第十二話
まだ戦いなんて知らなかった無垢な瞳。
まだ血に染まる事がない汚れ無き手。
それは小さな小さな幼き時代。
この汚れを保てぬまま、少年と少女は大人へと・・・。
「こらぁ、たけなおー、おそい!」
「はぁはぁ・・・姫さまは足が早いんですよ」
少し山道になった道を進む子供達。
幼き日の朝霞姫と武直である。
「ほらぁ、ここにきてみて、私のとっておきのばしょなんだ!」
「うわぁ・・・」
山道を登りきるとそこには一面の花畑があった。
何より凄いのはそこからの景色。
朝には太陽が、夕方には夕焼けが、夜には月が一望できる。
正に姫様が遊ぶにふさわしい汚れ無き聖域。
「どう、たけなお?」
「すごいです、姫様」
「それにね、とっておきはこれだけじゃないんだよ!」
「まだ、なにかあるのですか?」
見ると一つだけ、椅子に座るには丁度良いくらいの大きさの石が地面に刺さっている。
「ほら、ここみて」
「はい」
見るとその石の中には青く輝く不思議な石があった。
「きれいでしょー」
「はい、とっても!」
「でもね・・・この石ね、とれないの・・・」
「どれ、かわってください」
小さな小刀を抜き出し、その青い石を割ってみようとする。
が、先っぽの方が当たるだけで石を割るには到底無理だった。
「だめですね、もっと大きな木槌かなにかで外側の石ごと割らないと・・・」
「そっか・・・、じゃあね、その石ね、いつかたけなおにもらうんだ」
「えぇ、ぼくにですか!?」
「うん、たけなおが・・・その石をもっていつか私のまえにきてくれるの」
「はい」
「そして私をおよめさんにしてくれるの!」
「えぇ、ぼくがですか?」
「うん!それでね、たけなおが私にその石を贈ってくれるのよ」
なんて恥ずかしい事を姫様は・・・その言葉が恥ずかしかったのは、僕がまだ若かったからか、姫様が若すぎたからなのか。
でも・・・姫様をお嫁にもらう、そんな夢を僕は持っていた。
まだ何も知らない僕らはそんなどこにでもある夢を叶えたかっただけなんだ。
それから時は流れ戦歴1495年。
朝霞の国はそれまで国を治めていた朝霞王が戦線を離脱し、朝霞姫が頭首になる。
そして俺自身も戦禍の中へと身を委ねていってしまう。
「うわぁ、あいつは朝霞の武直だぞ、退けー!」
「殺されるぞー!!」
俺は敵の軍の兵を容赦なく斬り殺していた。
戦場に出て一人でも多くの敵を殺す事が朝霞の為になるのだと信じていた。
それに俺はそう教育されてきた。
ある時、俺は朝霞姫に呼ばれて一人、王族の間へと向かった。
「武直、貴方の噂はよく聴いていますよ」
「はい、姫様」
しかし、その姫の顔はどこか悲しく映った。
「武直・・・、貴方は人を殺すのが良い事と思いますか?」
「それはわかりません、でもそうする事が朝霞の為だと信じています」
「・・・、武直・・・私は・・・人を何も考えずに殺す貴方を見たくないのです」
「何も考えていないわけではありません、朝霞の為を思って・・・」
「それが何も考えていないのです!」
朝霞姫はめずらしく声を荒げて感情をむき出しにして叫んだ。
「貴方はずるいわ・・・武直・・・」
「ずるい・・・?」
「だってそうでしょう・・・そう教えられたから人を殺すなんて、しかもそれになんとも思っていないなんて・・・そんなの人間がする事なの・・・」
「姫様・・・」
「殺すな、とは言いません・・・でもね、目標を持って、貴方の力はただの暴力です、その力を流されるままに使わないで・・・」
ただそう教えられたから敵の兵は全て悪だから、だから敵はみんな殺せ。
そうやって教えられてきた、だから殺してきたのに姫様は間違っていると言う。
「武直」
「はい」
「私、朝霞が命じます」
「はっ!」
「弱き者を守る強き国へ、この国をこの理想実現を果たす為に一緒に戦ってください」
「弱き者を守る強き国・・・」
「はい、だってそうでしょう・・・同じ母なる大地から生まれた我々が憎しみあい、疑いあい、そして殺し合う事なんてしてはいけないのよ・・・私達は信じる国を創りましょう!」
「信じる国を・・・?」
「私の言う事はただのきれい事なのかもしれません・・・でもね、そんな馬鹿みたいな理想・・・実現したいと思わない?」
姫は涙を流した。
誰にもその涙を見せたことがなかった姫様が。
人間を争いがない国へと導くために・・・そんな夢みたいな理想を追いかける戦いが始まったのだ。
終