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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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至高の荷物持ちを目指して!

作者: 魔女璃紅茶
掲載日:2026/01/31



朝っぱらから騒がしいギルドの中、金髪で浅緑の瞳を持つ青年が入って来た。


10代後半くらいだろうか、整ったその顔は童顔の中に一匙の不敵さが垣間見える。背丈が低いのは小人族だからであろう。


青年は朝も早くから漂う酒の匂いに苦笑しながら歩を進めると、数人が彼に気づき、


「お?シャルじゃねーか。今日こそ一緒に一狩いこーぜ!!」

「いやいや!ダンジョンでシャルの料理にありつくのは俺たちだ!!引っこんでな」

「はぁ!?ウチがマッサージしてもらうんだけど?あれは悟り開けるわあ」

「「「それは分かる」」」

「あれでマジで魔法使えるようになったやついるらしいからな…」

「俺も魔法の威力上がったわ」

「レッドハンターも更生するって噂だからな…」

「もう俺怖えよ」


アホ共は放って置くことに決めた青年―――シャルはあたりを見渡すと目的の人物を見つけたのか歩を進めた





「おはようございます。初めまして、ケンさん、でしたよね」


シャルは依頼パーティーのリーダーであろう、30代くらいに見える男の剣士に声をかけた。


依頼内容は確かダンジョン第30層のボス撃破までの同行、だったか、依頼内容や装備の具合からもおそらくは中堅といった所だろう。


「あぁ、俺がチュー・ケンだ、よろしく頼む。そしてパーティーメンバーの」

「ヤ・リチンだ、魔法使いだ。因みに夜は聖剣使」

「俺は…」

「おいっ!!なんで遮るんだ!」


いや、懸命な判断だったと思うよ


「俺の名はブンナ・グリ。イメージしにくいかもしれないが拳士だ」


僕はツッコまないぞ


「私はイヤン・ビッチーよぉ。タンクをしているわ」


なんか全くガードが固くなさそうだ…不思議だなぁ(現実逃避)


ちょっと今の今から頭が痛くなって来た。心配だ。







昼頃、僕らは()2()4()()()まで来ていた。



「はぁーー!!【轟剣】!!!」


リザードマンを抑えていたビッチーとスイッチし敵を袈裟に両断するケン。


「《ファイアブラスト》!!!」


グリが周囲を固め、一方向に敵を誘導しつつ

リチンが一気に範囲攻撃でリザードマンの数体を屠る。


火系統と的確にリザードマンの弱点を突いている。

因みにリザードマンの脅威度は5だ。


……この人達めちゃくちゃ優秀じゃん、なんでだよ。今回の僕はこのままだと本当にただの荷物持ちじゃん。いや荷物持ちではあるんだけど。


誰だよ中堅とか言った奴。もう、ジョウ・キュウに改名してくれ。


「そろそろ昼食にしましょうか、場所も丁度いいですしね」


第24層は草原だ。


気温や湿度も心地よくそよ風も気持ち良い。冒険者の中でも評判のいい階層だ。

ピクニックとかにもピッタリだ。景観も悪くない。

……尤も、わざわざする此処に来てまでする程の場所でもないが。モンスターも現れるし。


なんでそんな話するかって?ここでのピクニックを依頼して来たやつがいるからだよ。普通に外でしてくれよ…


まぁなんにせよ、休息時間こそ(荷物持ち)の戦場だ。


「そうですね…今日は『ぴっつぁ』にしましょうか」


「!!!まじか!最近話題の店のアレか?!!」


「え!うっそぉ、作れるの!?!」


ケンとビッチーが驚愕の声を上げる。


最近、近くの街にサイゼソヤとかいう料理店が出来た。

そこの料理だ。既に再現に成功している。


「あ、休憩場所も出しときますね。」


そう言ってシャルは腰の辺りに付けている豪華な小袋に手を突っ込んで…


「「「「 !?!?」」」」


丸くてでかいクッションを4つほど取り出した。


「はいどうぞ。体を預けてていいですよ。周りの警戒も僕がしますから。」


「収納袋は持っててもおかしくないだろうとは思ってたが…」

「これは……」

「冒険者を…ダメにする…クッション…!!」

「うっ!!何故だっ!!!まだ座ってもいないのに抗えないッッ!!!引き寄せられるッッ!!!!」

「「「「くっ!!!…………ふへぁ〜〜」」」」


何をやってるんだよ…まぁ気持ち良いのは分かるけど。



余儀冒(ヨ〇ボー)

