第十三話
戦歴1500年6月30日
今まで忙しくてお互いに会うことができなかった俺と朝霞姫は久々に会う事になった。
五年前を最後に行かなくなったあの場所を約束の地として。
「・・・・・・」
そこに着くと爽やかな風が体を通り抜ける。
朝霞姫は石に座り太陽を見ていた。
「さすがね、武直・・・息切らしてないわね」
「姫様こそ、お体は丈夫なようで」
「あら私は凄く疲れたわ」
「あはは」と、姫は汚れを知らなかったあの日のように笑っていた。
「ねぇ、武直・・・貴方にだから本音で話したいの、良いよね?」
「どうぞ、俺は全てを受け止めるだけですよ」
「私ね・・・もう疲れちゃったんだ・・・この理想を貫き通す事を」
「・・・・・・」
「もう来るべき最後の戦いで朝霞は終わるわ・・・いくら素人の私でもそれはわかるの・・・辛いのよっ、もう駄目なのに、もう終わるのに、みんな、みんな・・・諦めてないの・・・私が掲げちゃった理想を実現させようって、みんなが生きている・・・私はどうすれば良いの武直・・・もう無理だよ、私には・・・」
今まで、本当に今までため込んでいたものがはき出されたのだろう。
全ての重圧をこの小さな女の子の体が受け止めていたのだ。
辛くないはずはない、苦しくないはずはない。
「大丈夫だ!!」
俺はあえて発声でもするかのように大声で言った。
「武直・・・?」
「俺は負けない、絶対に負けない、何がなんでも負けない、俺が唯一負けるのは女将さん女房になった姫だけだ!」
「・・・・・・」
言っていて恥ずかしくなった。
この言葉を聞いていたのが朝霞姫だけだったのが救いだ。
「・・・ぷっ・・・あはははは!!」
「って、姫!?」
「だって武直、あはははは」
良かった姫に笑顔が戻った。
それからしばらく大笑いを続けていた姫が落ちつくのには時間がかかった。
「ありがとう、武直」
「ん?」
「おかげで少しは楽になった」
「そうか」
「ごめんね、前線で命を賭けて、がんばっているのは武直だって同じなのにね」
それから二人で話をする事もなく同じ景色を何時間も見続けた。
「そうだ、武直」
「なんですか?」
「今なら、あの石取れるかな?」
「石?」
「そうあの青い石!」
思い出した、そういえばそんな石があった。
俺は刀でガリガリといじってみた。
すると石は簡単に抜け落ちた。
「取れた!」
「本当に?」
二人で青い石が取れた事を子供のように喜んだ。
「武直、知っているこの石」
「え、何かあるんですか?」
「この石はね、転生石って呼ばれている石なんだって、この石は一種のお守りみたいなもので嘘か誠かはわからないけどこれを持って死ぬといつの日か転生する事ができるんだって」
「はぁ、なんとも嘘っぽい話ですが・・・」
「良いの、そういう言い伝えって信じる事に意味があるの!」
はぁ、姫様のこういう乙女なところはいつになっても治っていないな。
「じゃあ、一つしかないですし、姫様が持っていてください」
「え!?」
「姫様に死なれては誰が私達の理想を叶えるのです?」
「嫌だ!」
「何を?」
「転生したとしてもその世界に武直がいないのなら私は転生なんてしたくない!」
「そんな事を言っても・・・石は一つしか無いわけですし」
「それなら、えいっ!」
姫は転生石を埋まっていた石に叩きつけた。
粉々になってしまうかと思ったが案外頑丈で、半分残っているのが一個、3割が一個、あとは1割ずつが2つになった。
「あらあらあら、せっかくの転生石を・・・」
「4つになってしまったわね」
「どうするんですか、効果が失われてしまったら」
「良いのよ、どうせ4つになってしまったんだから誰かに渡してあげよう」
「なら一番効果がありそうな半分のやつを姫様が持っていてください」
「え、それなら武直が持っている方が・・・」
「姫様、これ以上の我が侭は許しませんよ!」
そう言いくるめて無理矢理納得させた。
「じゃあ、あとの石は私が渡します」
「お願い、あ・・・絶対に武直は持っていてね」
「承知しています」
辺りも夜になりかけている。
夕暮れで赤と黒の空が彩っていた。
山道を降りようとしたら姫様がぽつりとつぶやいた。
「結婚石にできなかったね・・・」
その言葉を背中で受けて、無言のまま山を降りた。
終