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時をこえて  作者: ユウ
9/19

第九話

戦歴1499年5月8日


戦の激化につき、数人の子供達が朝霞の国を離れた。

全員の子供を移動させる事はできず、残った数名の子供はまだこの朝霞にいた。

季節は5月に入り、朝霞は早い梅雨の時期を向かえていた。


「ねぇ、武直様」


隣にいた五月が悲しそうに語りかける。


「私は、子供のお世話をする仕事がしたかったんです・・・」

「子供の?」

「はい・・・こんな事言うと怒られちゃいますけどね」

「良いよ、続けて」


五月は周りに聞こえないように注意しながら言う。


「だってそう思いませんか、例えばですよ、新しい時代を切り開くのは武直様達のような武士のお方です、でもその新しい時代を引っ張っていくのは成長した子供達でしょう・・・だからですよ、私はその子供達に時代を創るために時代を駆け抜けた人達がいた事を教えてあげたいんです」


語り部か、確かにそんな人も必要なのかもしれない。

語ってもらう為に今を生きているわけではないが、新しい時代の為にそれが手本となるのなら良い事なのかもしれない。

来るべき子孫、我が子達へ贈る追復曲の言葉。


「五月・・・」

「はい?」

「生きろ!」

「どうしたんですか、急に・・・」

「生きてくれ」


思った言葉がそのまま口に出てしまった。

なんの考えも無しに言ったその言葉に五月は困惑していた。

「武直様も」と笑みを浮かべて返してくれた。

悲しそうな笑みを浮かべて・・・。



その日は五月と別れた・・・。



剣の稽古も外ではできないので室内道場で稽古する。

道場に向かう最中に力丸に会う。


「力丸、こんなジメジメしたところで一人で汗をかいて鬱陶しいぞ!」

「あ、あぁ・・・大将か・・・」

「なんだよ、大将か、ってのは?」

「いや、なんでもねぇっす」


力丸は一人で道場の方へと行ってしまう。

力丸が見ていた方向・・・、あぁなるほどね。

でかい図体して力丸もなんだかんだと人の子よ・・・。

なんてかっこつけてみる。


「ま、良いんじゃないですか?」


独り言を言って道場に向かう。

その日はジメジメの天気の中で兵達全員で汗まみれの訓練をした。

戦歴1500年5月8日



あれから丸々一年が経過した。

戦の影響で五月も仕事が増えた。

世話係といってもその役目は朝霞姫の世話、食事係といった感じだったのだが、今は戦により負傷した兵の看病もこなしている。

まさに寝ずに仕事をこなす。


「ねぇ、大将」

「どうした?」


そんな五月を見ながら力丸と話をしている。


「俺達ってなんの為に戦っているんでしょうね?」

「力丸・・・?そりゃ朝霞の理想の為に・・・」

「いや、違うんですよ」


俺の言葉をめずらしく力ずくで遮る。


「力丸・・・?」

「俺達ってなんの為に戦っているんですか、同じ人間同士で俺達は何やってんですか、お互いの国の理想の為ってそんな理想の為に命を散らして、攻められれば戦いにはなんの干渉もしていない命が失われていく、そんな事をしていて本当に真の意味で天下統一なんてできるんでしょうかね?」


「わからない・・・確かになんの罪もない者が死んでいくのは忍びない・・・それはわかっている、俺は・・・わからないその答えを見つける為に今を生きている、それこそ全力でな、人間ってとてつもなく馬鹿なんだよな、そんなあるはずのない答えを探して争ってるんだからさ、でもこの先がどうなるか、先の答えがなんなのかわからないから俺は駆ける・・・勿論、こんな偉そうな事を言っておきながら俺の答えなんてちっぽけなもんだけどな」


力丸の問いかけの答えにはなっていないかもしれないが力丸は納得してくれた。


「つまりさ、例え話だけど聞いてほしいんだ力丸」

「どうぞ」

「例えばさ、理想とか天下とか言っているけど俺達って何に全力になっているんだと思う?例えばそれは好きな女の為とか、そんな事でも良いんじゃないか」

「好きな女の為・・・」

「いや、しみじみ言うなよ例え話なんだから、恥ずかしくなってくる」


事実、自分でも言っていて何を言ってんのかわからなくなってくる。

答えの無い答えを探して人は生きていく、戦っていく。

その理由は人それぞれだ。


「大将、行ってきます」

「あぁ、いってこい・・・って、どこに行くんだ?」


そう言った頃には力丸の姿はなかった。

だが察しはついた。


「最終決戦まで間もなくだからな・・・悔いを残すなよ・・・がんばれよ」


誰もいない場所で一人そんな事を言っていた。



戦歴1500年9月1日最終決戦へ。

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