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魔法的存在者の詠唱は声にならない  作者: 猫ノ毛氈
1章

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4/13

3. 闖入者は……高笑う。

 たった一〇人しかいないクラスだが、しかし、騒然とした。みながふたりの行く末を見守っていた。


 それでも当のヴァイスは、変わるところがない。顔に貼り付いた手袋を摘んで顔の前にゆっくり持っていき、それを不思議そうに眺める。まるで決闘の意味を知らないかのように。


「まさかお前、その意味するところも知らないとは言うまいな!」


 ヴァイスは手袋からズィルバーへと眼球を回す。


「ズィルバー。やめなさい!」


 ゲルトが急いで、暴走しているズィルバーのもとへ駈けてきた。


「兄さん。これは決闘の申し入れです。いくら兄さんであろうと、これは王侯の理だ。止めることはできない」


「ズィルバー。決闘の意味を理解しているのか。そもそも私が止めなくても、学校が許さない」


 ゲルトは思わず「私」という一人称が出ていた。


「知ったことか! それに俺だって、こいつを殺すまでやろうとは端から思っちゃいない! 降参させるから大丈夫だ」


 ズィルバーの物言いにゲルトは二重に腹が立った。平静さを欠いていることと、決闘相手への無礼をと。思わず、弟に向け声を荒らげかけたそのとき、


「おいおい! 今年の一年はおもしろいと聞いていたが!」


 教室の外の方から割り込む声が聞こえた。


 炎のように赤い髪。海のように青い瞳。いまこの場でもっとも心が漲っている。


 ゲルトはこの女学生を知っている。学校以外でも付き合いがあったからだ。


 だから、いくら学校では美人だと噂されていても、外見と内面は関係しないことを心得ていた。そのきっかけになった女と言っても良い。ゲルトはそもそもルージュを淑女と看做していないが。


「ルージュ先輩……」


 ルージュはゲルトたちとおなじく、ノーブルクラスであるが、学年が異なる。ルージュはゲルトたちの先輩にあたる。


「いいじゃないか、決闘! おもしろいじゃないか、決闘!」


 ゲルトは半ばあきらめていた。自分ではこのルージュという扱いがたき魔女を止めることはできない。ルージュが来ると知っていたなら、別の策を使っていた!


「ま、ガチの決闘は学校も許さないだろうからな。どうだ、模擬戦っていうのは。戦闘訓練なら、どうせいつかおまえたちだって授業の一環でやるんだ」


 ま、対人では滅多にやらんけどな、とルージュは小さく付け足した。


「しかし、ルージュ先輩!」


「おまえはうるさいなぁ。楽しいほうがいいじゃないか。第一、そういうゲルト新入生次席だって、ほんとうはその()()()()()()の実力を疑ってると違うか?」


 ゲルトはすぐに否定しようとしたが、言葉が詰まった。その反射で拳が強く握られた。


「ほら、決まり。おまえらだって気になるだろ? その首席っていうやつの実力がさ!」


 ルージュはほかのノーブルクラスの生徒にも水を向けた。その反応はまちまちだった。ズィルバーに乗ずるものもいれば、ゲルトの気を窺うものもいた。しかし、誰もヴァイスを気に掛けるようすを見せたものはいなかった。


「おまえも自分の実力が疑われていて悔しいだろ?」


 ルージュは最後にヴァイスの心を湧き立てるのを試みたが、ヴァイスは相変わらず、相手を見つめ尽くすのみだった。


「まったく不気味なやつだな。じゃ、日取りはこっちで決めとくからよ、ふたりは準備しとけよ!」


 ルージュはそう言って哄笑しながら、教室を出ていった。


「いったいあの人はなにしに来たんだ……ひどい嵐が来たような気分だ」


「でも、これで良かったぜ。ルージュさんに話が通れば、あいつだって参加せざるを得ない」


 ズィルバーは親の敵でも見るような眼でヴァイスを睨んだ。ヴァイスはまだルージュの去った教室の扉を眺めていた……。


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