表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/86

開戦のヴォカリーズ(8)

「あんたがニヤニヤしてるとこ、珍しいな」

 嫌味ではないことは承知しているが、私は唇を引き締めた。

「目黒先生から聞いたんやけど、昨日、目白先生とええムードやったらしいな!? 若いって最高やな、ヒューヒュー!」

 これだから、公務員は暇な職業だと誤解されるのだ。加えて、トレンディドラマと熱血教師ドラマに振り回されている。目黒先生も同罪である。分身をカメラ小僧のように使わないでいただきたい。

「音楽室で語らってたんやろ。池袋先生が仲人(なこうど)やな! 俺で良かったら、新郎の父代わりするで!!」

「違います。教職とジゲン研究で、結婚を考える余裕がありません。それに」

 田端先生が唇を窄めて、こちらを向いた。

「同僚に恋愛感情を抱くなど、有り得ない」

 職場内で交際・結婚するなと他人に強制するつもりはない。法律で禁じられておらず、私に人の仲を采配する権限は皆無だ。

「けっ、おもんないな」

 期待外れで、結構だ。他の先生同士を想像でくっつけて遊んでください。

「自覚してへんようやけど、あんた、モテモテなんやぞ。幅広い年齢層に好かれて、ずっこいわ」

「奥さんが聞いたら、嘆かれますよ」

「俺は万年、三枚目かマスコットキャラやでー。あとな、オタク系の中でもアングラな子らに、カリスマ扱いされるんや。世界はドアホやな、俺こそがイケメンのイデアやねん、名前が出也(いでや)だけにな!!」

 もうじき珊瑚婚式のあなた、話を聞きなさい。金婚式の記念品を役所からもらうことが、夢ではなかったか。

「まあ、だまされたと思って、結婚してみ? そら責任は増えるけどな、一緒に飯食うて、なんでもかんでも分け合うのは、けっこうカッコウ楽しいもんやで!」

「……今後の参考にします」

 田端先生が私の肩に腕を回した。その太さは、学生時代に野球部で鍛え抜かれた事実を物語っていた。

「俺んとこにはおらんけど、子どもとか孫できたら、毎日が祭りらしいで?」

 子ども、か。あまり私を継いでほしくないな。鄙びた容貌、無駄に身長が高い、妙な部分が生真面目で、話がつまらない。確実に損をする人生を送るだろう。私は、身ひとつで足りている。

「そうや、子どもで思い出した! 来週入ってくる留学生は、あいつの息子やで」

 丸刈り頭の上で、先生は親指と人差し指をこすりだす。「あいつ」の特徴を伝えようとしているのだろうか。

「どなたですか」

「そこは当ててくれへんか。クロエ先生や」

 指で縮れ毛、つまりパンチパーマを表現していたのか。いや、着目すべき所は……。

「目黒先生のお子さんですか」

「聞いてへんかったんか? 先生が会議で言うてたやろ。名字はちゃうけど、れっきとした息子やってな」

 跡見さんからの情報を反芻する。留学生がジゲンⅠに隠していたゲートを持ち出したと仮定して、命令した者がいたのならば。

「どないした? めっちゃキツい顔してんで」

 飛躍するな。民を第一に考える目黒先生が、国を混乱させる暴挙に出るか? わざわざゲートを暴走させてまで、幸福な未来を得ようとするか?

「王子やからって、ピリピリせんでもええぞ。普通に接したりや」

 留学生から直に聞いた上で、目黒先生に問うか。生徒を十年程見てきたのだ、嘘をついているか否かを読み取れる。どうやら彼は私に興味があるらしい。好都合だ。

「帝王学の一環でしたよね、ほどほどに対峙しますよ」

「頼もしい副担や!」

 士気を高めた私達へ、DJのダンディな声が飛び込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