第三話
朝、一日の始まりの瞬間である。
それまで隠れていた自然界の王「太陽」が静かに静かに顔を出す。
小鳥が鳴き、優しい光が大地に降り注ぐのである。
こんな平和な一瞬をなぜ私達は楽しめないのだろう。
戦歴1497年6月12日
「ふぁぁっあ・・・!」
どんなに鬼のような男でさえもこの瞬間は間抜けそのものであろう。
大あくびをする自分を見てそう思ってしまう。
良いのだ、朝はのんびりとするものだ。
「武直様、おはようございやす!」
「あぁ、おはよう」
どうやら、のんびりとはさせてくれないらしい。
朝から力丸の顔はなかなかにインパクトがある。
おかげで顔も洗わずに一瞬で目が覚めた。
「外に馬は用意してあります、準備ができたら行きやしょう」
「力丸はいつでも元気が良いな」
「元気が良いのだけがあっしの取り柄っすから!」
ガハハと笑いながら答える。
元気は大切だ、力丸を見ていると嫌でもそう思ってしまう自分がいた。
別に嫌ではないがな・・・。
用意を済ませて力丸の元へと行く。
その最中に五月に会った。
「今日は見回りですか、武直様?」
「うむ、朝霞姫の理想の為に動くのが我らの仕事なのだ」
「弱き者を守る強き国へ、私もとても良い事だと思います」
「あぁ、俺もそう思うよ」
他愛のない話をしていたかったが、また力丸に急かされるのも嫌なもんで先を急ぐ。
「あの、お気をつけて・・・」
「あぁ、お天道様が沈む前に戻るつもりだ」
「わかりました、あ、これを持っていってください」
五月がオニギリとお守りを手渡してくれた。
「力丸様の分もあります」
「ありがとう、力丸もさぞ嬉しがる事だろうな」
「はい、いってらっしゃいませ、旅の無事を祈っています」
五月と別れ、力丸の元へと急いだ。
「大将、遅いですぜ」
「あぁ、すまんちょっとな」
少し待たせてしまったか。
だが力丸は全く怒っている素振りはなかった。
全く男らしいというかなんというか。
「力丸!」
五月にもらったオニギリとお守りを渡した。
「こいつは・・・?」
「世話係の五月からだ」
「ほっ、あのお嬢ちゃんからですかい、よくできた娘さんだ」
「よし行くぞ!」
「おう!」
朝霞の門を通り抜け、山王国のある西へと走り抜ける。
但し、今回は昨日まで戦が続いていた山王の残党兵がいないかの確認である。
勿論の事だが、敵の兵であっても怪我人は助けよ、というのが朝霞姫の言葉である。
しかし、毎度の事だが残党兵はいない。
敵も引き際を心得ているという事か・・・、怪我人一人も置いていかないとは敵の前線の大将はなかなかの心の持ち主である。
「武直様!」
「ん?」
「あそこを見てくだせぇ!」
力丸が指をさす方を見る。
かなり遠目だが数人の人が見える。
「何をやっているんだ!?」
「あれはやばいんじゃないっすかねぇ?」
「はっ!!」
数人の男が女子供を斬りつけていた。
「力丸走れ、賊だ!」
・・・。
そこには甲高い悲鳴が周りに響いていた。
辺り一帯に血の雨が降る、そこだけが地獄の情景になっていた。
「助けて、助けて!」と助けを求める人を遊びを楽しむように斬りつける賊。
その場にいた女子供のほとんどを斬り殺した。
「おのれらぁぁぁぁぁ!!」
凄まじい怒号の声と同時に賊に斬りかかる力丸。
「ひっ、あいつは・・・!」
「な、なんだ、どうした?」
「朝霞の武直軍の力丸だぁ、こ、殺される・・・」
「なぁにが、力丸だ、ぶっ殺してやる!」
賊の中の首謀者らしき男が剣を抜き出てくる。
「力丸、勝負勝負!!」
「うああああぁぁぁぁぁあ!」
力丸は馬から飛び、その勢いを使い賊を斬りつける。
力丸の斬撃を受け止め、もの凄い音が鳴り響く。
「もう一丁!」
力任せの剛剣。
賊の剣ごと真っ二つにぶった斬った。
血の雨が再びその一帯に降り注いだ。
賊の大将がやられている間に、下っ端は逃げ出していたようだ。
「力丸、さすがだな」
「武直様・・・」
十人はいるか・・・、無惨にも全員殺されていた。
「ちくしょう!!」
「力丸・・・」
その惨劇の場をしばらく見ていると斬り殺されていた人がもぞもぞと動いている。
「力丸!」
「承知!」
力丸はその死体をどけた。
「・・・・・・」
「武直様、生き残りですぜ!」
見ると死体に守られて年端もいかぬ少女が出てきた。
一人でも生き残りがいてくれて良かった。
「・・・・・・」
少女は恐怖にさらされた瞳で見てきた。
当然だろう、目の前でこのような惨劇が起きては・・・。
大人でもショックを受けるものを、まだ子供が見てしまい体験してしまったのだ。
「とりあえずこの娘は朝霞に連れ帰ろう」
「そうですね・・・、ほら立てるか?」
「・・・・・」
「駄目か、傷心しちまってますぜ」
馬から下りて、少女に歩みよる。
「名前がわかるかい?」
「・・・・・・」
脅えた瞳で首を小さく、本当に小さく横に振る。
「ふむ・・・、では私が君に名前をつけよう」
「って大将、今はそんな場合じゃないでしょう!」
「・・・・・・」
「そうだな・・・」
ふとその惨劇の場には似つかわしい花があった。
ここ朝霞の国に生えている幻花と呼ばれる花。
「鏡花」
「・・・・・・」
「今ここで君は死んだんだ、賊に斬り殺されてな」
「・・・・・・」
「今ここにいる君はそこに咲く幻花・鏡花だ、今の君の名を言ってみなさい」
「・・・・・・、きょ・・・う・・・・・か・・・?」
少女がその名を認識した瞬間なのか。
周りの景色が真っ白くなっていく。
意識が覚めていく。
終