31.エピローグ
私は部屋のバルコニーに出てこれまでの出来事を思い返していた。
憧れの悪役令嬢――自由気ままで、ワガママに振る舞い、周囲を翻弄する存在。
転生する前は、そんな姿を羨ましいと思っていたけど……。
現実は違った。
一見華やかな悪役令嬢は、叶わない恋心を抱きながらも、常に周囲の嫉妬や陰口に晒され、冷たい視線に耐えながら、心をすり減らして生きていた。
――なんだ。私と変わらないじゃん。
フッと力が抜けて、空を見上げる
周囲の目を気にして過ごしていた日々…。お小言を飲み込み、メンタルをすり減らして生きていた。
自由気ままに振る舞いたいと憧れていたけれど
悪役令嬢になりきることも、わがままに生きることも、結局私には向いてないみたいだ。
でも ――それでいい。
悪役令嬢に転生したからと言って、悪役令嬢になれる訳では無い。
私は私でしかなかった。
そういえば、ラルフは頻繁に遊びに来るようになった。
レオンも毎日顔を見せてくれる。
本当の悪役令嬢なら、何て言うのだろう?
「皆、私を愛でなさい~!」
って感じなのだろうか?
両手を空に広げて、ちょっと大声でそれっぽく言ってみる。
何このセリフ。なんか違うな……。やっぱり無理だな。うん。
っと思っていると
後ろの窓がカタンと開く音がする。
「えっ?!」
後ろを振り向くまもなく、腰に腕が回される。
「お望みならば」
っと、耳元に触れる甘い声と、背中越しに伝わる体温。
「れっ……レオンっ……!」
聞かれていた恥ずかしさと、後ろからピッタリ抱きしめられてるこの状況がドキドキしすぎて声にならない。
すると、その後ろからもう1人
「ハイハイ。ご馳走様。」
ラルフがレオンの隣に歩いてきてニヤニヤしている。
「見ての通り、2人で庭を眺めている。お前の入る隙は無い」
レオンがラルフに遠回しに帰れと言う。
「あれ?買い物に付き合えと言ったのはレオンの方だと思ったけど?プレゼントが何とか……」
「っ!!ばかっ!言うな!!」
レオンがラルフの口元を押さえて止めようと掴みかかるが、ラルフはサラリと交わす。
「好みが分からない~とか何とかって~?」
「クソっ!ラルフっ!!」
レオンはラルフを引っ張って部屋に戻そうと扉の中に押し込む。
二人のじゃれ合いはいつも通りだ。
いいな~こんな関係って。
私は過去の自分を振り返った。
こんなに言い合える関係性なんて、無かったな…。
お小言に対抗する皮肉を言える人間になりたかったけど、ほんとに欲しかったのは、こんな風に言い合える関係性だったのかもしれない。
「ルミ。ラルフと街に行ってくる」
レオンが部屋から声をかける。
「わ、わたしも行くっ!」
「や。しかしっ……」
レオンが動揺すると
ラルフが「ルミは街中を歩くのは危ないから、僕が手を引いてあげないとね?」
っと手を出してくる。
「その相手はお前じゃないっ!」レオンがラルフの手を引っ込めさせながら、私に手を差し出した
「行くぞ」
風になびく髪をおさえながら、私はレオンの手を取った。
遠くの街並みが、金色にきらめいて見える。
私は、今、幸せだ。
END




