序章 断頭台の魔法的存在者
――果たして自分は生きているのかどうか、常々疑問だった。
その根拠を徴するのに、戦場という場所を択んだのは、いま思えば、過誤であったかもしれなかった。戦場は、矮小な自分探しをするには、広過ぎたという感は否めない。現に、とうとう見つけられなかったのだから。
眼下に拡がる光景は珍しいものだった。自分はいま知らない国の土地にいる。両手と両足を鎖に繋がれ、閻羅人に連れられる形で階段を昇っている。
(――過誤であったと先述したが、そもそも正解は用意されていなかった。戦場以外に選択肢がそもそもありえなかった。択ばないことは正解でありえなかったし、択ぶとして戦場しかなかったのだから、はじめから抜け出せない厚く土を盛られた陥穽の中に自分はいたようであった)
果たして、亡霊をも殺せてしまう処刑装置は存在するだろうか。ギヨチンは幽霊の首を斬れるだろうか。皮肉なものだ。ここに自分が立たされるということは、果たせる哉、自分は生きていたのだろう。
命を刈り取られる、その直前の須臾の間のみ、自分は生きているのだと確やかに感じることができたのだ。
階をひとつ踏むごとに、酸素の収支が増加していくのを感じる。
――不幸であったとか、不運であったとか、いまさら嘆くまい。呪詛などは振りまけるだけ振りまいてしまった。
当然、持っていたものはすべて奪われたし、残った滓のようなものも悉く棄ててしまった。もう自分にはなにも残されていない。
ああ、いや、残っているのはこのわけのわからない命だろうか……?
斜めに傾いた幅の長い刃が、自分の頭上、遥か高くに構えている。
扨、ここにおいて、自分があの世への狭隘な隧道に頭を通し、隣で刑吏が縄を切るだけで、この世から汎ゆる「悪」は放逐されたことになる。どうやらそういうレ―ゲルになっているらしい。
自分の命が隧道を通されて固定された。
刑吏が剣を高々と振り上げる。
――ただ、望むらくは……。
――希わくは……




