進軍のヴォカリーズ(15)
私はゆっくり、音量を0まで下げた。他の先生を真似して、ラジオをかけてみたけれど、お便りの内容があまりに重くて、続きを聞きたくなかった。
長い時間、机に向かっていると息が詰まってくる。私はふらりと散歩しようと決めた。
日当たりの良い廊下に、しとしと雨を降らしている女の子が、目の前を横切った。
「ロロちゃん」
私は追いかけて、肩を叩いた。
「目白先生……」
ロロちゃんは目の周りを赤くさせながらも、にっこりした。
「昨日は、お世話になりました。今朝、お礼を直接申し上げなければなりませんでしたが……」
「気にしないで。お菓子、美味しくいただいたわ。こちらこそ、ありがとう」
ロロちゃんは会釈して、手のひらを私の左手へ向けた。
「お怪我をされたのでございますか? しかも、ひどい……」
包帯にマホーがかかっているのを、見抜いていたのね。
「危ないことをしていた生徒をかばったの。その子はなんともないし、この怪我も早く治るから、大丈夫よ」
嘘をつかないで、だけどロロちゃんをかえって落ち込ませないように頑張った。
「さようでございますか…………」
「体を張って生徒を守るのも、教師のお仕事なの。そして」
私はロロちゃんの手を握った。
「目の前に困っている人がいたら、声をかけるのも」
冷えていたからなおのこと、温めてあげたいわ。
「良かったら、お話を聞かせてくれる?」
ロロちゃんの口が、きれいな縦長のOの字に開いた。どうして分かったのですか? と言いたそうだった。
「袖が、絞れるくらいにびしょびしょだったもの」
私はロロちゃんの手を引いて、国語科準備室へ引き返した。
「予備の制服があるの。ちょっと大きいかもしれないけれど、お着替えしましょう」




