16.夜会にて
社交界で交流を持つ。
これもまた日常の一幕。
今日は夜会に出席予定。
あの派手派手ドレス達を着ていかねばならない……。
もう少し時間があれば刺繍が全部終わったのに……。
せっかく作っていたドレスは、まだ完成しないので、実際に着られるのはもう少し先になりそうだ。
仕方なく、クローゼットに並ぶドレスの中から、ギリギリ着られそうなものを選んだ。
それでも胸元を強調するスタイルの、デザインの派手さは否めない。
髪を下ろして、なるべく肌が隠れるようにして、胸元には大ぶりの飾りが着いたペンダントをつける
姿見の前でニーナに手伝ってもらいながらコーディネートを整えてむかう。
馬車の前でレオンが待っていた。
「………。」
レオンが何かを言いかけてこちらを向く
「………。いや。なんでもない……。」
え。めちゃめちゃ気になるんですけど……。
「……そ、そう……。」
気になる気持ちを抑えて、素っ気なく返事をする
レオンと共に会場に着くと、しばらくしてレオンの周りに人だかりができた。
我よ我よと女性が押し寄せてくる。
私、一応婚約者じゃないの?!
圧に負けた私は、レオンと離れた場所で静かに時間が過ぎるのを待とうとした。
が、噂話や何やらが耳に入ってくるのが社交界というものだ。
「レオン様は、まだ探しておいでなのかしら?」
「運命の姫君ですわね?」
?ん?
運命の姫君?
「でも婚約者がいらっしゃるんでしょ?」
「表面的な婚約なんて良くあることよ。世間体が保てればそれでいいんですもの。本命と結ばれれば、後は捨てられるだけ。」
「お相手の婚約者も、男遊びが過ぎるという話ですのよ?」
「レオン様の愛がいただけないからって、お恥ずかしい話だわ」
そう………なのか…?
レオンは運命の姫を探してる?
じゃぁ、なぜ私は婚約者なのか……。
気になってあちこちで咲く噂話に耳をそばだててしまう。
「まぁ、どうせ運命の姫君が見つかるまでの繋ぎなんだから、早く自分からレオン様の元を去って行けばいいのに。」
「今日も派手ねぇ。きっとそのうち男性をはべらして帰るわよ」
「レオン様も早く婚約解消して、もっと自由にお付き合いなさったらいいのに~。」
………。
そういう関係……だったんだ。
あっちからも、こっちからも、アレコレ聞かない方が良かった噂話を聞いてしまった気がする。
離れた場所にいるレオンを見ると、女性に囲まれて、普段目にしないような表情をしている。
楽しそう……。
同じ屋敷に住めども、滅多に会うこともなければ、そんなに言葉を交わすこともない。
そんな私に比べたら、レオンの周りの女性たちの方が親しそうだった。
婚約者ってなんだろう……。
運命の姫君を見つけたら、私は捨てられるのか。
使用人が嫌がらせするのも、早く私に出て行けと言うことだったのかな……。
パズルのピースがハマっていくように、色んなものが芋ずる式に繋がっていく。
私がしょんぼりしていると、
「あれ?1人?」
1人の男性が声をかけてきた
「………。」
今は1人だけど……。モヤモヤした気持ちで言葉にならない
「どうぞ?」
そう言って、男はワイングラスを差し出した。
ぶどうの甘い香りと、アルコールが混ざった良い匂いがする。
センチメンタルな気持ちを忘れるように、そのワインに口をつける。
美味しぃ~!
口当たりもよく、香りも芳醇で、なんと美味しいワインなのかっ!!
「なにか嫌なことが?」
男性は優しく問いかけた
「……。ないです」
私はアルコールに頼って、今の状況を整理することを放棄した。
「そう?浮かない顔をしているけど……。僕で良かったら少し話を……」
男性が優しく話しかけてくれているのを横目に、私はワインを飲み干した。
すると、なんか平衡感覚がおかしい
クラクラする。
頭はボーッとするし、あんまり思考回路は回らない。
これは、俗に言う、『酔ってる』という現象か?
私の異変に気づいたのか
「大丈夫?」
と言って私の腰に手を回し、体を支えてくれた。
「らぃじょーぶ、でふ」
自分の事ながら、全然大丈夫では無さそうだ……。
「別室で少し休もうか?」
そう言って、大広間から出て、小部屋の扉が並ぶ廊下にエスコートされる。
男性に支えられながら歩いていると、目の前からレオンが女性と歩いてくるのがボヤっと目に入った。
ピンクのふんわりしたドレスを優雅に着こなした黒髪の女性は、私の姿を見て、レオンの腕にグッと抱きついて挨拶を送る。
「ごきげんよう。」
目に入る情景が遠くの光みたいに霞んで見える。
――あぁ、綺麗な女の人……。
そう思った瞬間、ぐらりと世界が傾いた。
視界が波のように揺れて、音も遠くなっていく。
レオンの声が聞こえた気がした。
けれど、もう何も分からない。
私は、黒髪の女性に挨拶を返すことなく、そのまま崩れ落ちた。




