第十七話
痛みが走るその体で急いだ。
君が待ち続けているあの場所へ。
ただ君に会いたかった。
時代に引き裂かれた気持ちかもしれないけど、もう良いよね?
君は待つ。俺は行く。
戦歴1500年9月1日時刻16:10
二人しかいないその平原に刀同士がぶつかり合う金属音。
かすり斬った先から出た血しぶき。
それだけがその平原にあった。
「はぁ・・・はぁ・・・」
お互いに息があがっている。
俺自身も轟禅ももう戦い続ける体力は残っていない。
「お主は本当に良くやったぞ武直よ、この轟禅・・・生涯の宿敵は誰かと聞かれたらこう答えよう・・・天崎武直・・・とな」
「俺はこう答えよう、山王の轟禅とは怪物であったとな」
「ぬ、はっはっは!」
「やっぱり怪物だよ、お前は」
「むぅ?」
「俺は冗談は言えても、笑える体力は残ってないんだ」
「そうか・・・お主は良き男よな武直」
「それは俺も同じ感想をお前に持っているぞ」
轟禅はまた高笑いをした。
「時代が俺達を巡り合わせた、しかしその時代が俺達をこうして戦わせているのだ」
「そうだな・・・死合いとは言ったが、俺やお前ぐらいの武士になれば国が滅ぼされれば生かしてはおかないだろうな」
「うむ、時代なのだ・・・いつかはそんなものがなくなる時が来ると良いな」
「・・・はっはっは」
何故か笑ってしまう。
「なんだまだ笑える元気があるではないか」
「いやついな、・・・本当に・・・そんな時代が来ると良いな」
「うむ!」
「・・・だから俺達はやるしかないんだな、そんな時代を創る為に」
再び刀を構える。
勝負は一瞬だった。
「っ・・・・・・!」
「ぬあっ!」
お互いもう牽制する気はない。
お互いが急所狙いで攻撃する。
心臓ごと真っ二つにするべく刀を振り下ろす。
その剣撃の速さに轟禅も刀で弾くのを止め、自らの左腕で防御する。
一瞬で真っ二つになったが、轟禅の骨に当たり刀がそれた。
「ぬぐっ!?」
それた刀を返して、横薙ぎに斬りつける。
轟禅も左腕が斬られた事もお構いなしで斬りつける。
轟禅の胸元から血しぶきがあがった。
「ぬはぁ・・・!」
轟禅は後ずさる。
俺は再びとどめを刺すべく追撃する。
だがふらふらと離れていく轟禅よりも追い足は遅かった。
いや進んでなかった。
・・・大量の血と共に倒れる。
腹部に信じられない程の激痛が走った。
そうか・・・負けたのか?
「轟禅様!」
「ぬぅっ・・・!」
轟禅は隠れていたのか、山王の兵に助けられた。
「・・・どうしますか?」
「放っておけ、手を出したら許さん」
そう言って轟然と山王の兵はいなくなった。
意識が薄れていく。
・・・。
・・・・。
流れ出ている血はそのままだった。
意識はあるのか、いや自分が生きているのか死んでいるのかもわからない。
ただ赤く光るそこに向かって歩いていた。
数時間前にはそこに立っていた城がそこにはあった。
出陣する前とはうってかわったようなその外観。
城を燃やす炎はいまだに燃え続けていた。
城を守ってくれていたのかたくさんの兵がそこに息絶えていた。
城から少し離れたその場所を目指す。
もう頭の中ではどう行くのかも、どんな場所なのかも覚えていない。
何故そこに行くのかもわからない。
ただ微かに漂う火薬の匂いが鼻をついた。
燃えるような夕焼けがそこにあった。
後ろには燃える朝霞の城。
一面が真っ赤でまるでこの世界には赤という色しかないのかと思わせる。
「・・・・・・」
何もなかった。
文字通りなにもなかったのだ。
ふと思い出すのは大量の花に囲まれたその光景。
跡形もなく吹き飛ばされていたのだ。
「八代・・・」
思えばその名前で彼女を呼ばなくなってどれぐらい経つのだろう。
もう探し回る事ができないから視線だけを動かして彼女を捜す。
彼女は吹き飛ばされたのかそこから少し離れた場所に眠っていた。
刀の鞘を支えにしながらゆっくりと彼女に近づいた。
「八代・・・」
「・・・・・・」
「帰ってきたよ、八代・・・」
「・・・・・・」
少し、爆発の衝撃からか着ていた衣服がボロボロだった。
でもそれだけで顔を見ても綺麗で・・・、目立った外傷もなくて、俺みたいに血も出てないのに・・・。
彼女はもう動かなかった。
「少し・・・遅かったみたいだな」
「・・・・・・」
「大丈夫・・・俺も、もうそっちへ行くから・・・」
「・・・・・・」
「そしたらさ・・・そこ・・・で・・・」
声はもう出なかった。
視界はいつの間にか黒くて・・・もう見えなかった。
彼女に寄り添うように。
もう良いよね、この世界の向こうには身分も争いもなくて、だから俺はそこで待ち続けてくれた君に言おうと思う。
だから・・・また待たせてしまうかもしれないけど、もう少しだけ待っててくれ。
終