通称、冒険者をダメにするクッション。屈強で野蛮でアグレッシブな彼ら彼女らでさえも行動力を根こそぎ削がれてしまう為そう呼ばれている。鎧を来ていても身体が休まる謎クッション。魔道具。誰も抗えないので市場には滅多に出回らない。


「しかし、こんなものを4つも持っているとは…とんでもないな。」

ケンが驚嘆する。ベストポジションを探りながら。


「世界の半分の譲渡を断った勇者も、これを提示された時は一瞬躊躇ったって話まであるくらいだからな…」

リチンが感慨深く言う。勿論、ベスポジを探しながら。


それはもうただの馬鹿だろ…


シャルは呆れた。その周りには既に料理道具やピザ窯、キッチンが出ている。


「じゃあ作り始めますね」

シャルは腕捲りしながら告げた。腕が鳴るぜとでも言いたげな表情だ。


「頼む」

「よろしくねー」

と喋るのはグリとビッチーだ。彼らは既にベスポジに至っているようだ。


「はい、任せてください。」

シャルはまな板の上に野菜を置くと、両の手で別々の野菜を高速で切り始めた。



「ところで気になったんですけど、皆さんかなりお強いじゃないですか?」

今は絶賛ソースを作成中だ。

そして言葉を続ける。


「30層ボスの初討伐って事ですけど、わざわざ僕を呼ばなくても余裕だったんじゃないですか?」


第30層ボスは中層と下層を隔てる番人だ。


脅威度6とリザードマンと1しか違わないじゃないか、

と思ってしまいがちだが脅威度5と6には大きな隔たりがある。


その為第30層ボスは冒険者にとって一種の"壁"と言えるだろう。


それを余裕で倒せて初めて上級への仲間入り、という訳だ。そのくらいでなければ下層ではやっていけない、という意味でもある。


だが見た感じこのパーティーなら割りと余裕で倒せるのでは?と思える。ここに来る道中も強いスキルなどは使う必要もなくスムーズに進めたし、何より連携が大変良い。


「まぁ俺達も大丈夫だとは思ったんだがな。それでも初挑戦な訳だし念には念を、だな」

「"脅威度6の壁"も有名だからなー。」

「試しに挑んでみて全滅、じゃあ目も当てられないからねぇ。」


ケンの言葉にグリとビッチーも追従する。


「そうだったんですね。まぁダンジョンでは慎重過ぎるくらいが丁度いいですからね。()()()()()()()()()()()()


意識まで高いとは…偏見って人を殺すんだな…ごめん。

ある程度実力が上がって来ると突っ走りやすくなるもんだが、大したものだ。


話している間にも丸い生地が2つ出来上がっている。

生地の真ん中を軽く押し、人差し指指に乗せクルクルと…


「ん?」

どうやらモンスターが現れたようだ。全然来ないからもしやとは思ったが、フラグになっちゃったかな?


「「「「っっ!!!!!」」」」


「っっ陣を組…」

「あ、大丈夫ですよ。休息時間ですからね。休憩してて ください。任せて貰っていいですよ。」

ケンの言葉を遮り制止の声を掛けるシャル。

あくまでも荷物持ちとしての役回りに拘るらしい。


リザードマンの特殊個体(イレギュラー)か。

ん?いや進化してるなこれは……脅威度7…ね。厄介な。

黒亜竜リザードルディア-異常進化態αとかだったはず。

こういう良く分からないのが出てきてくれると、変な進化先まで名前を記憶している甲斐が有るってもんだよね。僕は荷物持ちだから覚えてて当然なんだけどね!



