29.ソニア
レオンはちょっと強引に庭に引っ張っていく。
道があまり整備されていない、『自然を堪能できるというコンセプト』という名目の野花や草木が生い茂げったお庭だ。
なんでこんなに整備されていないかって、まぁ、だいたい逢い引きがバレないように、隠す物が多い方が便利というのが通例だ。
「あ……あのっ……。」
スカートの裾に花が擦れるのもお構い無しで、引っ張られるスピードについていくのがやっとだ。
木陰のベンチまで来ると、レオンが手を緩めるが、離してはくれない。
私は裾が野花の汁で汚れてるのに気づく
歩いてきた道を見て、鮮やかなオレンジ色の花を目に止める
「あっ。どうしよう。落ちないかも……」
そのオレンジの花は、ソニアと言って、染料にも使われる花だった。絹の布地であれば少量でも鮮やかなオレンジに染まる
薄紫のドレスの裾にオレンジ色の汚れがところどころに着いている
どうしよう……。ラルフがせっかく用意してくれたドレスなのに……。
私が気にしていると
「そんなに気にすること……。」
っと、レオンが呟く。
「でもっ!…ソニアの花は染料に使われるお花だからっ。絶対落ちなくなっちゃう……。」
赤いドレスならまだしも、薄紫という絶対的に誤魔化しが効かない色合い……
終わった……。
上質な生地、丁寧な仕立て…全てが台無しだ…。
私が絶望の縁に身を委ねていると、
レオンは
「花の染料について……詳しいのか?」
と、少し驚いた顔でこちらを見ている
花から取れる染料は、いろいろなものを染められまして……ってのを、私がドレスをリメイクしてる時に染色の書物で知りましたとか……
言えない…
私が言いずらそうに口ごもっていると
レオンは穏やかに「そうか……」っとつぶやき、
なにか記憶をさぐるように視線を外した。
少しすると、レオンがポケットからハンカチを取り出してベンチにサッと広げ、座るように促される。
大人しくベンチに座ると、レオンがじっと見つめてくる。
「君はどれがホントの君なんだ?ルーミエール」
「ええっと……」
どこからどこまでのことを言っているのか
転生してきて、私は本物ではありませんってのを暴露した方が良いのか…。
そんな話信じて貰えないだろうし、でも……。
「いや。すまない。君にそんな顔をさせたいんじゃなない。」
「俺のことを少し話しても良いだろうか?
君には片一方的に条件を突きつけて、俺のことを何も話していなかったからな。」
きっと運命の姫君の話だ…。
聞きたくない……。
でも、レオンの纏う空気がどこか寂しげで、穏やかで……
その話を遮ることが出来なかった。
レオンは穏やかに話し始めた。




