれるレベルの剣になります」
「…そのレベルまで成長させるのに、どのくらいの時間が必要ですか?」
「やりこみ要素用のおまけアイテムなので、無限の成長が設定されています。ですが、特に設計して造った訳でも無いですし、テストもしていないのでお答えしかねます」
おまけアイテムがAランクガチャの商品で良いのか?
それに設計して造ってないって、ゲームバランスが崩れても知らんぞ。
…やりこみ度がそのまま強さに直結するシステムが多いから、ホントに最強の剣になりそうで怖い。
「それでは、続いてBランクのガチャを引いてください」
「・・・一つ一つ引いていくのは手間なんで、一気に引きますね」
幼女の返事を待たず、俺はガチャガチャのハンドルを回していく。
8回程ハンドルを回した所で、それ以上ハンドルが回らなくなった。
「アクティブスキル[結界術Lv1]、家具アイテム[土間]、家具アイテム[ウォシュレットトイレ]、スキル[短剣修練Lv1]、スキル[回復術Lv1]、スキル[ブリーダーLv1]、家具アイテム[打ち出の貯金箱]ですね」
「あたりを引いたのか、はずれを引いたのか、いまいち分からないですね」
「結構あたりだと思いますよ。家具アイテムは、ハウジングスキルのマイホームをカスタマイズするアイテムです。このアイテムを使用すれば、貴方のマイホームの玄関は土間に変化し、トイレが新たに増築されます。さらに[打ち出の貯金箱]は24時間周期で3000ゴドが貯まる大変ありがたいアイテムです。ダンジョンで迷っても飲み水の心配はしなくても良いですし、働かなくても毎日3000ゴドの現金が手に入ります」
「あの、飲み水ってトイレの水の事を言ってます?」
「そうですよ。ハウジングスキルのマイホームは神様が創ったご都合空間にありますので、水道やガス、電気が永遠に無料で供給されます。ただし、水道が利用出来るアイテムが無い場合は無用の長物ですが」
日本人はよく平和ボケしていると言われる。
日常生活の中で命の危険なんてないし、飢えはともかく渇きを経験する事もまず無い。
何しろ公園に行けば水飲み場があり、誰でも水を飲み事が出来る国だ。
だから生きる為に水が必要な状況になっても、トイレの水を飲むには拒否感がある。
でもまあ、日給3000円あればダンジョン探索とか危険な事をしなくても生きていけそうだから、命の危険なんてないかも知れないけど。
月給にすれば9万円あるから、家賃無料で光熱費や携帯代が無料なら十分生きていける気がする。
…流石に所得税(あるのか分らないが)とかの対象外だよね、このアイテム。
「取得したスキルですが、[結界術Lv1]は30平方cmの壁を一枚作り出すアクティブスキル、[短剣修練Lv1]は器用と敏捷に補正があり、スキルレベルにより短剣用のアクティブスキルを習得できるスキル、[回復術Lv1]はスキルレベルにより回復系のアクティブスキルを習得出来るスキル、[ブリーダーLv1]はテイムしたモンスターを育てる際に役立つスキルです」
「[結界術Lv1]はアクティブスキルだから他のスキルに派生せず、他の[短剣修練Lv1]や[回復術Lv1]、[ブリーダーLv1]はレベルによって他のスキルに派生するって事ですよね」
「その通りです」
結構便利そうなスキルを手に入れたな。
欲を言えば[短剣修練]じゃなくて、剣修練や片手剣修練のようなレオン・ウィローサで使えるスキルが良かったんだが。
まあ、ガチャで自分に合った褒章が手に入る事は滅多に無いから仕方無いが。
「それじゃ、Cランクガチャを回しますね」
「はい、十人分回しちゃってください」
最初のやる気は何処へ行ったのか、幼女は投げやりな態度で応じる。
多分、Cランクガチャには幼女が喜ぶような景品は入っていないのだろう。
期待するのは辞め、Cランクガチャのハンドルを回す。
「アイテム[スピア]、家具アイテム[電気ポット]、アイテム[ブーツ]、アイテム[コンポジットボウ]、アイテム[初心者用ポーション×10]、家具アイテム[炬燵]、アイテム[護身用ナイフ]、アイテム[カップ焼きそば×1箱]、アイテム[小心者のポーション×10]、アイテム[レザージャケット]です」
「うわ、普通…」
「まあ、Cランクなので」
「名前からして店売りアイテムっぽいのが多いのですが」
「まあ、全部店売りアイテムですね」
俺はAランクのガチャから回してきたから、結構使える景品が手に入っている。
しかし、仮に参加者が二十人いたとしたら、もしかしたらCランクの景品一つだった可能性もあった。
ガチャの景品が無い初期状態でも死ぬ事は無いと思うが、このゲームバランスはヤバい気がする。
そもそも、ガチャの景品が店売りアイテムって間違えてないか?
しかも、名前からして初心者向けのアイテムな気がするんだが。
「まあ、ガチャなんてオマケです。人間界の通貨を持たない為に課金出来なかった上司達の意向により、プレイ時間第一主義になっていますので」
「…それはボスが倒せなかったら課金するんじゃなくて、地道に狩りをしてレベル上げろって事?」
「その通りです。このゲームは廃人の廃人による廃人の為のゲームです。その証拠として、なんとレベルの最大値は2147483647なのです。さらに転生システムもありますので、どんな廃人でもレベルカンストは不可能と言わせてもらいましょう」
得意げに胸を張る幼女とは逆に、俺は肩を落とした。
元々レベルカンストをする気は無いが、ゲーマーとしてレベルの上限は気になる。
が、最大値が2147483647なんて聞くとやる気が無くなる。
最大値が日本の人口より多いってどういう事だよ…
「それじゃ、そろそろゲーム開始のお時間です」
「うぅ、三か月もぼっち生活か」
「…頑張ってくださいね」
笑顔の幼女が恨めしい。
ああ、あの時この幼女からポケットティッシュを受け取らなければ。
「さて、ゲームの人生を楽しんでくださいね」
そして、俺の意識は闇の中へと消えた。
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キャラクター名 アレク
種族:人間 性別:男 年齢:17
ベースレベル1
職業 なし
称号 なし
HP 50/50
MP 15
SP 7
筋力 3
敏捷 4 (3+1)
器用 8 (7+1)
知力 10
体力 4
精神 5
運気 3
魅力 5
名声 0
悪名 0
[スキル]
魔力 Lv1
気 Lv2
回復術 Lv1
短剣修練 Lv1
ブリーダー Lv1
[パッシブスキル]
魔力向上 Lv1
気向上 Lv2
[アクティブスキル]
ハウジング Lv1
魔力放出 Lv1
気放出 Lv2
結界術 Lv1
ファーストエイド Lv1
装備
初心者のナイフ
布の服
所持アイテム
レオン・ウィローサ
護身用のナイフ
スピア
コンポジットボウ
レザージャケット
ブーツ
初心者用ポーション×10
小心者のポーション×10
カップ焼きそば×1箱
所持金
3000ゴド (1ゴド=1円)
マイホーム状態
六畳一間(トイレあり風呂なし)
土間つき
設置家具
炬燵
電気ポット
打ち出の貯金箱
書き終わった後にニュース見たら、コンプガチャ違法のニュースが・・・
いや、この小説のガチャはコンプガチャじゃないから大丈夫なはず。