激動のヴォカリーズ(11)
早くもカリスマ性とリーダーシップを発揮している。目黒くんが学年をまとめ上げるところが、容易に想像できた。
「ケマルス殿は、ジゲンⅡ文字の早見表を、カシカク殿は、地図を用意するで候」
ジゲンⅡの留学生達が、各々、サフランイエローの紙を合唱部グループへ見せた。
「めっちゃ気が利くじゃん」
上汐さんを、一組の留学生が鼻で笑った。
「当然だ。貴様、この行事の目的を知らず、遊び呆けているのか?」
「何それ、普通に楽しんでたら悪いってわけ?」
売り言葉だと解釈した上汐さんが、留学生へ詰め寄る。血の気が多い地域柄ではあるが、面倒事を起こさないでくれないか。
「上汐殿、スラカ殿、そこまでにし給え。和やかな場を台無しにしてはならぬ」
「目黒くんが言うなら、しかたないな」「お見苦しき所を」
生まれ持ったものか、帝王学で身につけたものか。彼は、人に「従おう」と思わせる話し方をする。
「皆、某の早見表とジゲン地図を使い給え。問いにある国名は、是非訪れてほしき所にて候」
詰襟のポケットに手を入れ、四つ折りにされた薄墨色の紙を二枚取り出した。
「吾が祖国の字は、触れて読む。光が少なき環境ゆえ、視覚に頼らぬ方法をとったのだ」
ジゲンⅠの留学生、スラカさんは説明をしつつ、森ノ宮さんの手首を気にしていた。
「あ、これ? ミサンガだよ。ジゲンⅢでは、願いを込めて編んで、一緒に叶えたい人達とお揃いでつけるんだ。今年の全国合唱コンクール、地区大会に優勝しますようにって」
「吾が訊きたいのは、物についてではない。紐の色だ」
鼻や頬をこするスラカさんへ、上汐さんがいやらしい笑みを浮かべてそばへ来た。
「ミントグリーンと、レモンイエローよ」
「そうか……」
「あんた、きれいだなーって思ってたんだ。素直に言えばいいじゃん」
スラカさんが唇をへの字に曲げた。
「あんまり光が差さないジゲンなんだっけ? 明るい色がいろんな所にあって、新鮮なんだよね? おしゃれしてみたいんでしょ」
「王都より賜った物で、充分だ」
上汐さんはため息をついて、結んでいたミサンガを解き、スラカさんへ付けてあげた。
「貴様の大切な物ではないのか?」
「後で作れるし。甘えときなって」
スラカさんの耳へ、上汐さんが何かを囁く。
「か、からかうな……」
おそらく「王子に褒めてもらえるかもしれない」など言ったのだろう。恥ずかしがっている理由が他にあるならば、私に一報いただきたい。
「このジゲンに住んでいる娘は『おまじない』が好きなのだな」
「あんたのとこも変わらないでしょ。恋を叶える白いゼムクリップ!」
森ノ宮さん達が「そうそう」と声を重ねた。
「そのおまじないだが、留学して初めて聞いた。最近、祖国のおまじない大全を確かめたが、どこにも載っていなかったのだ」
頼む、合唱部グループよ。スラカさんへ詳細を聞き出してくれないだろうか。




