激動のヴォカリーズ(castling)
初めてつながりの塔を見た者は、たいてい「新興宗教の建物か」と怪しげな印象を持つ。形が独特なせいだろう。私は、おでんの具に喩えている。先ほど私達が合流した場所が正方形のはんぺん、一階エントランスホールである。そこから伸びる太いちくわぶは、螺旋階段とエレベーターを覆っている部分だ。ちなみに、ちくわぶには、上から黒・黄・緑・青の順に各ジゲンを表した輪が嵌っており「全てのジゲンと命のつながりよ永遠なれ」と願いがかけられている。ちくわぶの上は円いひら天、二階展望台である。その上にゴボ天の牛蒡、頂上にはピラミッド形のこんにゃくが据えられている。
ジゲンゲートは、つながりの塔の頂上にて開かれている。普通に訪れた者は、展望塔までしか入れない。ジゲンⅢ以外の住人は、飛ぶなり跳ねるなりして故郷あるいは別のジゲンヘ移動するのだ。
「前はスクエイアの証が道を作ってくれたんだが」
二人不在のため、その手段は使えなくなった。
「わたくしめに、おまかせを!」
私に左手を、目黒くんに右手を差し出し、つなぐよう促した。
「カント・ハレシテヨ・ニチカ」
足が、展望台の床を離れ、窓ガラスへ引っ張られる。水の壁をくぐるようにガラスを通り抜け、私達はゲートまで釣り上げられてゆく。
「筋力を一時的に高めずとも、軽やかに飛べる。マホーは優れた技術に候」
「技術に見えますが、心によるものでございますよ」
オレンジのような夕日を受けて、ロロの瞳が輝いていた。
「呪文に、思いを乗せるのです。アレテ様と坊ちゃんをゲートへ送り届けさせてください、と」
ピラミッドの前に、立った状態で止められた。ジゲンⅢに唯一残ったゲートは、つながりの塔の頂点そのものだったのである。
「呪いの源は、願いを叶えたい強い意志で候。マホーと相通じている」
ロロは目を細めて、頷いた。
「まいりましょう」
私達は灰色のピラミッドへ入った。




