最終話
目が覚めた時は全てを思い出していた。
いやあの戦いの時からか、俺自身と天崎武直が一つになったのは。
体が勝手に動き出していた。
彼女が待つあの場所に・・・。
今まではあまり気にしてもいなかったのだ。
この町には・・・正確に言うと俺が通う学校の少し歩いた所には小さな山があった。
その山には一カ所だけ何百年、何千年経っても緑が生えない場所がある。
その山へ行き、その場所を目指した。
「悪い、待ったか?」
そこにいた少女に話しかける。
「待ちました」
「もうここからじゃ見えなくなっちゃったな・・・」
そこから見る景色には高いビルなどがそびえ立ち、全部を一望する事はできなかった。
「悲しいですね、前はここから全ての景色が見れたのに・・・」
「あぁ、そうだな」
ここからでは表情を伺い知る事はできなかった。
「やっと・・・思い出したよ、俺が誰なのか・・・」
「転生石は、うまくその効力を発動できたみたいですね」
「あぁ・・・」
「貴方は、あの割れた転生石の中でも最も小さい物を選んだ」
「そうだな、思えばその選択のせいで君をここまで待たせてしまったのかもしれない」
「そうでしょうね、五月・・・いえ皐月はもっと前に自分の存在に気がついてました、微妙な誤差はあったものの鏡花さんと貴方も同じような時期に自分の存在に気がついた」
3割の石を五月に、1割・・・正確にいうと1割半の石を鏡花に。
そして1割に満たない石を俺は持っていた。
そのせいか、転生はうまくできたのかもしれないが4人の中で最も現代に戻るのが遅くなったのだ。
彼女はそっとこちらに振り向いた。
「おかえりなさい・・・武直・・・」
「ただいま、八代・・・」
お互いに名を呼び合った。
「あとは、貴方からの言葉を聞きたい」
「俺の言葉?」
「うん、もう私は待ったから、待ち続けたから・・・もう待たされるのは嫌だから」
「・・・それはできないよ」
「なぜ?」
「俺の中でやっぱり貴方は姫で、今で言うとアイドルみたいな存在になってしまっていたから・・・だから貴方の気持ちは受け取れないから・・・」
「・・・・・・」
「だから、俺は貴方に言いたい」
「え?」
「武直ではなく現在に生きる川崎真治として、一緒にいてほしい、と」
「武直・・・いえ、真治・・・」
そういって八代は泣いていた。
その昔の光景はもう無いけど、それでも俺達はそこにいて、今だけだから、昔を振り返っていた。
「あの時はさ、俺は朝霞が無くなるなんて思ってなかったんだ、だって俺は朝霞を天下に押し上げる為に戦っていたんだから」
「うん」
「でも歴史の教科書とか見ても朝霞の国の事は一切書かれていない、それどころか山王国の事も書かれていないんだ」
「それが歴史なのね、激動の時代を駆け抜けた戦士達はその時代の中に肉体も精神もその存在さえも埋もれていってしまっている・・・だからね、私達は覚えていなければならないと思うの、どんな幸せな未来でも、どんな残酷な未来でも、私達はその未来を背負って生きていきたい」
俺達がそれを忘れない限り、そのこにあったものはあるのだ。
だから進んでいこう。
前を向いて、胸を張って。
「八代」
「・・・?」
「行こうか」
「はい」
理想は実現できなかったけど、でも歩いていこう。
この時代を、この今を。
時をこえて・・・新しい理想郷へ。
完