13. 書庫での
この屋敷には、代々引き継がれている書庫がある。
書物好きの先代様が、趣味であちこちの珍しい書物、文献などを集めていたらしい。
毎日暇だし、もしかしたら、この世界のドレスや服装の歴史書とかの類がまぎれこでいるかもしれない。
と、言うことで、私は書庫にこっそり探検に出ることにした。
書庫は、屋敷内から続く別棟に大きな部屋として作られている。
天井が高く、窓はあまり無い。
極力陽の光が入らないように作られていた。
ガチャ。
扉を開くと、古い紙独特の甘い香りが広がる。
おおっ。これだ。本の匂いがする。
高さのある本棚が、目の前にずらりと並んでいる。
その本棚をチラチラ見ながら奥に進むと、人の気配を感じた。
まさかっ!
使用人の密会で、男女のあれやこれやがっ!?
とかいう昼ドラの見すぎ脳で、何故か咄嗟に隠れてしまったが、そんな話し声やら物音は聞こえてこない。
本棚の隙間から覗き見すると、椅子に誰かが座っている足元が見える。
膝の上にハードカバーの本を乗せ、白い指先がページをめくる。
その手元を目で追うと、サラサラの銀髪を耳にかけて、碧い瞳の持ち主はメガネのレンズ越しにこちらを見つめた。
ドキッ……。
私は胸元に手を当てて、自分の胸の高鳴りをおさえる。
静かで穏やかな空気を身にまといながら、イケメンは読書する姿もかっこいい。
ってか……。メガネ、なんだ。
レオンの普段と違う姿にドキッとする。
「誰だ?」
思わず隠れてしまったけど、別に隠れる必要は無いはずだ。昼ドラのワンシーンじゃないんだから……。
私はできるだけ自然に本棚の間から姿を見せ
「ごきげんよう」
と声をかける。
すると。レオンは、少し間を置いて、
「あぁ。」
と言って、本に再び目線を戻した。
嬉しいような、悲しいような。
相手にされてないのはわかってるけど…。でも、なんか……。
あれ?相手をして欲しかったのかな、私…?
いやいや。
自分の中の乙女心と戦う。
別に出て行けとも言われないし、私も本を漁りたいし、もう少しいてもいいのかな。
本棚を眺めていると、気になる本を見つけた。取り出そうと本に手を伸ばす。
後、5cm……。
あとちょっと身長が高ければ……。
もしくは、腕がもう少し長ければ……。
背伸びをして、体を斜めにして、片手をどうにか伸ばしても、上の方にある本に、かろうじて指は触れるけど、取り出すことが出来ない。
すると、腰にスッと手が回され、指先に触れるか触れないかのところで本が取り出される。
ァっ……。
背中に人の温もりを感じる。
私は思いがけない近さと緊張のあまり硬直した。
私がバランスを崩さないように支えてくれる腕。そして……。
私はゆっくりと振り返るように顔を見上げると、
レオンは、本を片手にゆっくり体を離して私を見つめた。
「好きなのか?」
えっ!?
明らかに同様した私は、ドキドキして表情が作れない。
すす……好き……?!
焦ってモジモジしてる様子を見て、
レオンは本を持ち上げ、表紙が見えるようにこちらに見せる。
『ルーナスの物語~シリーズ3』と書いてある。
本……の、ことか。
「こ、これは、タイトルがっ、気になって~。」
私は、咄嗟に適当なことを言って今の自分の気持ちごと誤魔化した。
本当は、その隣の『世界の染料大図鑑』が見たかったのだが……。
すると、レオンはさっきの場所からもぅ2冊本を取りだした。
「読むなら、初めからの方が良い。1巻完結のミステリーだが、最終的に全て繋がっている。」
そう言って、私の目の前に、取り出した計3冊の本を積んだ。
「あ……ありがと……。」
「いや。」
そう言って、レオンは私を支えていた腕を離して、椅子に戻って足を組み、
サイドボードの上に無造作に置いたメガネをかける。
そして、膝の上で読みかけの本をパラリとめくると、静かに読書を再開した。
まだドキドキが収まらない。
顔も赤い気がする。
私は、動揺しながらも書庫の中の本をもぅ少し探した。
その間も、レオンがただページを静かにめくる音だけが耳に届く。
不思議。
こんな長い時間同じ空間に2人だけで居ることは初めてだ。
会話もせずに、静かに時間だけが過ぎていく。
私は気になってレオンをチラ見する。
レオンは視線に気づいたのか、ページをめくる手を止めて、メガネを少しずらすと、その隙間から、
「ん?」
と、私の方に目線を送る。
私は、レオンに見とれていたのに気づき、
ハッとして、本棚に目線を戻した。
レオンを意識している自分に気づいてしまった。
自覚が芽生えれば何を隠しても、ドキドキも待ったナシだ。
気恥しい気持ちと、レオンをもっと知りたいという気持ちと葛藤をしながらも、本来の目的である本の物色を続けた。
ある程度いくつかの本に目星をつけたので、そろそろ部屋に戻ろうと勢いよく立ち上がると、一瞬視界がチカチカして、サッと血の気が引いていく。
あ……。
棚に手を伸ばし、何とか意識を保とうと格闘するけど、力が入らない。
そのまま足から崩れ落ちそうになった所を、しっかりと腕で抱きとめられ、支えられる。
ボヤっとした視界の中に、碧い瞳が覗き込んできた
「大丈夫か?」
「………レ…ン…?。」
ずっと立って本を見上げ、かがんで下の本を探したりして、最終的に急に立ち上がったもんだから……まぁ、貧血か…な……。
目の前のチカチカと戦うのに精一杯で、力が入らない。
「無理するな」
その一言に、抱きとめられているレオンに体を預けた。
すると、レオンは、ゆっくりと私を抱き上げると、そのまま書庫の出口に向かって歩き出した
「あ……の…。休めばひとりで歩け……」
抵抗しようとしたけど、無言で却下された。
「重い……から。あの。おろし……て……。」
チカチカが収まってきて、レオンの腕の中に抱きしめられているこの状況が恥ずかしくなってきて、解放を提案した。
レオンは、眉をしかめて、自分で歩くのは無理だろ?という表情をしている。
そして
「覚えていないかもしれないが、運ぶのはこれで2度目だ。」
と、言い切った。
「えっ?2度目?」
私の記憶の中にそんな記憶は無い。
「階段で倒れた時にな。あの時は意識がなかったみたいだが……。」
あ…。レオンだったんだ……。
私は、うっすらと残る記憶の中で、玄関の扉に銀髪の青年を目にとめたのを思い出した。
私は、恥ずかしさと、トキメキと戦いながら、大人しくレオンに身を任せた。




