9.私、ドレスに溺れる
部屋に戻ると、早速お着替えだ。
貴族は忙しい。
朝昼晩の食事用のドレスと、同じく朝昼晩の部屋着、夜はナイトウエア、お茶会や、夜会などパーティーが行われるならそのドレス、お散歩するにも着替えが必要。
朝は着替え、昼も着替え、夜も着替え。
着替えるだけで一日終わるんじゃないの?ってくらい忙しく着替える。
着替えばかりの毎日にウンザリするけど、でもある意味楽しみだったりしている。
私は、ニーナが、右側のクローゼットに入れておくと言っていたことを思い出し、ドレスを物色することにした。
職業柄、色んなドレスを目にするのは楽しい。
クローゼットを開けると、豪華絢爛っ!派手派手ドレスがぎっしり収納されていた。
うわぁっ!!ドレスの宝石箱やっ!!
そんな鉄板ネタはさておき、片っ端からドレスを出して並べる
ずっしりとしたビジューがあしらわれたものや、タイトなシルエットで、体のラインが丸わかりなもの、これいつ着るの?ってくらい派手な色に染色されたもの……。
生地はものすごく上質なシルクの織地だ。
手に取るだけですぐ分かる。
キメ細やかで滑らかな質感の手触り。
光を淡く反射する上品なツヤ。
でも、胸元のビジューはやけに重い。
着たら息が詰まりそう。
仕立てはものすごくいいんだけど…。
なんでこんなに派手なの?
そもそも、このルーミエールの見た目と、ギャップがありすぎる衣装の数々だ。
もっとカワイイ系が好きなのかと思ったら、セクシー路線だったのか……。
まさか、これも使用人の嫌がらせで、発注のデザインと違うものが上がってきたりとか……。
考えすぎか。
きっとそのうち、パーティに出席しないといけなくなる日が来るかもしれない。
その時に、このドレス、私、着れるのか?
いや……無理だな……。
1着のドレスを手に取り、私は思った。
こんな胸元ぱっくり開いたドレスは、海外セレブが着るものよ。
そうだ!
どうせ着替えるくらいしか日中やることもないんだし、自分で作ればいんじゃね?!
うんうん。そうしよう!!
今まで、社畜として、先輩に小言を言われながらも、きらびやかなドレスをさんざん作って来たけど、自分で着る機会はもちろんなかった。
でも、今なら、好きなデザインを作って着たい放題じゃないかっ!!
先輩にお小言を言われることもなく、好き勝手できるのでは?
いやぁ~。
この世界の生活に唯一とも言える楽しみが出来た。
なんかもう、食事のこととか、使用人のこととか、正直面倒くさすぎる。
そうよ!悪役令嬢の世界なんだから、もっと自由に、ワガママに生きてもいいはずよねっ!
あれこれドレスを出していくと、何着か、淡い色の生地で仕立てられた、裾広がりのシンプルな装飾っけの無いドレスが見つかった。
明らかに、他のドレスとはテイストが違う。
「お懐かしいです」
その言葉の奥に、どこか優しい懐かしさが混じっていた。
「この屋敷に来てから、レオン様のお好みの物だから。とおっしゃって、送られてきたドレスをお召になっていらっしゃいましたが、ルミ様には、やはり、こちらの方がお似合いです……。」
きっとこれはルーミエールが、自身で持ってきたドレスだろう。飾り気は無いが、仕立ての良い上質な生地でできていた。
よしっ!!
手始めに、このルーミエールのシンプルなドレスを、パーティ用にアレンジしてみるのはどうだろうか?
そうすれば、この謎の派手派手ドレスを着なくても済みそうだ。レオンの好みというのは意外だが、私には恥ずかしくて着れないっ!
一応、自分の採寸をして、派手派手ドレスを片っ端から着てみる。サイズが合わないものや、丈がおかしいものなど、たまにヘンテコなものがあることもわかった。
サイズが合わないだけなら、手直しすれば着れるけど、このディテールの派手さはどうにもならない
派手派手ドレスを分解して、使えそうな素材を回収する。………でも、さすがに、ドレスを勝手に切り刻むのは、バレたらヤバそうだ。
ニーナには、反対されたが、そこはワガママ令嬢スキルを使って押し通した。
私は、日中は部屋に誰も入ってこないように。と指示した。
お茶の時間も、散歩の時間も、そんなの無視無視!
幸い、使用人は、来るなと言えば、全く中の様子を探ることなく、部屋の中のことはニーナが大概世話を焼いてくれた。
「コンコン」
ドアをノックする音が聞こえる
「何かしら?」
「少々お散歩されてはいかがでしょうか?」
使用人の1人が、ドアの向こうから声をかける。
数日過ごして気づいたことがある。
ニーナ以外の使用人は、名乗らずに要件を告げる
この家のルールなのか、使用人が声をかける時は『〇〇様。〇〇でございます』と、扉の前で呼びかけるのが基本だ。
だけど、私の元へは、その声掛けが無い。
名前を呼びたくないのか?礼を尽くすには値しないということか?
まぁ、理由はなんだっていい。
「こんな日差しの中で外に出る気は無いわ。」
そう述べると、使用人はその返事を聞いて、かしこまりました。と。去っていく。
さぁて、続き続きっ!
私の部屋は、部屋というより、小さなおうちみたいだ。寝室と、ダイニング、ドレスルーム。小さなお風呂場と、お茶とお菓子を用意するくらいのキッチンもあるし、別にこの空間から出なくても不自由はしない。
各所にそれぞれの入口もあるし、中で一続きに移動もできる。
私は、お裁縫ライフを満喫した。




