激動のヴォカリーズ(checkmate)
「さて、弟よ。わし達も、そろそろ旅立とうぞ」
クロエ王が、シロエを押し上げた。アレテ王子が助けに入り、シロエは玉座に座らされた。
「某の創るジゲンに、ようやく賛同し給うたか」
「皆が白き体を持つジゲンかのう?」
ふはははは! クロエ王は高らかに笑った。
「童の遊びじゃな。体の色を同じくすれば平等な世になれる、じゃと? 比べ合いは、終わらぬぞ。体の大きさ、財産の数、力、知恵……残念じゃが、おぬしのやり方では叶わぬぞよ」
クロエ王はジゲンⅢでの姿に変化し、自身の胸を親指でつついた。
「心、じゃ。心のありようを皆で改めねばならぬ」
「綺麗事を。いつ実るか分からぬ不毛な方法で候」
「確かに、今日・明日ではできぬ。しかしのう」
シロエ、アレテ王子、それぞれの体のど真ん中を、クロエ王は軽く触れていった。
「ここの根っこにある『皆が幸せに生きるために何をすれば良いか』は誰もが持っておるのじゃ。皆が歩みを揃える日が必ず来ると、わしは信じておる」
「貴公の代では成し遂げられぬ。継がせるのであろうか。在位のうちに、理想のジゲンにするが、王の務めなり」
「独りで推し進め、全ジゲンに理想を押しつけたそなたに冠は譲れぬのう」
クロエ王はアレテ王子に肩を組ませた。
「そなたの従者や同志は、分身じゃろ。それからアレテは、呪いにより、そなたの『優しさ』を引き離して成した存在なんじゃろう?」
アレテ王子は、生みの親と育ての親とを見比べた。
「なぜ、知っておる」
「弟を理解したくてのう、呪いについて学んでおったのじゃ」
シロエは安堵の吐息を漏らした。
「某が弱き所を、捨てたつもりであった」
「じゃが、逞しく育っておって、度肝を抜かれたんじゃな?」
「左様也、兄上」
クロエ王は黒い棒に戻り、シロエの先端に自身の先端を寄せた。
「楽になるのじゃ。そなたの身体は、呪いの多用でとうに朽ちておる。魂も細くなっておるのう」
シロエは玉座に身を横たえた。永きにわたり背負っていた荷を、下ろす時が来たのである。
「アレテは任せよ」
ジゲンⅠのスクエイアの証、黒瑪瑙が王子から王へ飛び移った。直方体の黒瑪瑙が大きくなり、シロエを納めた。
「ー減闘」
黒瑪瑙の棺が玄の炎を発して、シロエを葬る。炭にも灰にもさせず、屍は無となった。
「幾多の戦を終わらせた、父上のひと振り……。貴重な経験をさせてもらったで候」
アレテ王子はクロエ王に最敬礼した。
「この日を以て、わしは王の座をそなたに譲る。スクエイアも……構わぬな?」
「は!」
今度は冠となった黒瑪瑙を、クロエ王がアレテ王子に授けた。
「ロロ殿、アドミニス殿。新たな王に教えてやってくれるかのう。スクエイアの務めを」
呼ばれた二人は先王に快く返事し、若き王と城を後にしたのだった。




