表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/86

激動のヴォカリーズ(11)

 早くもカリスマ性とリーダーシップを発揮している。目黒くんが学年をまとめ上げるところが、容易に想像できた。

「ケマルス殿は、ジゲンⅡ文字の早見表を、カシカク殿は、地図を用意するで候」

 ジゲンⅡの留学生達が、各々、サフランイエローの紙を合唱部グループへ見せた。

「めっちゃ気が利くじゃん」

 上汐さんを、一組の留学生が鼻で笑った。

「当然だ。貴様、この行事の目的を知らず、遊び呆けているのか?」

「何それ、普通に楽しんでたら悪いってわけ?」

 売り言葉だと解釈した上汐さんが、留学生へ詰め寄る。血の気が多い地域柄ではあるが、面倒事を起こさないでくれないか。

「上汐殿、スラカ殿、そこまでにし給え。和やかな場を台無しにしてはならぬ」

「目黒くんが言うなら、しかたないな」「お見苦しき所を」

 生まれ持ったものか、帝王学で身につけたものか。彼は、人に「従おう」と思わせる話し方をする。

「皆、某の早見表とジゲン地図を使い給え。問いにある国名は、是非訪れてほしき所にて候」

 詰襟のポケットに手を入れ、四つ折りにされた薄墨色の紙を二枚取り出した。

「吾が祖国の字は、触れて読む。光が少なき環境ゆえ、視覚に頼らぬ方法をとったのだ」

 ジゲンⅠの留学生、スラカさんは説明をしつつ、森ノ宮さんの手首を気にしていた。

「あ、これ? ミサンガだよ。ジゲンⅢでは、願いを込めて編んで、一緒に叶えたい人達とお揃いでつけるんだ。今年の全国合唱コンクール、地区大会に優勝しますようにって」

「吾が訊きたいのは、物についてではない。紐の色だ」

 鼻や頬をこするスラカさんへ、上汐さんがいやらしい笑みを浮かべてそばへ来た。

「ミントグリーンと、レモンイエローよ」

「そうか……」

「あんた、きれいだなーって思ってたんだ。素直に言えばいいじゃん」

 スラカさんが唇をへの字に曲げた。

「あんまり光が差さないジゲンなんだっけ? 明るい色がいろんな所にあって、新鮮なんだよね? おしゃれしてみたいんでしょ」

「王都より賜った物で、充分だ」

 上汐さんはため息をついて、結んでいたミサンガを解き、スラカさんへ付けてあげた。

「貴様の大切な物ではないのか?」

「後で作れるし。甘えときなって」

 スラカさんの耳へ、上汐さんが何かを囁く。

「か、からかうな……」

 おそらく「王子に褒めてもらえるかもしれない」など言ったのだろう。恥ずかしがっている理由が他にあるならば、私に一報いただきたい。

「このジゲンに住んでいる娘は『おまじない』が好きなのだな」

「あんたのとこも変わらないでしょ。恋を叶える白いゼムクリップ!」

 森ノ宮さん達が「そうそう」と声を重ねた。

「そのおまじないだが、留学して初めて聞いた。最近、祖国のおまじない大全を確かめたが、どこにも載っていなかったのだ」

 頼む、合唱部グループよ。スラカさんへ詳細を聞き出してくれないだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