19.帰り道が分からない
少し気持ちが落ち着いたので、夜風に身を任せてフラフラと歩き始めた。
見たこともない風景。
もちろん来た道も分からない。
どうしよう……迷子だ。明らかに……。
自覚はある。方向音痴は闇雲に歩き回ってはいけないものだ。
私は諦めて道脇にしゃがみ込んだ。
いっそこのまま戻れなくてもいい。
--レオンは名ばかりの婚約者と決別し、探していた女性と出会って幸せに暮らしました。
みたいなハッピーエンドでいい……よね……。
「お嬢さん?どちらからいらしたのですか?」
声のする方向に顔を上げると、黒髪を耳にかけながら、漆黒の瞳を持つ紳士が私の顔を覗き込んできた
??だれっ……?!!
そして、私の顔を見るなり、
「失礼…」
といって、頬に手を添え、指先で目元をなぞった
「こんな顔して、こんなところで女の子1人でいるなんて。……何か、あったのかな?」
「いえっ……何も……」
夜中に、ひとりで、道端にしゃがみこんでいる女が何もないわけがない。
私はうつむいて、足を抱え込むように小さくなった。
その姿を見た黒髪の紳士は、私をそっと抱き上げた。
驚く間もなく、彼の乗ってきた馬車に運ばれる。
どうしようとオロオロしてるうちに、そのまま馬車は走り出す。
私。拉致される……
………かも?
………でもいいか。
投げやりになってる自覚はある。
どうするのが正解か分からない。
でも今は、何も考えたくない。
自分で離れることを決めたのに、気持ちは切り離せずに、ぐちゃぐちゃだ。
馬車は静かに止まり、大きな屋敷の門が開いた。
「今日はもう遅い。女の子一人で夜道を歩くのは危ないから。今晩は泊まっていくといい。」
彼は穏やかにそう言って、私を屋敷へと導いた。
私は案内されるままにお屋敷に足を踏み入れる。
「なにか飲む?」
紳士は部屋の奥から1本のボトルと、2つのグラスを手にして歩いてくる。
私は、その手の動きをぼんやりと目で追う。
ソファーに並んで座り、グラスの片方を渡される。
グラスと紳士を交互に見つめると、紳士はにこやかにワインボトルを傾け、私のグラスにワインを注いだ。
「何があったかは知らないけど……。」
紳士は私を気遣いながら言葉を選んでくれる。
もぅ、ここまで来たら、どうにでもなれ!
やけ酒だ!!
色んなことを考えるのを放棄した私は、与えられたワインをコクコクと飲み干した。
どうせワイン1杯で酔える身なのだから!
「大丈夫?!」
紳士は目を丸くしてこちらを見ている
「だいじょーぶですっ!」
私は空になったグラスを紳士に向けて差し出すと、控えめにワインがつがれる。
んにしても、この国のワインはほんと~に美味しい。
フワフワした意識の中で、私は何もかも忘れるように、美味しいワインを堪能した。




