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魔法的存在者の詠唱は声にならない  作者: 猫ノ毛氈
1章

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6. 決闘が……始まる。

 ゲルトが弟の試合のある室内闘技場に来ると、中は生徒で犇めいていた。


 扉の脇には「ルージュ=ギャラットの魔法演舞」と看板がある。ゲルトはそれを見て、ルージュが学校に正式に許可を得ていないことを察した。


「出し抜かれた……」


 ゲルトは転瞬の間にして、ルージュがどういう触れ込みをして回って、さらに、自分たちノーブルクラスだけにはまた別のチラシを配っていたのだろうと考え至る。


 学校に報告すれば中止にすることはできたはずだ。しかし、時すでに遅し。ヴァイスもズィルバーも闘技場の真ん中に立っていた。

 ゲルトは自分の詰めの甘さを呪った。


 ――いや、俺も、ほんとうは……?


 ゲルトは首を横に乱暴に振った。



「さあ、マイネ・ダーメン(淑女ならびに)・ウント(紳士の)・ヘレン(皆々様)! お集まりいただき感謝する! 今回執り行われるは、この精神的に向上心のあるわたし直々の、かわいいかわいい後輩たちの試合だ!」


 ルージュの開会の言葉に、生徒たちは歓声を上げた。満目これ生徒、と言ったようすである。ひょっとすれば全校生徒が集っている可能性もある。


 ゲルトは、それをギャラリーから確認していた。たった三日やそこらでこれほどの生徒を集められるルージュに驚きを通り越して呆れていた。


「今宵、相対するは、挑戦者、我らが国の愛する王子、ズィルバー=リヒトライヒ!」


 ズィルバーは細く短い魔法杖を振り上げた。杖には細く短いものと、太く長いものがある。彼の魔法杖は前者であり「ドルヒ」という型のものだ。刺剣タイプと呼んでもよい。

 ドルヒは、一般に人の下膊ほどの長さの杖で、杖の中に魔法石の欠片が複数埋め込まれている。精密な攻撃に有用で、現代的でもある。


 そんな術者のズィルバーを見ると、眉宇に皴が寄っていた。

 ズィルバーは、自分たちの模擬戦を見世物のように扱われているのが気に食わなかったようだった。


 だが、試合前、ルージュに、「ズィルバーが勝てばゲルトの実力が知らしめられる」とまんまと言いくるめられてしまっているのもまた事実である……。


「そして、今年の首席でありながら、謎に包まれた魔法使い! ヴァイス=ノイン=ノインツィッヒ!」


 ヴァイスも杖こそ持っていたが、ただ突っ立っているだけで、ズィルバーのように腕を上げたり、声を上げたりはしない。まるでむかしからそこに生えていためでたい細木のようだった。


 ズィルバーの杖が現代的なドルヒであったのに対し、ヴァイスの杖は「ファッケル」という型で、大型の杖だった。

 殊に、ヴァイスの杖は大きく、彼の背よりずっと高いのだった。ヴァイスが小さいからより大きく見えるのだ。


「ルールは簡単だ。魔法のみで自由戦闘! 時間制限は無制限! としたいところだったが、教師どもを抑えていられるのが、長く見積もって一〇分だから、一〇分だ!」


 ゲルトは「ああ……この人は」と肩を落とした。


「どちらかが降参、戦闘不能に陥る、それか審判であるこのルージュ=ギャラットが勝負ありと判断したら、そこまで。

 それと事前にも話したが、これは決闘じゃない。相手を殺すような危険な魔法も厳禁だ! その場合、詠唱途中でもなんでも私がそいつを半殺しにしちゃうぞ!」


 ルージュは「うふっ」と不気味に笑った。


「それでは、はじめようか。ふたりとも準備はいいか?」


 ズィルバーはいつでも始めろと答えたが、ヴァイスは喋っているルージュを眺めるだけで答えない。しかしルージュもお構いなく、


「戦闘開始!」


 ふたりの「決闘」が幕を切って落とされた……。


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