5.意識が戻ると
うっすらと意識が戻ってくる。
胸の奥が少し苦しくて、息が上手くできない。
ここは……。
ぼやけた視界の上に見えるのは、天蓋のカーテン。金糸の装飾がゆらりと揺れている。
ボソボソ誰かが話している声が聞こえる。
耳に届くのは、ボソボソとした人の声。
息苦しくてうまく声が出ない。
体を少し起こそうとしたが、力が入らない。
(……あれ? なんか、気持ち悪い……)
視界の端で、ニーナが薬草のような香りを放つ器を用意している。
もうひとり――誰かがいたような……。
「ルミ様っ!お気をつけ下さいと何度も申し上げましたのに……」
ニーナは心配そうな顔で小さな器を差し出して体を起こしてくれる。
なんか薬草みたいな匂いがする……。
(これ……。飲むの?)
先程の食事と言い、この国のものに慣れることはあるんだろうか……。
「全部お飲みください。」
(うわ、また変な匂いのやつ……)
先ほどの食事の悪夢が蘇る。
でも、こっちはきちんとした薬草の匂いがする。
本来の悪役令嬢であれば、どう言葉にするのだろうか。
『こんな不味いもの食べられないわ!私の口に合うものをご用意なさい?』『ご自身で味見なさったら?』とか?
ダメだ。悪役令嬢ってのがなんだか分からなくなってきた。
気が向かないものには何かとケチをつけて、高飛車にワガママし放題で良いな~とか思ってたけど、今の現状、何が良いかさっぱり分からなくなってきた。
「はぁ……美味しいものが食べたい……。」
ワガママは言いません。せめて、せめて味が整ったものをお願いしします……。
すると、ニーナが奥からパンとスープを持ってきた。
「私が用意したものですので、ご安心ください。」
そう言って、ニーナは私にスープの器を差し出した。
暖かい陶器の器に、小さなスプーンが添えられている。
かぼちゃの優しい甘みと、ほどよい塩気。
まさに、求めていた“普通の味”だった。
美味しいっ!!
これよこれ!!
なんであんなにまずい食事が出て来たのか。
この国の食事が全部あんな感じだったらどうしようか、と絶望したけど、希望はあったようだ。
柔らかな眠気が再び押し寄せてきて、まぶたが重くなる。
「……前途、多難だなぁ……」
そんなぼやきを最後に、意識はゆっくりと沈んでいった。




