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進軍のヴォカリーズ(22)

 今も昔も生徒は、教師でゴシップを捏造しては楽しんでいる。AとBがデキている、CとDには確執があって同じ学年の担当NGである、この学校を牛耳っているのはEだ……想像力の無駄遣いも甚だしい。教師で週刊誌記事を作っている暇があるのなら、古語か公式か単語または年号や法則を覚える時間に充ててもらいたい。

「三組はいつにもまして賑やかじゃったの」

 目黒先生が茂った髭を撫でながら、六時限目を振り返っていた。

「聞いたぞよ、昼の廊下を小娘と手を繋ぎ歩いておったのじゃと」

 私の傍らで平積みの文献が傾いだ。ロロがすかさず受け止めてくれたので、惨事を免れた。

「大胆に攻めおったのう、若造。内なる情熱をジゲンだけでなく恋にも注いだか」

 黴が根深く残る研究室に、目黒先生の高らかな笑いが響く。

「事実と異なっています。私は直接、触れていない」

 私の左胸へ、折り紙のハリセンボンが投げつけられた。

(繋いではいたでしょう? 隠し子を介して)

 ハリセンボンから跡見さんの声が発された。昼過ぎよりも冷ややかである。目黒先生の隣で、鋭い眼光を一層尖らせていた。

「それは、わたくしめだと思いますが……」

 恐る恐る手を挙げたロロへ、マイクロサイズのハリセンボンが飛ぶ。

(紛らわしいわ。あなたは、あの女に肩入れしていたのね)

「申し訳ございません。ムードに酔ってしまいまして、つい」

 跡見さんが、イガグリやサボテンを多数ロロへぶつけた。折り紙なので、流血沙汰になっていないが、それらに乗せているメッセージの威力はどうだろうか。

(ウグイスダニもウグイスダニよ。黒板に描かれた相合い傘を消さずに放置して。認めているのと同じ)

「悪ふざけには、無視が賢明だ」

 声を荒らげて叱っては、逆効果だ。ますます笑いの的にされる。

「さて、情報共有しよう。目黒先生、ロロ、跡見さん、私の順に話していくが、構わないか?」

 三人とも異議は無かった。

「わしからは三点じゃ。一つ、ジゲンⅠが保管しておったゲートが持ち出された。犯人については、調査中ぞよ。二つ、ジゲンⅡの教皇が襲われた。危害を加えた者は、わしの弟シロエじゃと部下の報告が上がっておる。教皇については、ロロ殿が説明するじゃろう。三つ、先の話と関わるが、ジゲンⅡの現状についてじゃ。住人は皆、無事じゃ。しかし、大聖堂を含め、各地の図書館が荒らされておった。部下と分身に引き続き見張りをさせておるぞよ。以上じゃ」

 次いで、ロロが教皇の容態と呪いの解き方を説明した。目黒先生より現在のジゲンⅡについて聞けたためか、落ち着いて話せていた。思うところはあるだろうが最後まで待ってもらおう。

(ジゲンⅣにも異変が起こっているわ。最深部に消しゴムのような物が取り付けられていたの。ジゲンⅠのしわざだったわ。風変わりな爆弾よ)

 跡見さんの折った蒼い楓の葉が、メッセージを発して倒れた。私はそれを見届けて、校内で何が起こったか、明後日に登校する留学生について報告した。

「質問ではないが、良いかの」

 目黒先生が堂々と手を挙げた。

「ロロ殿、『逸話篇』に登場した王は、わしの祖父じゃ。討ち取った同胞は、祖父の姉、つまりわしの大伯母ぞ。王族で白き体を持つ者は、武術が不得手な代わりに、呪いを扱えた」

 私はメモの新しいページを開き、ペンを走らせた。ジゲンⅠに迫る絶好の機会である。

「弟も同じ呪いを教皇にかけた。目的は解せぬ。身を隠して逃げ回っておる。大伯母の例を知っておるじゃろう。弱点を克服しておらぬわけがないの」

 目黒先生が手こずるほどの力量を持っている可能性が高いのか。最悪の場合、スクエイア全員で戦わなければならないようだ。

「弟様のお命を奪うのは、おつらくないのでございますか?」

 ロロの問いに、目黒先生は髭に覆われた顎に手をやりながら答えた。

「わし個人としては、割り切れぬのう。じゃが、王としてならば、迷わず切るぞよ」

「王様としてのお気持ちを、選ばれるのですか……」

 目黒先生がパンチパーマを掻いて、苦笑する。

「民が安心して暮らせるジゲンであり続けるためじゃ。ロロ殿も民とジゲンを背負う身になれば、分かるやもしれぬな。自分の中で、何人もの自分の声を聞いてやらねばならぬ時の多さがのう」

 うつむくロロへ、目黒先生は豆粒大の分身を贈った。腰を左右に振りながら激しく踊る分身に、ロロは顔を綻ばせた。

「数百年ぶりに会うのじゃ、積もる話を聞いた上で、わしは混乱の源を断つ。そして、王位を退く」

 一同、耳を疑った。

「弟をここまで追い込んだ原因は、わしにある。身内一人を助けられぬ王は、わしの代で終いにする」

(後継ぎは、明日やっと来る養子? 裏で組んでいるかもしれないのに、あなたは本当に暗君ね)

 蒼い折り紙のトンボが、一頭また一頭と、目黒先生のパンチパーマに突き刺さる。

「仮にあれが加担していたとしても、王を任せられぬ妻子はおらぬぞよ」

 跡見さんは、つまらなそうに目を背けた。

(妙な爆弾だったわ。十一分おきにカウントし直されるの。数字は三桁の数字がランダムに選ばれるわ。回りくどくて、意図が読めないわね)

 爆発までの時間を延ばして、別の目的を成し遂げようとしているのだろうか。

(その気になれば、いつでもジゲンを壊せる。と脅したいのかもね。住人は私だけなのに、あまりメリットが無いわよね)

「ゲートの気配は、常に動いているようです。近づいたと思うと、すぐに遠ざかります。あまりジゲンに影響を与えていなさそうですし……」

「必ずしも、知覚できる形で表れるとは限らぬからのう」

 シロエの行動と、ゲートの暴走を結びつける線は何だ? シロエの実子が、重要なピースとなるだろう。核心に切り込めるタイミングは、明後日だ。

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