特殊個体(イレギュラー)』通称の個体から大きく逸脱した力を持つ個体。基本的に脅威度が1上がる。何らかのタイプに特化する事が多い。狩場のバランスブレイカー。



まぁそれはそうとして、コイツら(特殊個体)基本的に見境なく襲いかかるからな…。どうせそこらの冒険者やモンスターを喰い散らかして進化に至ったんだろう。…胸糞だよ、


脅威度5の狩場で6が出るとか本当にタチの悪い…

で、今は7…と。最悪だよね、ふざけてる。ダンジョンの性格の悪さが出てるね。こんなとこに出現して進化しない訳ないもんな。


………まぁ勝手にダンジョン入ってるの僕らだけど。

だってほっとくとダンジョンブレイク起こすし?仕方ないし?僕悪くないし?


「…グゥゥゥ……」

通常個体とは違う漆黒の肌に白い紋様が禍々しさを象徴するかのように走り、身体の無駄を削ぎ落としスリムに、より鋭利に攻撃的な威容を誇っており、

その手には冒険者から簒奪したのだろうか豪華な槍を手にしている。

確かな格が感じられその唸り声さえも確かな圧を纏っていて…


「スピードタイプかな?」

シャルは生地をクルクル回しながら見据える。


「ギィ゛ィ゛ッッ!!」

鳴き声だけをその場に残し、瞬迅の踏み込みで持って槍を疾突する。


「消えっーーー」

誰が呟いたのだろうかその声さえも置き去りに槍はシャルに迫り、


刹那で届く。そんな距離に差し込んだ瞬間、シャルは肘でいなし軌道を逸らした。ピザをクルクル回しながら。

少し薄く丸くなって来たようだ。


突き出された腕が伸びきり、勢いが止まるまでの刹那にシャルは1歩踏み出し膝をお見舞いする。

ピザは止まらない。


あげた膝をそのまま勢い良く振り下ろして足を踏みつける。バックステップを失敗し半歩下がった形になる相手。


シャルは敵の膝が外角に向くのを確認し、両の手に持つピザ生地を上空に投げた。と同時に自らの小柄さを利用してより早く敵と逆回転の回し蹴りを肩に差し込んだ。それによって、予見してした相手のシッポを使った薙ぎ払いの回転を殺し、封じる。


そのまま押し込んでる肩を蹴り勢いのまま反対の足で顎を蹴り抜く。

タイミングよく落下して来たピザ生地を両の人差し指でキャッチした。既にピザ生地は理想の仕上がりとなっているのは、やはり荷物持ちの面目躍如といった所だろうか


だが、そんな事より注目すべき点がある…

それはいつの間にかピザ生地に具とソースが乗せられている事だ。

それも2つとも違う具とソースでしかもゾッとする程綺麗な配置とバランスで、だ。見る人が見ればこれこそが黄金比を体現したものだ…と言うかもしれない。


本当にいつの間にやったのか、その真相は本人にしか知り得ないが、もしかしたらこういう所にシャルの荷物持ちとしての矜恃が現れているのかもしれない。


黒亜竜が顎を打ち抜かれフラついている間に、シャルはピザを窯に入れ、焼き始める。


「よし、とりあえずいいか。」

シャルは満足気に言った。


言ってる間にも敵は立ち直ったようだ。相手はそのまま攻撃に移ろうとして――――


気づく。ナイフが、自分の足ごと地面に深く刺さっていることに。


「あれ、今更気づいたの?」

シャルは刺した張本人の癖にぬけぬけと言った。

どうやら足を踏んだ時にナイフごと踏んでいたようだ。


「ギィ゛ィァ゛ッッ゛!!!」

怒りの声を上げ槍を突き出す黒亜竜。

シャルは軽く身を揺らして避け、まるでただ目の前の物を取るかの様にゆっくりとした日常的な動きで手を前に出し…


触れた瞬間、黒亜竜の身体が背中から地にめり込んだ。

なんのことはない、ただの投げである。


ただ、黒亜竜も負けじとシッポを突き出す。速度はここ一番だ。それは驚くべき速度でシャルに迫り、()()()()()()


「シャルッッ!!!!」

「嘘…だろ……」

叫び声や絶望の声を上げるパーティの面々。

…だが


「ふふ、すいません。驚かせちゃいましたね。よく見てみて下さい。無事ですよ。」


「「「「?!」」」」


よく見てみるとシッポはシャルの腰あたりにある、豪華な小袋に突き刺さっている。収納袋だ。


あっはは!!上手くいってしまった!咄嗟の思いつきだったけど!収納袋を利用した画期的な方法!


