23.ラルフ
ラルフは、ルーミエールをレオンの屋敷に送り届けて帰宅すると、昨晩の出会いを思い返して胸が熱くなった。
レオンとは学業を共にした昔からの友人だ。
『幼い頃、パーティで出会った少女を今でも忘れられない。』
と言って、その少女を今に至るまで想い続けているという一途さ?執着?夢見る乙女?なところも、レオンらしいな。と思っていた。
だが、そんなレオンから婚約のことを聞いて驚いた。
「運命的な出会いをした彼女はもういいのか?」
と尋ねると、
『その人を探すために婚約した。』
と彼は語った。
実際、爵位もあれば容姿も良い。ましてや、あの性格……。
口数は少ないし、普段は何を考えているか分からないようなところもあるが、案外世話焼きで気が利く。
本人は無自覚なのだろうが、たまに見せる笑顔に貴族の姫君たちが群がるのはうなずけることだった。
そんなレオンが婚約したと聞いて驚いた。
だが、
本人曰く『両親の目が面倒だから、条件が合う女性との形だけの婚約で、結婚する気は無い。』と。
何度かルーミエールを社交界で見かけたこともある。
昨晩はまるで別人で気づかなかったな……。
道端で女性がうずくまっているのを見て、声をかけた。
顔を上げた彼女は、涙をポロリと流しながら悲しそうな顔をしていた。
その消え入るような表情で涙をうかべる女性に手を差し伸べた。
きっと、その時すでに彼女に惹かれていたんだと思う。
衝動的に抱き上げると、戸惑ってはいるようだが、そのまま馬車に乗せた。
流石にあのまま道端に放置しては帰れない。
とりあえず、何であんなところに居たのかが気になる。
ワインをグラスにつぐと、彼女はグイッと勢い良く飲み干した。
そして、自分でアレコレと語り始めた。
「私が知らなかっただけだけどおっ!だったら優しくしないでよっ!!」
「勘違いするじゃん!!…………」
「こっちは、浮かれてるのバカみたい………」
「あのドキドキ何だったの」
「…………」
失恋……かな?
そして、その失恋を忘れるかのように、彼女は2杯目のグラスに手をかける。
「レオンのバカァっ!!!」
「自分でっ……きめたこと……らけどぉ……」
ん?レオン?
「君、レオンっていうのは恋人かな?」
脳裏には、自分の知ってるレオンが頭に浮かんで、ふと尋ねた。
「婚約しゃれーす。」
「でもぉ、偽物なんれす。」
「にせもの?」
「運命の姫君を探してる」
「だから、わたしじゃない」
「じゃあ、すきになんてなりたくなかったぁ……」
「君は……ルーミエール?」
「何で知ってる?んれすか??」
どうやら、レオンは自分の知ってるレオンだったようだ。
だが、今目の前にいるルーミエールは、彼の婚約者として知っている人物像とは、だいぶ印象が違った。
社交界の影の噂では、ルーミエールは過去に幾人もの男と関係を持っては別れるといったことをしてるらしい。
一夜のなんとヤラを求める人は数多い。
それでもその美しさと、上目遣いでイチコロだと言われる噂もあった。
彼女が2杯目のグラスを空にする頃には、泣き始めてしまった。
「………。なんでっ……。じゃぁっ…何で」
「………レオンのっ……ばかぁっ!!……っ!!」
さすがにこれ以上飲ませる訳にはいかないな……。
腕を振りかぶり、グラスを床に投げつける勢いだった手を掴む
「危ないよ?」
と、止めると、やり場のない気持ちを我慢して震えているようだった。
ルーミエールからグラスを奪い取り、そのまま抱き寄せる
「今は、好きなだけ泣いたらいいんじゃないかな?」
髪をサラッと撫でると、胸元にしがみついてきて、僕の腕の中で言葉にならない気持ちを溢れさせていた。
しばらくすると、胸元にグッと体重が預けられた。
ん?寝た?
彼女を抱き上げて客間に運ぶ。
目が覚めたら送っていこう。
にしても………レオン……罪なヤツだな………。
その気は無いと言えど、婚約者だろ。
客間のベットに降ろそうとすると、
彼女はシャツをギュッと掴んで離してくれない
彼女の目元からこぼれる涙をすくう
夢くらいは良いものを見て欲しいものだ。
レオンはこの子の一体何を見ていたのか。
そして、家出なのか分からないが、こんな状態になって夜道に放っておくなんて……。
目の前にいるルーミエールからは、今まで見聞きしていた悪役令嬢っぷりは感じられない。
僕の目に映るのは、1人の男に恋をして、その実らぬ恋心の行先がなくて涙を流す、美しくて儚い女性の姿だった。
翌朝、ルーミエールを送り届けた。
「--レオンに……会いに行くかな。」
部屋の窓から、空を眺めながら、ラルフはポソりと呟いた。




