激動のヴォカリーズ(10)
「次は、鶯谷先生ですよ!」
とうとう椅子を離れなければならないのか。全部、目白先生に任せたかった。生徒には秘匿するが、隠し題の和歌は数種用意されているのだ。後のグループが、考えもせずに正答することを防ぐためだった。
「国名と地名の読み方を書いてもらうぞ。五問中三問以上正解したら、クリアだ」
A4用紙を一枚、生徒達に渡す。定期テストのサービス問題として毎回出している、国名漢字クイズをアレンジした。四人いるのだ、文殊菩薩を超える知恵が浮かぶのではないか。
「え、四つ目なんなの?」
「点字ぽいんだけど」
「最後のは、音符みたいじゃん」
「ダニー狂ってる」
意外にも早く見つけられた。当イベントは「ジゲン間交流」が目的だ。ジゲンⅢ以外の言語を、覚えて帰ってもらおう。なお、ダニーは私を指している。
「授業で時々教えてきたが、あまり聞いていなかったようだな?」
知るかおっさん、と四人は顔で示してくる。歌だけでなく表現力も練習しているようだ。
「点字のように突起が付いている方は、ジゲンⅠの文字、音符に似ている方は、ジゲンⅡの文字だ。各ジゲンの国名を書いている。全問正解したら、大したものだぞ」
確実にスタンプを得たいのなら、漢字の三問を当てれば良い。ジゲンに関心があれば、残りの問題にも挑んでもらいたい。
「その問い、某らも解かせていただかん」
白い詰襟が、スタンプシートを提示しながら現れた。
『キャー、目黒くん!』
合唱部グループは肩を寄せ合い、転入生に熱烈な視線を送っていた。
「無礼者、王族の前だぞ」
側にいた同じジゲンの留学生を、目黒くんは制した。
「止めよ。某は、一留学生にて候。上下などあらぬ」
「あの……目黒くんは、三組よね? 他の組のお友達とグループを作ったの?」
恐る恐る訊ねる目白先生へ、彼は堂々と答える。
「開催前のご説明では、必ず同じ組の方とグループを編成すること、とは伺っておらぬで候。若し誤っておるならば、直ちに改めむ」
一組の留学生と、ジゲンⅡより来た二組と四組の留学生も頷いた。
「そこまでしなくても大丈夫よ。私達がもっと丁寧に言わなきゃいけなかったんだわ」
「忝い」




