第十四話
戦歴1500年9月1日
戦いは大方の予想通り激化していた。
敵も味方もお互いを殺し合い、そこには死体が増えていった。
こんな光景を見て悲しくなる。
本当に・・・俺達はなんでこんな事をしているのだろう?
「鏡花!」
第一陣として出陣しようとしていた鏡花を引き留めた。
「武直様・・・?」
「ほらっ!」
鏡花にお守りにと手渡されていた転生石を渡した。
「これは?」
「お守り、きっと御利益あるぞ!」
「・・・ありがとうございます」
鏡花は自分の馬へとまたがりこちらを見た。
「いってきます!」
「あぁ、いってこい!」
鏡花は数十人の兵を引き連れて城を出て行く。
みんなの気合いは十分だ。
さて、あとは・・・。
俺は急いで台所へと向かう。
正直、力丸と迷ったけど力丸は・・・力丸なら恐らくこうするから。
何年も苦楽を共にした戦友だからこそ、あえて聞かなかった。
「あ、五月!」
「武直様?どうしたのですか?」
「ちょっとね、これを渡したかったんだ」
残った転生石を五月に渡す。
渡された石の中では一番大きい転生石だ。
「これは・・・?」
「お守り、持っていてほしいんだ」
「・・・とても、綺麗ですね」
「・・・じゃあ、俺はもう行くから」
「武直様!」
呼ばれた名前。
勢いのままに出ていくつもりだったけどできなかった。
「私は無事を祈ります」
無言のまま立ち去った。
もう戻れないと直感が告げていた。
この道で飯を食って長いんだ。
この先がどうなるかなんて、もうわかっている。
だから・・・。
だから、あがくのさ。
全力でな。
「力丸!」
「おう!」
「守備は任せたぞ、第二陣出撃するぞ!」
「おおおおおぉぉぉぉぉ!!」と雄叫びを上げる兵。
怒号の叫び声と共に、出撃する。
「恐れずに進めぇ、直に武直様も到着される、朝霞の力を見せつけるのだ!」
鏡花のかけ声で戦力を一気に集中させ、山王軍を押す。
気合いにのまれた山王は数でも軍力でも勝っていたはずなのに押されている。
当然だ、絶対に勝てる余裕の勝負と思い戦う者達と、後ろにある死を覚悟して全ての力をぶつける者達。
差が出るのは当たり前だ。
「鏡花様!」
「どうした!?」
「たった今、武直様率いる第二軍が進行を開始したとの知らせを聞きました!」
「ご苦労、ご到着されるまでここを死守しようと思うな、さらに押すのだ、朝霞はここにあるぞ!」
鏡花と共に気合いをのせる兵達。
その大迫力の前に山王軍はたじろぐばかりだった。
「おりゃぁ、朝霞をなめるなぁ!」
「うおおおおお!!」
事実、この進軍力は異常だ。
数でも力でも劣る朝霞が山王を押している。
人と人との団結力はこうまで力を、こうまで奇跡を起こすのか。
その時まで誰もが疑わなかった。
パーン・・・・・・パンパンパンパーーーン・・・・・・・。
何発かの銃声が戦場と化している平原にこだました。
「山王め、種子島なぞ出しおったな!」
「卑怯者めっ、武士なら刀で勝負せんかぁ!!」
銃声に負けずに、兵達は気合いと共に山王を押していた。
一人をのぞいて・・・。
「・・・・・・」
「これはいけますね鏡花様、武直様も加われば一気に朝霞は山王を攻め落とせるかもしれませぬぞ!」
「勝とうぜ、朝霞は勝てるんだ!!」
「・・・・・・」
「ねぇ、勝てますよね鏡花様、・・・鏡花様?」
「・・・・・・」
少女は兵の問いかけに答えなかった。
答えぬままに、少女は乗っていた馬から転げ落ちた。
「か、鏡花様!?」
側近の兵が数人気づいたのか鏡花の前に立つ。
「・・・・・・」
「そんな・・・まさか・・・さっきの種子島が!?」
「嘘だ、鏡花・・・様・・・」
「ま・・・て・・・」
意識も絶え絶えに鏡花は動揺する兵を止めた。
心臓近くを弾が貫通した。
出血も今もなお止まる事がなく出続けている。
「この・・・事は・・・ゲボッ・・・」
「喋らないでください、鏡花様・・・今、応急処置をします」
「たけなお・・・様に・・・ほかの・・・ゴボッ・・・ハァ・・・へいには・・・」
「おい、早く包帯持ってこいってんだよ!」
まだ前線で戦っている兵達はこの事実を知らない。
それで良いのだ。
この瞬間に指揮官の不在を知ってしまったら乱れが生じる。
この事は、側近数名のみで隠された。
「武直様が来るまで持ちこたえろー!!」
側近の一人が代わりに指揮をした。
兵達は勢いにのり、再び一発の気合いと共に戦をした。
終