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激動のヴォカリーズ(8)
ありと見て たのむぞかたき
うつせみの 世をばなしとや 思ひなしてん
「この和歌には、ある言葉が隠れています。五分あげますので、答えが分かった人は手を挙げてください。なお、この和歌の技は、『隠し題』といいます。そのままよね」
なかなか趣向を凝らしている問題だ。暗号の解読に近く、この年頃の子が興味を持ちやすい。
「ヒントは、秋の七草です。アリや、セミではありません」
ありがちな誤答を先に封じておいたか。目白先生は牽制のつもりだったのだろうが「スタンプをもらって!」と請うているようなものだ。
「秋の七草?」
「この前、聞いたような気がする」
「なんかさ、めっちゃ昔の和歌、先生が黒板に書いてなかった?」
「いっぱい和歌が集まってるやつ、万、万なんだっけ」
目白先生が軽く咳払いをした。
「『万葉集』です。秋の七草を詠んだ歌を紹介しました」
隠し題を用いた歌の左隣に、もう一首書いた。目白先生は、サービス精神が旺盛である。




