27.ラルフとの生活
ラルフの屋敷での暮らしはとても快適だった。
まず、使用人は呼ばなければ顔を見せない。
普段は屋敷の手入れがメインのお仕事らしい。
ラルフいわく、
『プライベートくらい自由に過ごしたい。』
との事だ。
プライベート以外は常に誰かの監視下って感じなのだろうか……。謎が多い。
でも、人に干渉される生活がストレスなのは、なんかわかる気がする。
おかげで、私も変に気を使わないで過ごしている。
街に行った時にラルフが見立てたドレスは、次の日には屋敷に届けられて、クローゼットに収納されていた。
ラルフってこんな感じのが好みなんだ。
なんだか胸の奥がくすぐったい。
1着じゃなくて何着も届くのは想定外だったけど、どれもパステルカラーの柔らかい色味のもので嬉しい。
食事には、何故かラルフが迎えに来た。
小さな丸テーブルで、ブランチを食べ、日中は共に散歩をしたり、お出かけに着いて行ったり。
ラルフが居ない時はお部屋で、まったりゴロゴロ過ごしている。
そして、風通しの良いテラスで優雅なティータイムを過ごす。
ディナーはワインで乾杯。
みたいな大人な世界だったけど、
『君はワインはやめておいた方がいいね』
という言葉と共に、私のグラスにはぶどうジュースが注がれた。
普通はこういうものなんだろうか
レオンとは、ほとんど顎を合わせることは無かった。
食事も、日中も。
なんなら使用人達の方が毎日顔を合わせている。
今頃どうしてるんだろう……。
運命の姫君に出会って幸せに暮らしました。とか、大団円ルートに突入してたりするのかな。
私は勝手に想像して、勝手に落ち込んだ。
はぁ………。
1度惹かれた気持ちは、すぐにどうこうできるものじゃなかった。
未練がましい自分がもどかしい。
そんなある日。
ソファーでくつろぎながら、ラルフとティータイムを過ごしていると、
「明日、マスカレードパーティがあるんだけど、一緒に行こっか。」
と、ラルフが提案してきた。
「…………。」
パーティ……か。
あまり良い思い出では無いあの日を思い出し、なんとも言えない気持ちになった。
きっとレオンも来る……。
会いたいという気持ちと、会いたくないという矛盾した気持ちが、私の中でモヤモヤと渦を巻いた
「浮かない顔だね?」
「気になる?………レオンが来るのか」
「えっ。いや………。……。」
このモヤモヤした気持ちを言葉にできない。
すると、隣に座っていたラルフは、膝の上でギュッと握った私の手を覆うように握って
「会いたい?それとも、会いたくない?」
と、私をジッと見つめて問いかける
私は目を逸らして、何も答えられなかった。
「レオンは必ず来るよ。」
「え?必ず?」
思わず顔を上げて、なんで?って顔でラルフを見つめる。
ラルフは、
「『マスカレード』だからだよ」
と言って、レオンのことについて少し教えてくれた。
「レオンは両親が厳しくてね。身分を重視する少し古い家の考え方がご両親には強く残っている。そのためか、幼い頃からレオンを取り巻く環境は不自由そのものだった。」
そういえば、レオンの両親会ったことないな……。
「子供ながらにして大人の世界で生きることを教養されてきたからね。だいぶ窮屈な幼少期を過ごしていたんだと思うよ。気を許せる友達を気軽に作れる環境ではなかった」
子供でも貴族は貴族って感じなんだ……。
それはそれで大変そう……。
「スカレードはね。普通のパーティと少し違って、爵位のある貴族だけではなく、商人も参加できるんだ。舶来品取り扱う者や、街の商人ももちろん参加できる。皆、身分を偽る仮面をつけて、自由に交流を楽しむことができる。それがマスカレードだよ。」
「愛しの君とはその時に出会ったらしい。」
愛しの君……。きっと、運命の姫君だ。そんなに会いたいんだ。
幼少期に出会った女性を想い続けるなんてよっぽどだ。
「レオンは何を考えているか分からないと思わないかい?」
私は整理したと思っていた気持ちの引き出しを再び開けてちょっとセンチメンタルになっていた。
その様子を察してか、ラルフは私の肩を抱き寄せると、私をあやすように髪をサラサラと撫でながら話を続ける。
「社交界には本音と建前は必要なことだからね。
彼はその教育が強い。その時出会った商人の娘。それがレオンに新しい自由な世界を教えてくれたらしいよ。」
「それ以来会うことは無かったけれど、レオンの恋心はその子に向いたままなんだろうね。」
「…………。」
胸が痛い。なんでこんなに苦しいのか分からないくらい、自分の心も整理がつかない。
「まだレオンのことが好き?」
ラルフは唐突に質問をなげかける。
私も自分の気持ちが分からない。
でも、レオンのことを思い出すと、悲しくなる。
私じゃないんだって自分に無意識に言い聞かせている自分がいる。
1度好きだと思った気持ちは、そう簡単に切り離せない……。
「………やっぱり……」
静かに言葉を発しながら、ラルフが私の頬に手を添え、視線を合わせると
「僕じゃダメ?」
っと、首をかしげながら問いかける
私は、答えられずにギュッと口を結んでラルフを見つめる
忘れられるかなって思ってた。
レオンと過ごしてたって言っても、常に会っていた訳じゃない。
何考えているか分からないし、言葉少ないし……
でも……。
そんな数少ない時間だけど、そんな中でも育ってしまった恋心は、小さなきっかけを火種に、どんどん膨れ上がって、理由なんて分からないけど、気持ちはコントロール出来ないくらいには大きくなってしまった。
私はグチャグチャになった気持ちをどうにもできなくて、ラルフの胸に顔を埋めた。
ラルフは、ポンポンと私の頭に触れると、
「会って、その気持ちをきちんと確かめたらいい。」
と言って、優しく髪を撫でてくれた。