………戻された黒亜竜のシッポには、タレが満遍なく付いている。シャル印の特製ダレだ…。


食材が自ら調味料に突っ込んでくるなんて理想的じゃないか!余程食されたいと見える!!



おっと、そろそろピザが焼きあがる時間かな…


投げられ、地面に倒れている相手を放置してシャルは窯の方へ歩みだした。



…その手にはシッポが握られている。切り落とされた。


あの硬く強靱でミスリルもかくやと思われる程だったシッポは、今では美味しそうにパリパリとしており、非常に食を唆る香ばしい匂いが迸っている。


その時…黒亜竜の身体がビクン、とはねた。その身体は赫く変色し、押し潰される様な圧力を発している。


所謂発狂、と呼ばれるものである。生命が脅かされ、死の縁に至った事で古よりの本能に目覚めたのである。


一方シャルは、一瞬つまらないものを見る目を向けたものの、既に視界はピザに奪われている。最後の仕上げでもしているのだろう。実に楽しそうだ。



冥亜()リザードルディア - ✘彡ИЖ¿‰??

()()()()

« 其れは、竜脈に連なりし者。»


« 其れは古き契約を背負いし者。»


«其れは…


「あぁ、もういいよ。君は。」

瞬間、冥亜龍の全身から血が吹き出した。その身体にはおびただしい数のナイフが無造作に突き刺さっている。その姿は見るも無惨で、見る者の心をざわつかせる。


冥亜龍は断末魔さえ上げる事も出来ず、その生命を終えた。







「いやぁ、美味かったぁ…」

「それな、リザードマン(?)のシッポとか最初身構えたが…信じられんくらい美味かった…」

「味付けが最高よねぇ。焼き加減も絶妙だしぃ。」

「ピザも至高だった!毎日でも食べたいくらいだ!」


皆、満足気に語る。それぞれ幸せそうな顔をしている。


因みに今シャルは紅茶を入れに行っている様だ。この場まで良い香りが漂って来ている。



「………それにしても、とんでもなかったな…」

「俺、殆ど見えなかったが、とてつもない事をしているのだけは分かった…。」


中層の冒険者としてかなり優秀な彼ら彼女らではあるが、流石に脅威度7はまだ早いらしい。


「急に敵はひっくり返るし、気づいたらシッポはちぎれ

てて美味しそうな匂いしてるし…」

「最後敵更に強くなったわよねぇ?呼吸も出来なかったわぁ。」


脅威度8とは上級の冒険者でも手を焼く事もあるくらいの存在だ、当然と言えば当然だろう。


「気づいたら敵死んでたけどな。シャルが味方で本当に良かったよ。」

「まぁ、常にイレギュラーと死が隣合わせであるダンジョンに於いて"歩く安全地帯(セーフティエリア)"とまで呼ばれるのも納得、という感じだったな。」

「まぁ彼、いつもトラブルに巻き込まれるみたいだけど。今日みたいに。」

「それでも、シャルが同伴するとパーティの生還率は

100%で目標も必ず達成するらしいからな。もう脱帽だな。」







実はこの会話はシャルには聞こえていた。別にコソコソ話していた訳でもないし、それ程遠い場所にいる訳でもなかったというのある。盗み聞きをしていたとも言う。



満足して貰えたみたいで良かった。トラブル云々はちょっと解せないけど…。


まぁなんにせよ、



これでまた1歩、至高の荷物持ちに近づいた…。






その後、彼らのパーティは危なげなく第30層のボスを倒すことが出来た。流石の一言だ。

特筆する様な事は無かったけど、まぁ強いて言うならリチンの魔法の威力が何故か()()()()()()()事くらいだろうか。











[完]

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