第十話
いつものように目が覚める。
さすがにもう慣れた感覚だった。
今日も暑い・・・汗をびっしょりとかいている。
いつものようにシャワーで汗を流す。
いつものように学校はさぼりだ!
ひとしきり落ちついたところで夢の内容を整理していた。
今回の夢は主に「高城五月」の事が多かった。
・・・だが、それだけだった。
鏡花の事は偶然にも近場にいたわけだが、高城五月に関する事はまったくわからない。
思えば鏡花の時も不思議な感覚に襲われ、その違和感の正体を御剣さんに見いだした。
と、いう事はこの高城五月も何かの違和感というか感覚でわからないものか。
ふと、その違和感というものを思い起こすと一人の少女に思い当たった。
同じ学校の下級生「姫路八代」・・・いや違うな。
確かに彼女も違和感というか不思議な感覚を持っていたが、なんというか高城五月の感覚とは違う気がする。
そう考えると高城五月に関する答えはなんのヒントもなく真相はわからなかった。
わからないものは仕方がない、昨日明らかに様子がおかしかった御剣さんを探してみるか、具合を見ながら何かヒントはないか聞けるものなら聞いてみようと思った。
あの喫茶店にいないかと思って足を運んでみた。
予感は的中、彼女は前と同じあの場所で座っていた。
見た目体調も前よりも良さそうだった。
「や、元気?」
「君は・・・!?」
「具合は良くなった?」
「うん、大分ね・・・」
そうは言うがやはりまだどこか弱々しい印象が目についた。
「私ね、川崎君・・・わかったの」
「え、何が?」
「私は鏡花なのね・・・そうなんでしょう、川崎君・・・いえ、て・・・」
「ちょっと待て!」
御剣さんの言葉を遮った。
「その先の言葉・・・何を言おうとしたんだ?」
「え、だって貴方は・・・」
「俺が天崎武直だって言いたいんでしょ?」
「違うのですか?」
「違うのですか、なんてそんな口をきかないでくれよ、俺も確かに天崎武直は知っている、でも俺は天崎武直なんかじゃない!」
そうだ、俺は天崎武直じゃないんだ。
だって夢の世界では俺は傍観者で第三者で・・・。
御剣さんとは視点も全く違っていて。
「それに御剣さんだって、そんな簡単に自分を鏡花だなんて少し軽率な考えなんじゃないですか?」
「そうかもしれないわね、でもなんでかしら・・・時間が経つと何故かわかってくるの」
「何をですか?」
「私が鏡花だって事を、時間と共に鏡花と御剣華織の意識と体が元に・・・いえ融合していく感覚がわかるの」
「融合って・・・」
そんな融合なんて非現実的なものを信じろっていうのか?
こんな現代科学があるこの時代にそんなものを!?
ヒントどころか頭がこんがらがって嫌な気持ちだった。
その日は御剣さんと別れた。
俺はとある保育園の前に立っていた。
「そういえば・・・」
「何かしら?」
「御剣さんは高城五月の事を知らないですか?」
「知ってるよ、貴方が通っている学校があるでしょ?」
「えぇ、つーかなんで俺の学校を知ってんの?」
「この近場にある学校なんて一つしかないでしょ」
確かにそうだ。
「近くに保育園があるはずです、そこにいるわよ」
「保育園・・・なんでまた」
「あぁ、そこから先は貴方が行ってみて判断して」
「そうする」
30分ぐらい前の会話だった。
そして俺は保育園の前にいる。
ここに高城五月がいるのか・・・。
なんか有名人にでも会うかのような緊張感がある。
別に有名人でもないんだけどな。
「すみません、ここに高城五月さんいますか?」
保育園のおばちゃん先生に尋ねてみる。
「高城五月?あぁ、さっちゃんね、いるわよ~呼ぶ?」
「はい、お願いします」
さっちゃん?
なんてベタな・・・。
なんて思っていると高城五月さんが顔を出した。
「お待たせしました、私に何かご用ですか?」
見ると俺とそう歳も変わらない・・・てか多分年下かな。
夢の中の高城五月と目の前にいる高城五月は印象から雰囲気までそっくりだった。
間違いない十中八九この人が高城五月だ。
「高城五月さんですよね?」
「・・・!?貴方は一体・・・?」
「良ければお話を聞きたいんですけど大丈夫ですか?」
「はい、もうそろそろお仕事も終了なので待っていただければ」
「わかりました、待ちます」
それから程なくして高城五月は出てきた。
話場所としていきなり初対面の女性を部屋に招くのも変な誤解を生むのでいつもの喫茶店へと場所を移した。
「意味わからないかもしれないですけど、単刀直入に聞きます・・・貴方は夢を見ますか?」
「はい、見ますよ」
「その夢の内容って・・・」
「世界が平和になった夢です」
「はい?」
「世界から争いが無くなってみんが平和に過ごしてる夢なんですよ!」
むしろ意味わからなくなったのはこっちだった。
シリアスにしようとした雰囲気は一瞬でぶち壊された。
「じゃあ私からも単刀直入に聞きます、それは朝霞の国の事でしょう?」
「・・・!?」
ずばり確信をつかれた。
しかもシリアスな雰囲気をぶち壊してくれたかと思ったらいきなりシリアスにしやがった・・・この人・・・。
「ずばり言ってそういう事です、高城五月さん」
「違います」
「え・・・!?」
「私は確かに、たかしろさつき、ですけど字は鷹城皐月ですよ」
「いや驚いたな、夢の中と同じ名前なんて・・・字が違うけど」
間違いないこの人は何か知っている。
この意味不明な夢の内容、そして夢の世界の人間と現実の人間の接点、何かがわかるような気がする。
そろそろこの奇怪な物語から決着をつけよう。
そう決心した。
終