第十六話
「お前には見えるか・・・武直」
目の前の轟禅は問いかける。
「我が輩には見えている、朝霞が燃えているのだ」
「・・・・・・」
「平然としているな、諦めているのか?」
平然としているように見えるのだろうか。
ぞの実は早く戻りたい。
自分が生まれ育ち、そして大切な人が待つ場所を。
壊されていく様を見て平然としていられる奴はいるのだろうか。
俺は無理だ、俺は朝霞が好きだから。
「轟禅、お前は・・・お前が俺と同じ立場なら平然としていられるか?」
「・・・すまん、愚問だったらしいな」
「あぁ全くだ」
「これから死合う者同士がこういうのも難儀なものかもしれぬが、我が輩は誓おう」
「何をだ?」
「朝霞の心は、我が輩がきっと紡ごう」
「誠か?」
「逆に問おう、お主が我が輩と同じ立場だったらお主はどうする?」
「・・・同じく愚問だったな」
不思議だ。
こいつとは会ったばかりなのに十年来の親友のように感じられる。
恐らくは価値観がとても近いのだろう。
だから後の事を任せられる、今を全力で戦えると判断した。
刀を抜き、この男との全力の死合いに望む。
「いざ!」
「尋常に!」
『勝負!!』
かけ声と共にお互いの刀を構え走る。
交差する刀がぶつかり合う。
衝撃により火花が散る。
「轟禅!」
「武直!」
力は轟禅の方が上か?
いや力も速さも全て相手の方が上だ。
「良いぞ武直、もっとだもっと来い!」
「ぬぅぅ・・・!!」
「我が輩が死合ってきた中でも屈指の腕だ!」
轟禅の剣撃で刀が激しくブレる。
体が宙へ飛ばされかける。
戦う事が歓喜とさえ言わんばかりに攻める轟禅。
「だが残念だぞ武直よ」
「何がっ!」
力いっぱいに振り回すが轟禅の体どころか刀すらブレない。
「今の貴様にはもう戦う意味がない」
「そうさせたのは貴様らだろう!」
言葉に怒りを覚えた。
その怒り任せに刀を振るう。
再び怒る火花と共に轟禅の体が少しズレた。
「は、ははははは、はっはっは!」
「何がおかしい!?」
「む、そうであろう武直、もしも我が輩とお前が少しでも早く会っていればもっと楽しめたであろうに」
「何が言いたいんだ、お前は?」
「武士はなっ、いや男はなお荷物があると燃えるものよな」
「っ・・・・・・」
「だがなんだ今のお前は、怒りにまかせた攻撃で我が輩を倒せると思うか?」
「ぬぅ・・・」
「もう守る国が無くなった貴様に言っても酷な話だったか」
そうだ。
轟禅との戦いが始まってから、いや「あの時」に気づいてしまってから俺の中で何かが崩れてしまったんだ。
守るものがない。
何かの為に今の戦いを完遂したい。
そんなものが俺の中で無くなってしまったんだ。
「・・・・・・」
「ふむ、余計な事を言ってしまったか・・・もう意気消沈したか、こうなっては今の貴様と戦っても興が削がれるというものよな・・・」
そう言って轟禅は自分の刀を鞘に納め俺に背中を見せながら山王の陣地へ帰っていく。
「いつでも斬りかかってこい!」そんな事を言うようなその無防備な背中に攻撃する意欲さえも見出せないでいた。
ごめん。
何故か謝っていた。
ごめん、力丸・・・鏡花。
ごめん、五月。
ごめん、朝霞の国よ、みんな。
そして・・・。
ふと、頭にそれが走った。
「待ってるから」そんな言葉を言っていた。
それを言ったのは誰だっただろうか。
「忘れたのか?」
そう問いかけてきた。
「いやでも・・・思い出せないんだ」
「馬鹿、それを忘れたって言うんだよ!」
「そうか・・そうだな」
「・・・俺さ、わかったんだよ」
「何がだ?」
「彼女は今でもあの場所で待っているんだ」
「彼女?」
「あぁ・・・だから行こうぜあの場所へさ」
「あの場所・・・」
「俺も行くよ、後でさ・・・何百年、何千年か後になりそうだけどさ」
そう言って、そいつは光の中に消えていく。
「お、おい、お前名はなんというんだ?」
「俺か、答える必要もないだろ、だってお前は・・・」
光が広がっていく。
その光の中に消えていく人と入れ替わりに誰かがくる。
まばゆい光にさらされて一体誰なのかが全くわからない。
でも表情がうっすらと見えた。
悲しそうにその言葉を言ってきた。
「待ってますから、何・・・ねん・・・」
「八代!」
叫ぶと同時に光の空間は消えていた。
そうか、まだあった。
戦う理由が。
「ごうぜーーーーーーーん!!」
「ぬ!?」
「まだだぁ!!」
その瞳は真っ直ぐに男を見ていた。
終