第二話
朝霞の国、他の国と同じく天下統一を狙う国の一つである。
国に住む人の数はおよそ3000人ほどが住んでいる。
天下統一と掲げるにはほど遠いほどの数ある小さな弱小国の一つである。
現在は朝霞の大将が先の戦により戦線を離脱し、その娘である朝霞姫が束ねているという状況下にあった。
戦歴1497年6月11日
「天崎武直、その首もらったぁ!!」
侍の大きな気合いの声と同時に一人の男に向かって刀が振り下ろされる。
振り下ろされた刀は、相手の刀に弾かれて宙を舞う。
「この首、貴様にくれてやる程安くはないぞ!」
弾いた刀は侍の首を捉え、首をはねあげた。
その侍が筆頭剣客の一人だったのか、後ろにいた兵達は撤退していく。
そんな中、一人の男に歩みよる大柄な男がいた。
「武直様、やりましたな」
「あぁ、だがまだまだだ、これしきの事で天下統一とは言っておられん」
「何をおっしゃる、武直様の剣腕があれば今の戦相手も軽いものでしょうな」
「ふむ、だが相手国の参謀格・・・どうも卑劣な男と聞くが・・・」
現在の朝霞国は、隣国にまで勢力を伸ばしてきた山王国との戦の最中であった。
山王国の軍勢力は他の小国に比べても大差はなく、噂によれば山王国に最近加わった作戦参謀の働きが流れを変えているようだ。
その戦いは正に卑劣そのもので女子供でも平気でなぶり殺す戦い方をしてくるとゆう。
「力丸、我が軍の戦力は早々に引かせろ、国に戻るのだ」
力丸という大男がそれに答える。
「承知、撤退だぁー、鐘を鳴らせぇー!!」
撤退の合図の鐘が打ち鳴らされた。
カーンカーンと紅に染まる空に響いていた。
朝霞の国に帰りつくと力丸と共に、朝霞姫に報告へ行く。
力丸はお堅い雰囲気が嫌いらしく、毎度毎度この報告だけは憂鬱になるらしい。
かくいう自分自身も幼き日から猛々しい毎日を送っていただけに王族の持つ雰囲気はどうにも好きになれなかった。
好きになれなかったというよりは慣れなかったといった方が良いかもしれない。
「武直、力丸、入ります!」
「どうぞ」
朝霞姫の付き人に許可をいただき、王族の間へと入る。
中にはいると、とても美しい姫君がそこにいた。
流れるような綺麗な黒髪は男でも思わずみとれてしまう。
「ご苦労様です、よくぞやってくれました」
「ありがとうございます」
「して、戦果の方はどうですか?」
「上々でしょうな、敵の勢力も気合いで押していけます・・・が」
「何かあるのですか?」
武直は少し考えた後に続けた。
「敵の山王国の参謀・・・こやつは注意せねばならぬでしょうな」
「私も風の噂をきいています」
「そうですか・・・我々も理想実現の為に力を注いでまいります」
「ありがとう、今日はゆっくりと休んでください」
王族の間から力丸と共に出た。
「武直様、あっしもこのへんで」
「あぁ、よく休めよ、兵にも伝えておいてくれ」
「承知!」
力丸・・・頼りになる男だ。
なによりあの真っ直ぐな心が気に入っていた。
「武直様!」
女子の声が自分を呼んでいた。
振り向くと見知った顔がそこにあった。
「おぉ、五月よ久方ぶりであったな」
「はい、武直様・・・よくぞご無事で・・・」
今にも泣きそうな声で無事を喜んでくれた。
彼女の名前は高城五月、幼き日より武士になった自分の世話をしてくれている女の子だ。
何より見知った顔なので彼女の顔を見ると落ちつく自分がいた。
「五月も変わりはないか?」
「はい、私は相変わらずです」
「なんだ、また得意の阿呆でもやってしまったのか?」
エヘヘと、照れ笑いを浮かべる五月。
彼女の料理の腕はそこそこ良いのだが、致命的に段取りが悪かった。
それさえなければ非常に可愛らしい女子なのだが・・・。
「武直様、お先にお風呂のお支度をしましょうか?」
「あぁ頼む、うんっと熱い風呂にしてくれよ」
「はーい」と元気な返事をして嬉しそうに五月は走っていった。
さて明日は近場にいる山王軍の残党兵の様子を見に行ってみるか。
今のご時世の為に、賊により命をおとす者も多い。
朝霞姫の命によりそういった人々を助けていくのも我々朝霞の武士の仕事なのだ。
明日は早い、早めに体を休めよう・・・。
終